民主法律時報

パート有期法・待遇差説明義務の不履行 について提訴―― KDDIエボルバ事件

弁護士 谷   真 介

1 はじめに

KDDIエボルバ株式会社(以下「会社」という)で通算5年を超えて時給制契約社員として就労してきた原告が、雇用打切りを通告されたことをきっかけに、パート有期法 条2項の待遇差説明義務の履行を求めたが、会社はこれを拒否したため、2021年7月30日、説明義務の不履行を争点に大阪地裁に提訴した(原告は地位確認訴訟をすでに提起しており、本事件を追加で提訴した)。

おそらくパート有期法14条2項の待遇差説明義務を争点とした初めての裁判と思われるため、報告する。

2 事案の概要

(1) 原告は、民主法律時報本年4月号において西川翔大弁護士が提訴報告をした、アレルギー性皮膚炎の悪化リスクを理由にマスクを着用しなかったことから、会社から雇用を打ち切られた方である。

原告は2015年10月から、携帯電話の故障・紛失をサポートするコールセンターで、1年更新の時給制契約社員として働いてきた。新型コロナの感染拡大を受け、2020年10月ころから会社の上司からマスクの着用を求められるようになった。原告はアレルギー性皮膚炎を理由に代替案を求めて話合いを続けてきたが、会社は十分な代替案を検討することなく、2021年1月には雇用契約期間が満了する同年2月末での雇用打切りを示唆した。そこで原告は無期転換権を行使したが、会社は2月末での雇用打切りを強要した(前記のとおり地位確認訴訟が係属中)。

(2) 一方、時給制契約社員は、基本給のみで賞与や手当が一切支給されておらず、休暇制度も存在しなかった。唯一、原告は採用の際に、通勤手当の支給(ただし上限あり)を受けるか、支給はないものの時給が少し高い契約とするか選ぶよう求められた。これに対し原告は、通勤手当の上限があるのであれば、フルタイムで働くと時給が少しでも高い方が有利であったため、通勤手当のない契約とした。このように原告は何らの手当等の支給も受けていなかったが、正社員等がどのような待遇を受けているかは全く分からず、待遇にどのような相違があるのかが全く見当がつかなかった。

そこで原告は、雇用打切り直前の2021年2月19日付けで、会社に対し、パート有期法14条2項に基づき、待遇差について比較する対象労働者が誰か、待遇差(賞与、手当、休暇等)の相違の有無、相違がある場合は相違を設けた理由等について、説明することを求める書面を送付した。しかし会社は、「解雇事件と無関係」、「当社は差別的取扱いを行っていない」等と理由にならない理由を述べて、原告の求める待遇差の説明を拒絶した。これにより原告は、パート有期法8条等に基づき均等均衡待遇を求めるにも、前提事実である待遇差も分からない、というジレンマに陥った。

(3) 原告は、大阪労働局均等部に対し、会社の説明義務不履行について、パート有期法18条に基づく是正指導・勧告を求め、さらには新設された紛争解決援助(ADR、同法24条)を申し立てた。しかし大阪労働局は、是正指導・勧告の求めについては原告には情報を全く教えられない、紛争解決援助については手続を開始したものの、会社がこれを拒絶してからは、任意の手続なのでこれ以上は進められないとして、終了してしまった。さらに、調停申立(ADR、同法26条)という手段もあったが、結局会社が応じる意思がなければ任意での解決制度は難しいと考え、提訴に踏み切った。

3 請求内容と本訴訟の意義

(1) 本件の請求内容は、①通勤手当の不支給(会社のホームページに正社員には全額支給をしている旨掲載されていた)についてパート有期法8条に基づき、待遇差について損害賠償を求めるとともに、②パート有期法14条2項の説明義務の履行拒絶に関する説明の履行(給付請求)を求め、③説明義務不履行によって被った慰謝料50万円等の損害賠償を求めている。

(2) 待遇差説明義務は、非正規雇用労働者の格差是正を掲げて成立した2018年の「働き方改革」関連法により、はじめて導入された制度である。非正規労働者が格差是正を求めるためには、その前提として比較対象となる無期・フルタイム労働者の待遇を把握することが大前提となるが、原告のようにそれを知らない労働者が圧倒的多数である。そこで、これでは格差是正は図られないとして、非正規労働者に説明義務という「武器」を与えた。しかしその「武器」自体、まだ十分に労働者に周知されていない。本件はその労働者の武器である説明義務の意義と有用性を問う、初めての裁判である。是非ご注目いただきたい。

また裁判だけでなく、前記2(3) のとおり、行政の対応もひどいものであり、せっかく与えられた「武器」を十分に活かすことができない。裁判とともに、行政の改善も求めていく必要がある。

(3) なお民法協では、格差是正の取組みに説明義務を活かす「モデル要求書」を公表しており(https://www.minpokyo.org/useful/7956/)、ワード版もあるため事案に合わせて改変できる優れものである。本件でもこのモデル要求書が非常に有用であった。ぜひ他の事案でも大いに活かしていただければと思う。

(弁護団は河村学、西川翔大、青木克也と谷真介)

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