民主法律時報

パワハラ自死事件(損害賠償請求事件)提訴報告

弁護士 川 村 遼 平

1 はじめに

2022年6月20日、上司からのパワーハラスメントや過重労働等によって40代の営業社員が死亡したとして、遺族3名が青森地裁に提訴しました。被告は、青森県内大手のハウスメーカーと同社代表取締役です。

提訴後、担当弁護士2名で青森県庁舎内にて記者会見を行い、2022年4月から中小企業もパワハラ防止法の対象となること、ハラッサー(ハラスメントを行う人)個人の問題ではなくハラッサーが放置されてしまう体制に問題があること等を周知してきました。

2 業務によるストレス

以下では、青森労基署が調査によって認定した事実を紹介します。

(1) 上司からのパワーハラスメント
被災者は、A課長から、日常的に叱責を受けていました。口頭による叱責のほか、ショートメールでも「ばか」「あほ」など人格を否定する内容の叱責を受けていました。

また、被災者は、「症状」と題する賞状様の書面を交付されていました。この「症状」は、支店長や関係会社が参加する新年会において営業成績が優秀であった被災者に対して交付されたものです。内容は被災者の性格や営業手法を揶揄するものです。
労基署の調査の結果、「症状」の交付を企画したのも、文面を考案したのも、A課長であることが判明しました。

(2) 顧客とのトラブル
被災者は、顧客から遊具の設置を求められる一方、A課長から注文を断るように指示されており、板挟み状態になっていました。

労基署の調査で、被災者が会社に黙って遊具の設置費用を自費で負担していたことが判明しました。

(3) 仕事量の変化
被災者の直前1か月の時間外労働は約76時間でした。亡くなる少し前から成約件数が増えたため、被災者の時間外労働は1か月当たり約20時間増加しました。

なお、労基署の調査では、休日にも顧客から担当者個人の携帯電話に着信があれば対応を余儀なくされること、退勤後も自身のノートパソコンで資料作成などの持ち帰り残業をしていたことが判明したにもかかわらず、具体的な証拠が無いなどとして、労基署はこれらの労働時間を度外視しています。

(4) 全体評価
青森労基署は、上司からのパワーハラスメントを「強」、顧客とのトラブルを「中」、仕事量の変化を「中」と評価し、全体評価を「強」としました。

3 原告(遺族)のコメント

記者会見で読み上げた原告(被災者の妻)のコメントの一部をご紹介します。
「注文住宅は、お客さん一家の幸せや夢が詰まった場所です。そういう商品を販売している会社なのに、自分たちの社員に対して長年パワハラを続けていたことがとても残念です。お客さんであっても、社員であっても、誰かの大切な家族です。そんな当たり前のことが忘れられてしまっているのではないかと、腹立たしくてなりません。」

4 記者会見後の報道状況等

記者会見後、「症状」の文面がセンセーショナルであったこともあり、本件は大きく報道されています。

本稿を執筆している6月25日現在、本件がどのような推移をたどるのかは依然として不明瞭です。ただ、社会的注目が集まっている本件を通じ、パワーハラスメントが無い社会に少しでも寄与できるよう尽力したいと思っています。

(担当弁護士は古川拓・川村遼平)

 

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