民主法律時報

「連帯責任」的懲戒処分の取消を認めた事例 ~みよし広域連合(懲戒処分)事件

弁護士 塩 見 卓 也塩見卓也弁護士
(市民共同法律事務所)

 徳島県の地方公共団体であるみよし広域連合で消防長として勤務していた原告が、病気休暇で2か月休んでいた間に、部下が飲酒同乗した車がひき逃げ死亡事件を起こした件との関連で、監督不十分との理由で戒告の懲戒処分を受けたという事案で、懲戒処分の取消と、懲戒のせいで昇給しなかった分の給与差額請求の全部を認容した完全勝利判決を獲得しました(徳島地判R3.9.15 )。

原告は、2018年3月から同年4月にかけて、職場における苦情処理の対応による過労と心労により体調を崩し、うつ病の診断を受け同年5月から2か月間の病休を取っていました。この病休期間においては、原告の職務代理者が定められ、原告には消防長としての職務権限がない状態となり、それゆえに、月額6万円の管理職手当も不支給となっていました。そんな中、同年6月10日、休日の私生活において、友人と飲酒した消防署職員が、友人が飲酒運転する車両に同乗し、その車両がひき逃げ死亡事故を起こしました。翌日、その職員は懲戒免職となり、また原告の職務代理者も戒告の懲戒処分を受けました。

原告の職場復帰後、このひき逃げ事件と、このひき逃げ事件よりも前にみよし広域連合で発覚していた横領事件について、原告と当時のみよし広域連合事務局長を対象に懲罰手続にかけた上で、訓告とする方向性が示されました。原告は、自身に職務上の義務違反はないものの、自身の部下にあたる者が重大事件を起こしたことに対する道義的責任は感じていたので、懲戒処分ではない、将来を戒めるための注意にあたる訓告を受けるのであれば、納得できたところでした。それゆえに、事務局長から懲罰手続を受けるための上申書を提出することを求められた際も、それに応じました。ところが、別件の横領事件に関し監督責任を問われるはずだった事務局長は、自身を懲罰手続に付する内容の上申書を提出せず、原告のみが懲罰手続にかけられることになりました。原告にとっては、事務局長に騙された状態でした。

その後開催された懲罰委員会では、原告が冒頭に弁明を述べようとしたところ、発言を遮られ、「決定事項、戒告ということで、連合長の方に報告しておきます」と、決定事項として懲戒が言い渡されました。それに対し、原告が自身の言い分を述べようとしたところ、「結果責任」「世間が許さない」等々の発言がなされました。原告はこの懲罰委員会の録音を残していましたが、処分者側は、具体的な職務上の義務違反を根拠に処分したものではないことを最初から認めていたものといえます。

以上の経過による戒告処分に対し、原告は審査請求を行いましたが、その審査期間中に定年退職となり、その後京都に引っ越すことになりました。審査請求が棄却された後、それまで原告の相談を受けていた徳島の堀金博弁護士の紹介で、私が代理人となり、2020年3月、取消訴訟を提訴する流れになりました。訴訟では、①懲戒事由に該当するような具体的な職務上の義務違反が存在しない、②別件横領事件との関連で事務局長が懲戒されていないことや、過去に部下が不祥事を起こした事例においても上司は訓告止まりとなっていることとの比較から見ても、公正・公平の原則に反し、相当性を欠く、③懲罰委員会において実質的に弁明の機会が与えられておらず、手続的相当性も欠くという主張を行いました。

判決は、すんなりと上記①の主張を認め、②③を検討するまでもなく懲戒処分は違法として取り消す判決となりました。具体的には、(ア)部下がひき逃げ同乗事件を起こした当時は病休中で、監督権限のある立場になかった、 (イ)病休前においては、定期的に部下に対し飲酒態度についての訓示を行うなど、消防長として通常行うべき監督義務は果たしていた、(ウ)ひき逃げ同乗事件よりも前の段階で、当該部下の勤務態度に特段の問題はなく、当該部下に対し特別に注意・指導を行わなければならなかったといえるような特段の事情もないとして、原告に職務上の義務違反はないと認定しました。

この事件は、原告が定年間近であったからこそ、声を挙げることができたという側面もあります。この事案では、原告の職務代理者に対し戒告処分がなされたことにも疑問があるところですが、まだ定年まで長いその職務代理者は、処分をそのまま受け入れざるを得なかったようです。

昨今、部下が不祥事を起こすと、上司に具体的な職務上の義務違反が認められないにもかかわらず、「部下と連帯責任」的な処分が行われる事案があるようですが、この判決は、職務上の義務違反といえるような事実が具体的に認められないなら、懲戒事由に該当するといえる事実もないので、懲戒することはできないという、当たり前の考え方を改めて明らかにした点で価値があり、今後安易な懲戒の歯止めになるのではないかと思います。

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