民主法律時報

守口市学童保育指導員雇止め事件 全面勝利和解のご報告

弁護士 佐久間 ひろみ

1 はじめに

守口市の学童保育クラブで勤務する指導員らが、市から業務委託された共立メンテナンス株式会社(以下「共立」という)から大量に雇止めされ、地位確認等を求めていた事件(以下「本件雇止め」という)について、2022年4月18日、大阪地方裁判所第5民事部(窪田俊秀裁判長)において、原告ら及び守口市学童保育指導員労働組合(以下「組合」という)と共立との間で、和解が成立したので、ご報告する。

2 事案の概要

守口市は、2019年4月から、学童保育事業を共立に業務委託した(期間5年)。共立は、市直営時代の学童保育を承継し、転籍を希望する指導員全員を雇用することを謳って受託事業者に選定されたが、実際には市直営時の保育内容を変えようしたことから、保育内容の後退を懸念する組合員との間にさまざまな対立が生じるようになっていった。

例えば、組合員でもある原告の一人は、2019年4月の受託直後、共立に対し、もともと児童虐待(ネグレクト)が疑われていた児童からの利用申請が出ていないことから、市と協力して緊急に虐待対応すべきという意見を述べた。原告からすれば、これまでも市と協力して対応してきた児童であったため、対応するのは当然であったが、共立は利用申請が出ていないのでうちには関係ないと述べたのである。ほかにも、原告らは、共立に対し、児童らが楽しみにしている行事の実施等について意見を述べることもあったが、共立はこれを反抗的な態度と決めつけ、徐々に組合を嫌悪するようになっていった。

組合を嫌悪する共立は、組合からの団交申入れを拒否したので、組合は2019年9月、大阪府労働委員会(以下「大阪府労委」という)に救済命令を申立てたところ(以下「団交拒否事件」という)、共立は、業務委託開始からわずか1年後の2020年3月末、原告らを含む 名ものベテラン指導員を雇止めした。 名のうち 名が組合員であり、組合役員は全員が雇止めされるなど、この雇止めが学童保育の現場からベテラン指導員である組合員を徹底排除するために行われたものであることは明らかであった。

そこで原告ら9名は、2020年5月、大阪地裁に地位確認等請求訴訟を提起し(本件事件)、さらに同年8月、組合は大阪府労委に不当労働行為救済申立を行った。

3 二度の労働委員会の命令と相次ぐ自治体の入札参加資格停止処分

共立は先行する団交拒否事件の調査期日に欠席を繰り返し、労働委員会を無視する態度に終始し、2020年4月には団交応諾命令が出された。共立は、中央労働委員会に再審査を申立てたが、2021年4月、再審査申立ては棄却された。共立は取消訴訟を提起せず、初審命令が確定し、大阪府をはじめとする府下の自治体及び京都市から入札参加資格の停止措置を受けた。

さらに2021年10月12日、大阪府労委は、本件雇止めについても、①雇止めした組合員らを原職又は相当職に復帰させ、賃金相当額を支払うこと、②組合との団体交渉に応じること、③誓約文の手交及び掲示(ポストノーティス)を命じる救済命令を出した。命令は、有期労働契約が更新される合理的期待を認め、雇止めが不当労働行為であると断ずる組合側の全面勝利命令であった。共立は、中労委への再審査申立も、取消訴訟の提起も行わず、同命令が確定した。

命令確定を受けて原告らと組合は、共立に対し、直ちに職場復帰させることを求めたが、共立は、賃金相当額を振り込むだけで原職復帰は頑なに拒否した。一方、大阪府労委命令により、守口市や京都市において二度目の入札資格停止処分がなされ、特に京都市の処分は命令履行まで解除されない重い処分となり共立が仁和寺前で進めてきたホテル建設計画がストップすることにもなった。

このような中、大阪地裁において、救済命令を踏まえた和解協議が重ねられ、組合も利害関係人として参加して、労働委員会事件を含め全面的に解決する和解が成立した。

4 和解内容と文書の手交の実施

①共立は、雇止めをめぐって紛争となり、訴訟が係属したことのほか、大阪府労委から雇止めを不当労働行為と認める救済命令が確定したことを受け止め、原告らに対する雇止め通知を撤回する。

②2020年3月31日限り、原告らと共立の労働契約が会社都合退職により終了したことを確認する。

③共立は原告ら及び組合に対し、本件命令に基づき支払った既払額を除き解決金7800万円を支払う(既払い金との合計額は約1億3450万円)。

④共立は、組合に対し、大阪府労委が命じた文書を手交する。

⑤共立と組合は、労働組合法の趣旨に則って団体交渉を行うことを約束する。

上記の解決金額は、雇止め後、共立が受託した残りの期間(4年)労働契約が継続した場合の賃金総額(残業代、賞与も含む)を上回る金額である。原告らは、職場復帰こそ実現しなかったが、裁判で獲得しうる最大限のものを大きく超える全面的な勝利和解であり、不当な雇止めとたたかう全国の有期雇用労働者を大きく励ますものであった。

なお、共立から組合への④の文書(いわゆる謝罪文)の手交は、本年4月22日に大阪グリーン会館において実施された。原告ら組合員は、ようやく謝罪文が手交され、感無量といった表情であった。

5 事態を放置した守口市の責任

コロナ禍の最中、ベテラン指導員が大量に雇止めされたことにより、児童がクラブを辞めるなど学童保育クラブの現場では大きな混乱が生じた。しかし、守口市は学童保育の実施者であるにも関わらず、不当労働行為等の違法行為を繰り返す共立に対し指導等を全く行わず、事態の解決に向け努力することはなかった。子どもの発達にとって重要な役割を果たしている指導員を大切にせず、問題を放置し続けた守口市の責任は重大である。

自治体事業の民間委託は全国的に進んでいるが、学童保育のように公益性が高く、企業の利益追求とは相容れない事業を民間委託すること自体の是非が改めて問われなければならない。

6 おわりに

原告らは、記者会見において、職場復帰がかなわなかったことは残念であるが、雇止め通知が撤回されたことで自分たちが指導員としてやってきたことは間違っていなかったと改めて確信していた。共立の大量雇止めは、ベテラン指導員である原告らの自尊心を大きく傷つけるものであったが、今回の勝利和解は原告らの自尊心を回復し、次のステップにつながる内容だと言える。

本件では、民法協及び全国の労働組合、学童保育関係者や保護者をはじめとする地域の方々から、大きな支援をいただいた。雇止めから2年余りでの早期の全面解決は、支援の力あってこそであったといえる。

原告団・組合・弁護団一同、これらの支援に深く感謝するとともに、今後も、より良い学童保育と、学童保育の現場で働く労働者の権利向上のため力を尽くす決意である。

(弁護団は城塚健之・原野早知子・愛須勝也・谷真介・佐久間ひろみ)

 

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