民主法律時報

アルバイト職員への賞与の不支給は違法――大阪医科薬科大20条裁判大阪高裁逆転勝利判決

弁護士 西川 大史

1 はじめに

2019年2月15日、大阪高裁第3民事部(江口とし子裁判長、大藪和男裁判官、森鍵一裁判官)は、大阪医科薬科大労働契約法20条裁判について、一審大阪地裁の敗訴判決を取り消し、アルバイト職員と正職員との間の賞与・夏期休暇・私傷病休職中の給与保障に関する労働条件の相違を不合理とし、大学に対し約109万円の損害賠償を命じる逆転勝利判決を言い渡しました。

全国各地で20条裁判が闘われていますが、ハマキョウレックス事件、長澤運輸事件の最高裁判決後、賞与の相違の不合理性を認めた判決は初めてであり、マスコミでも報道され、ネット上でも大きな話題となっています。

2 事案の概要

原告は、2013年1月から2016年3月まで、大学の薬理学教室で、教室秘書(アルバイト職員)として勤務してきました。各研究室には、1~2名の教室秘書(正職員、契約職員、アルバイト職員等)が配置されており、原告と他の研究室の正職員の秘書の職務内容は同じでした。

しかし、原告の給与は正社員に比べて低く、賞与もありません。年収にすると、新規採用の正職員と比較しても2倍近くの格差がありました。また、アルバイト職員には夏季特別休暇もありません。私傷病によって欠勤した場合には、正社員には6ヶ月間は賃金全額が支払われ、その後も休職給が支払われるのに対して、アルバイト職員にはこのような補償もありません。

3 第一審の不当判決

大阪地裁(内藤裕之裁判長)は、原告と事務系正職員全体を比較すると、職務内容などが大きく異なっており、アルバイト職員にも正職員への登用試験制度があり能力や努力で労働条件の相違の克服が可能であること、年収55%というと相違の程度は一定の範囲に収まっていること、長期雇用のインセンティブなどを理由に、労働条件の不合理な相違とはいえないとして、原告の請求を全面的に棄却しました。

4 画期的な高裁判決

高裁判決も、比較対象者については、大学側が主張するとおり、事務系正職員全体を比較対象としたのですが、賞与・夏期休暇・私傷病休職中の給与保障に関する労働条件の相違を不合理と判断しました。

高裁判決は、賞与の趣旨について、正職員に一律支給されていることから、大学に在籍して就労したことへの対価であるとし、同じく有期雇用の契約社員には正職員の8割の賞与が支給されていることから、長期雇用のインセンティブには疑問があるとして、アルバイト職員に賞与を一切支給しないことは不合理であり、正職員の6割の賞与の支給を命じました。正職員の6割とはいえ、賞与を支給すべきと命じたことは、賞与の有無が非正規労働者と正規労働者の所得格差の大きな要因になっている現状からすると大きな意義があり、非正規労働者への影響は大きいものです。

また、高裁判決は、アルバイト職員に夏期休暇を付与しないこと、私傷病休職の給与保障がないことも不合理としました。郵政の 条裁判でも同様の判断がなされており、確固たる司法判断となったといえるのではないでしょうか。

もっとも、高裁判決も、基本給については、正職員とアルバイト職員では求められる能力に相違があるとして、不合理な相違とはいえないとしました。

5 最高裁での闘いに向けて

高裁判決が、比較対象者を事務系正職員全体とした点や、基本給について不合理な相違としないことなど不満な点もあります。しかし、地裁判決を明確に否定し、労契法 条の趣旨、有期雇用労働者が等しく就労してきた実態やその思いを正面から受け止め、賞与等の相違の不合理性を認めた点は画期的であり高く評価できるものです。

しかも、この判決の数週間前には、郵政西日本20条裁判において、大阪高裁が、契約期間が通算して5年を超える期間雇用社員に限って格差が違法であるという特異な判断を示しました。仮に、郵政西日本事件のような判決がまかり通れば、この事件の原告は5年を超えて勤務していないため、救済されないことになるのですが、判決が郵政西日本事件のような特異な判断をしなかったことに安堵しています。

大学側が最高裁に上告・上告受理申立をしたため、原告も上告受理申立をしました。闘いはまだまだ続きます。高裁判決の維持、さらなる前進のために全力を尽くします。今後ともご支援くださいますよう宜しくお願い申し上げます。

(弁護団は、鎌田幸夫、河村学、谷真介各弁護士と西川)

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