民主法律時報

日本航空(JAL)整理解雇 大阪高裁逆転不当判決

はじめに

 2016年3月24日、大阪高等裁判所第1民事部(佐村浩之、大野正男、井田宏)は、日本航空株式会社による客室乗務員Aさんに対する整理解雇を無効とした大阪地裁判決(2015年1月28日)を覆し、本件整理解雇は有効であるとの判決を言い渡しました。
 大阪地裁判決がいわゆる整理解雇の4要件とされている中の「人選基準の合理性」についてのみ言及し、本件整理解雇は無効であるとしたのに対し、大阪高裁判決は、4要件を「それぞれ検討し、これらを総合的に考慮して判断する」という手法をとりました。

1 大阪高裁の審理・判断

 高裁の判決書「当裁判所の判断」73頁のうち、「人員削減の必要性」は31頁、「解雇回避措置の相当性」は6頁、「人選基準の合理性」は30頁、「解雇手続の相当性」は6頁でした。この分量を見てわかるとおり、高裁判決は、地裁が触れなかった要件のうちの「人員削減の必要性」と、地裁判決が否定した「人選基準の合理性」について詳細に検討した体裁になっています。

(1) 人員削減の必要性
 高裁判決は、控訴人(JAL)が、米国同時多発テロ等のイベント、リーマンショックに端を発した金融危機で多額の営業損失を計上したこと等により、平成21年1月、会社更生手続の開始決定を受けたこと、事業再生計画の中で人員削減による人件費の削減を行なうとされ、平成22年9月末までに「稼働ベース論」に基づいて客室乗務員606名分〈有効配置稼働数(※1)4726名分-必要稼働数(※2)4120名分〉を最終的な削減目標人数と決定し、これを達成するために希望退職者の募集を行なったが目標人数に達しなかったことから、平成22年12月31日、Aさんを含む客室乗務員84名(稼働ベースで60.5人分)を整理解雇した等と認定。そして、本件更生計画案及びその基礎である事業計画は控訴人が事業リスクに対する耐性を高め、二度と破綻しないようにするため、事業の縮小、及び縮小した事業規模に見合った人員体制とするため余剰人員の削減を行なうことを基本方針とするものであり、控訴人が平成22年9月末に決定した削減目標人数(稼働ベースで606名分)は合理的であり、そうであれば、これを確実に遂行すべき必要性は高い等として、「特段の事情のない限り、控訴人が本件更生計画案の可決・認可後に上記人員削減計画を見直してこれを変更する余地はなく、速やかに…人員削減を行なう必要があった」、「平成22年12月31日時点において、…削減目標に対する不足数である稼働ベースで60.5名分の客室乗務員について、人員削減を行なう必要性があった」と結論づけました。

 被控訴人(Aさん)の「控訴人は平成22年12月31日時点における有効配置稼働数を立証していない」という主張に対しては、高裁判決は、「同日時点の有効配置稼働数が、4726名分を下回っていたとしても、…控訴人が本件更生計画案の可決・認可後に上記人員削減計画を見直してこれを変更する余地はなく、速やかに…人員削減を行なう必要があった」として、これを切り捨てました。

(2) 人選基準の合理性
 この点について、地裁判決は、本件復帰日基準の趣旨が、病欠・休職等基準に該当する者であっても、現在乗務復帰している者については、控訴人に対する将来の貢献が期待でき、将来の貢献度が相対的に低いないし劣後すると評価することはできないと考えられることにあるとし、復帰日基準における基準日については、解雇予告通知時に近いできるだけ遅い時点を基準日とするのが合理的であるので、基準日を11月15日(復帰日基準案提示の日)とすべきであり、これを9月27日とする本件復帰基準は不合理として、10月19日に職場復帰していた被控訴人に対し、9月27日の復帰基準を適用してなした整理解雇を無効としていました。

 これに対し、高裁判決は、JAL労働組合と控訴人との協議過程を詳細に認定し、控訴人が復帰日基準を設けたのは、団体交渉における譲歩として、復帰基準日を9月27日とする限度で、JAL労働組合の主張を一部認めてその要求を受け入れたものとし、「病欠・休職等基準の趣旨は、病欠・休職等基準に該当する者について、過去の一定期間において病気欠勤や休職により相当日数労務の提供ができない欠務期間があったことから、病気欠勤や休職をしないで通常の勤務を行なってきた者との対比において、控訴人に対する過去の貢献度が低いないし劣後すると評価し、これによって将来の想定貢献度も低いないし劣後すると評価するというものであり、そのことは合理性を有する」、「現在乗務復帰している者であっても、過去の一定期間に相当日数の病気欠勤や休職による欠務期間があることは何ら変わりがないから、現在乗務しているとしても、そうした欠務期間があった者につきそうでない者に比して将来の貢献度が相対的に低いないし劣後すると評価することを必ずしも妨げるものではない」、「そうすると、『病欠・休職等基準に該当する者であっても、現在乗務復帰している者については、控訴人に対する将来の貢献が期待でき、将来の貢献度が相対的に低いないし劣後すると評価することはできない。』と考えることにも相応の合理性が存するにしても、病欠・休職等基準の上記趣旨と整合しない一面を有することは否定できない。従って、控訴人が団体交渉における譲歩として、JAL労働組合の要求を受け入れて復帰基準を設けるに当たっては、病欠・休職等基準とその例外としての復帰日基準の設定は、異なる価値基準をどの範囲で採用するかの問題であるから、復帰日基準の適用範囲をどの限度で設定するかにつき、裁量の余地が認められる」とし、「本件復帰日基準が基準日を9月27日として復帰日基準の適用範囲を相当程度限定したことについても上記裁量を逸脱・濫用するものでない限り、合理的裁量の範囲内のもの」として、本件復帰日基準は合理性を欠くものではないと結論づけました。

(※1)有効配置稼働数:在籍社 員全体の実労働力について、一定 の換算基準に従い1稼働を単位と する労働力に換算した数値
(※2)必要稼働数:事業運営に 必要な労働力として、通常勤務を することができる1人の社員の労 働力(1稼働)を単位とする数値

2 判決への評価及び今後について

 高裁判決は、解雇の必要性について、必要性の判断時点を解雇時よりも遡らせたこと、立証責任を転換させていることが、人選基準の合理性について、会社の裁量を広く認めていることが大きな問題です。解雇する会社側の事情を懸命に汲み取って、何の非もない労働者の解雇を容認した不当極まりない判決と言うほかありません。このような判断がまかり通れば、更生会社では、整理解雇がほぼ自由にできるということになってしまいます。
 Aさんは、弁護団と話し合った結果、最高裁での必勝を決意して、上告受理申立を行ないました。これまで支援してくださった東京の原告団、弁護団から今後もご意見、ご支援をいただいて、最高裁に挑む所存です。応援よろしくお願い致します。

(弁護団は、坂田宗彦弁護団長、増田尚事務局長、西晃、平山敏也、西川研一、楠晋一、西川大史、本田千尋、奥井久美子、井上将宏、篠原俊一)

 

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