弁護士 愛 須 勝 也
1 国の違法行政を断罪した33回目の判決
本年3月20日の大阪地裁(第7民事部)、3月28日の熊本地裁、4月23日の岡山地裁(国賠)に続いて、5月9日、ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟について大阪地裁第2民事部(西田隆裕裁判長)は原告2名全員勝訴の判決を言い渡した。しかし、原告梶川一雄さん(伊丹市)と榎本寛さん(神戸市)は判決を聞くことなく亡くなった。原告らは、2008年に認定申請したが、2年経過しても認定されないために、義務付け訴訟を提訴。その後、申請が却下され、請求の趣旨を取消訴訟に切り替え、判決まで6年を要した。梶川さんは、22歳の時、陸軍船舶整備隊(暁部隊)に所属し、1945年8月6日から、負傷者の救護・看護活動に従事。同月10日から3日間、爆心地から1.5キロの広島市横川町に駐屯し、遺体焼却作業等に従事。申請疾病は心筋梗塞。榎本さんは、21 歳の時、爆心地から3.2キロの長崎市水ノ浦町の三菱造船所で被爆し、友人を探すために爆心地に向かったが火事のために進めず引き上げた。申請疾病は、腎臓ガンと慢性腎不全。裁判所は、梶川さんの心筋梗塞、榎本さんの慢性腎不全について却下処分を取り消して国に認定を命じた。
2 昨年12月16日の認定基準見直しによる実質的な再審査
厚労省は、集団訴訟の終結合意(8.6合意)で原爆症認定のあり方検討会を設置。その報告書を受けて、昨年12月16日、審査方針を一部手直しした。内容は心筋梗塞、甲状腺機能低下症などの非がん疾患について、2キロ以内の直接被爆か、翌日爆心地から1キロ以内に被爆した場合にのみ認定するという極めて限定された手直しにとどまった。判決が基準見直後に却下処分を取消したということは、司法が現行の認定基準の誤りをただしたことになり、認定行政に突きつけられた「司法と行政の乖離」はまったく解消していないことを意味する。
3 懲りない厚労省
ところが、田村厚労大臣は、本件訴訟が、基準見直し前に結審し、審査方針改定は審査の対象になっていないという形式的な理由から、基準をもう一度見直す意思はないと繰り返した。これは全く詭弁である。厚労省は、基準見直し後に、係争中の原告全員について、改訂後の基準で再審査をしており、その結果、却下処分を見直すべきと判断した原告については却下処分を取り消しているのである。その実質見直しの結果について結審後に裁判所に対して、わざわざ「新基準で見直した結果、原告らについては認定に至らなかった」と報告している。つまり、原告らは、実質的に、新基準で再審査された結果、見直す必要がないという新たな処分をされているのである。厚労大臣は官僚のいいなりに形式論を繰り返すだけである。なんと情けない。
4 厚労省! 生きてる間に認定せんかい!!
判決後、梶川さんの奥さんは、「主人が生きていたらどんなに喜んだろうか、これから帰って仏壇に報告します。」とコメントされた。国の違法な認定行政を断罪した33回目の判決。本年3月20日の判決でも4人の原告全員が勝訴となったが、こともあろうに厚労省は、原告の1人について不当にも控訴した。控訴された原告は 歳という高齢。非人道的な暴挙である。怒りが収まらない。厚労省! 生きてる間に認定せんかい!!
今こそ被爆者の苦しみに終止符を打たなければならない。