民主法律時報

労働者派遣法第40条の7の適用に関する初めての裁判例 ~大阪医療刑務所偽装請負事件~ 

弁護士 河 村   学

1 はじめに

労働者派遣法第40条の7は、国又は地方公共団体が偽装請負等派遣法違反の行為を行った場合、行為が終了した日から1年を経過する日までの間に、労働者が同一の業務に従事することを求めるときには、採用その他適切な措置を講じなければならないと定めている。派遣先が民間企業の場合は当該派遣労働者について労働契約の申込みみなし制度が導入されたところ(同40条の6)、法令上の制約があり得ることを踏まえて、派遣先が国又は地方公共団体の場合には別規定とされたものであるが、本件はその解釈をめぐって初めて裁判所が判断したものである(大阪地裁判決令和4年6月30日 裁判官中山誠一、窪田俊秀、岩崎雄亮)。

2 事案の概要

原告は、継続的に、大阪医療刑務所及び大阪少年鑑別所において車両運転業務等に従事してきた(形式上の雇用主はいくつか変わった)。

原告が行う業務は、国の職員が毎朝作成し原告に示す運行計画に基づき、また、計画書にない個別の運行指示・整備指示などにより行われていた。典型的な偽装請負である。

原告は、この違法就労の是正を求めて、大阪労働局に労働者派遣法違反の申告を行い、2016年11月16日、同局は違法事実を認定して、大阪医療刑務所長に対し、是正指導を行った。その後、国は、2017年1月から労働者派遣に切り替える是正措置をとったが、同年4月1日からの運行管理業務については再び請負での入札を行い、同業務を落札した請負会社は原告を雇用しなかった。

原告は、同年3月27日に国に対し就労を続けられるよう対応を求め、また労働組合は同年6月2日にも「採用その他の適切な措置」を要求した。

3 大阪地裁判決の内容

(1) 本判決の内容は、簡単にいえば、派遣法40条の7は、有っても無くても同じようなものであり、国や自治体が派遣先の場合には、この派遣先がどんなに違法行為を行ったとしても労働者は救済されない(裁判所は救済しない)というものである。

(2) まず、本判決は、同条にいう「採用その他の適切な措置」には、採用といった処分行為以外の様々な事実行為が含まれ、国などはどのような措置をとるか(場合によっては措置をとらないか)も含め決することができる、労働者には同条に基づく具体的な権利はなく、労働者が同条に基づく「求め」を行っても、国などはこれに応答する義務もない、とする。

(3) また、本判決は、本条が適用されるのは、派遣先が派遣法の「適用を免れる目的」(免脱目的)があることが必要だが、この免脱目的は、請負契約締結時になければならず、契約締結後に免脱目的が生じた場合には、派遣労働者を違法に使用しつづけても本条は適用されない、とする。また、本件では、ほとんど当該部署の課長の主観的認識(陳述書)のみで免脱目的はなかった、とする。

(4) さらに、本判決は、「措置」が要求されるのは、当該労働者と派遣元事業主との契約期間の残期間のみであって、条文上は違法行為が「終了した日から1年を経過するまでの間」に「措置」を求めることを適用要件としているが、残期間がなければそもそも「措置」をとる必要はない、とする。また、本件では、契約期間終了の4日前(3月27日)に「求め」があったとしても、契約期間終了日まで当該労働者は就労できたのだから、国は法的義務に違反していない、とする。

(5) このような解釈が通れば、国・自治体の違法行為に翻弄された労働者(本件の場合はその違法行為の是正を求めて申告さえした)が、切り捨てられても救済の途はないことになる。違法行為を行う行政一人勝ちの解釈である。

4 若干のコメント

派遣法40条の6及び7は、格差と貧困の是正、ワーキングプアの解消を目指す社会運動の中で成立した条文であり、少なくとも違法行為を行う使用者には派遣労働者に対する雇用責任を認め、派遣労働者の雇用の安定を図る趣旨で創設された規定である。

にも関わらず、本判決は、民間の使用者に適用される派遣法40条の6の解釈にも踏み込み、その適用範囲を著しくせばめ、かつ、その実効性を奪う解釈を展開している。

控訴審において、本判決の誤りと労働者の権利・生活軽視の姿勢は正されなければならない。

(弁護団は、村田浩治、河村学、小野順子)

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