民主法律時報

住民投票パンフ住民訴訟 不当判決

弁護士 冨 田 真 平

大阪市廃止・特別区設置のいわゆる「大阪都構想」の住民投票に先立って、大阪市が作成し全住民に配布したパンフレット(都構想パンフ)への公金支出が違法であるとして、松井市長及び副首都推進局長に対し、同費用の賠償を求めるよう大阪市に求める住民訴訟において、2022年8月1日に大阪地裁で請求を棄却する不当判決が出されたので報告する。

1 事案の概要

2020年11月の住民投票の際に全住民に上記都構想パンフが配布された。大都市地域における特別区の設置に関する法律(以下「大都市法」という。)7条2項では、住民投票に際し「選挙人の理解を促進するよう、特別区設置協定書の内容について分かりやすい説明をしなければならない」と定められており、この分かりやすい説明の一環として公費で配布されたのが上記都構想パンフであった。

しかし、上記都構想パンフの内容は、大阪市民を住民投票の賛成に誘導し又は大阪市民に誤解を与えるものであった。

そこで、原告らは、上記都構想パンフの内容に重大な違法性があるとし、大阪市民の原告らが大阪市に対し、当時の副首都推進局長と大阪市長に損害賠償請求するよう求めていた。

2 大阪地裁の不当判決

大阪地方裁判所第2民事部(森鍵一裁判長、日比野幹裁判官、立仙早矢裁判官)は、都構想パンフの記載内容が客観的かつ中立的な説明ではないと認定しながら、上記大都市法7条2項の「分かりやすい説明」について客観的かつ中立的な立場ではなく特別区の設置を推進する立場から説明をすることを禁止するものではないとして、都構想パンフの作成・配布に重大な違法性はなかったとした。

すなわち、判決は、①市長が大都市法上、特別区設置を推進する立場にあることが想定されており、大都市法は市長がそのような立場にあることも踏まえて、説明する者を市長としたこと、②同様に憲法改正の国民投票の際の分かりやすい説明を定めた国民投票法には「客観的かつ中立に行う」旨の規定(14条2項)があるが大都市法にはこのような規定がないことなどを理由として、市長の分かりやすい説明は客観的かつ中立的な立場から行うことまで求められておらず、推進する立場で行うことが禁止されていないとした。

原告・弁護団は、行政・公務員の中立性や住民自治などについて述べた上で、住民投票の際の情報提供の中立性について述べた文献やこれを定めた住民投票条例、国民投票法も引用しながら、直接民主制たる住民投票に当たって住民がきちんと判断できるために行う情報提供である以上、客観性・中立性が求められる(提供される情報が偏った場合、偏った情報で住民が意思決定をすることになり、住民の意思が歪められてしまうおそれがある)ということを主張したが、残念ながら退けられた。

3 判決の不当性及び控訴審に向けて

今回の判決は、住民自らが決定するという直接民主制の現れであり法的拘束力が伴う住民投票に当たって行政が行う情報提供の措置であるにもかかわらず、しかも公費を使って行うものであるにもかかわらず、これが客観的かつ中立的なものでなくてもよいとするものである。これは、住民による意思決定を不当に軽視し、行政の長としての市長の立場と政治家としての立場を混同するもので、政治による行政の私物化を追認するものと言わざるを得ない。

都構想パンフに対する違法な公金支出の責任を問うとともに住民投票における大阪市の偏った広報姿勢、さらに平気でデマを流す維新の会の宣伝の姿勢を許さないためにも、控訴審において不当な一審判決を覆すべく弁護団一同奮闘する所存である。会員の皆様にも引き続き支援をお願いする次第である。

(弁護団のうち、民法協会員弁護士は岩佐賢次弁護士と冨田)

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