民主法律時報

大王パッケージ愛知工場 セクハラ事件提訴

弁護士 垣 岡 彩 英

1 はじめに

大王パッケージ株式会社(以下「会社」といいます。)の愛知工場に勤務する女性労働者(以下「原告女性」といいます。)が、男性上司らから受けたセクシュアルハラスメント及びパワーハラスメントについて、同人らに対して損害賠償請求をするとともに、同人らのハラスメント等についての会社の使用者責任及び就労環境配慮義務違反についても損害賠償を求め、2024年1月24日に名古屋地方裁判所豊橋支部に提訴しましたので、ご報告します。

2 ハラスメントの内容

⑴ 上司Aからのセクシュアルハラスメント行為
2019年9月下旬に原告女性の作業場が移動してから、上司Aは頻繁に原告女性のところへ雑談をしに来ては、2022年3月、4月ころまで、①原告女性のお腹や脇腹、腕、太ももの辺りを指で突っつく、②原告女性の作業服の胸ポケットやズボンポケットのチャックを閉める、③業務時間中に原告女性の姿を無断で写真撮影する(業務との関連性なし)、④業務中の原告女性の膝の上に座る、というセクシュアルハラスメント行為を繰り返し行うようになりました。原告女性の新しい作業エリアは、型版を整理する約2メートルのラックが多くあり、原告のデスクの背後には、1枚パーテーションが置いてあることから、死角が多く、上司Aがセクシュアルハラスメント行為に及びやすい環境でした。

⑵ 上司A及び上司Bからのパワーハラスメント行為
上司Aが女子更衣室に工場内の機械コンプレッサーを集めて置くと提案してきたため、原告女性は、そのことを東海大王製紙パッケージ労働組合(化学一般東海地本に加盟。以下、「組合」といいます。)に相談しました。すると、上司Aは立腹し、「なんで組合に言うんだ。」などと原告女性にすごい剣幕で詰め寄ったという出来事がありました。その後、上司Aは、3か月ほど、1回も原告女性の作業場に来なくなり、この出来事をきっかけに、上司Aの原告女性に対する態度が180度変わり、上司B(上司Aの部下かつ原告女性の上司にあたる者)とともに、パワーハラスメント行為をしてくるようになりました。

原告女性がセクハラ行為について労働組合に相談したと解したため、原告女性に対して自らパワーハラスメント行為をするとともに、上司Bにも指示をした(あるいは上司Bがそれに呼応した)ものと思われます(上司Bは自身の判断でそのような指示を出せる立場にはありません。)。

パワーハラスメント行為の具体的な内容は、①上司Aから原告女性に対し「給料泥棒」と暴言を吐く、②上司Bから原告女性に対し「掃除だけやっておけばいい」と発言する、③上司Bから原告女性に対し、通常は1日がかりで行う作業を命じたうえで、「3、4時間で終わらせろ。」「やらないのなら、仕事放棄だ。」と発言するなどというものです。

3 上司らと会社の不誠実な対応

2022年10月、原告女性と組合の執行委員長が、工場長に対して前記ハラスメントの経緯を説明し、上司Aが原告女性に対して行った行為について、原告女性に謝罪することになりました。しかし、上司Aの謝罪は、誠意のある謝罪とはいえないものであったため、原告女性が「許せません。」と回答したところ、上司Aは、「どこの部分が許せないのですか。」と激怒し、反発の姿勢をみせてきました。そして、上司Aは、謝罪の場が終わってから、原告女性に電話をかけてきて、「あんなにフレンドリーだったじゃないか。」「あなたも悪いじゃないですか。」などと述べ、3時間半にわたって電話口で原告女性を責める発言を繰り返しました。

組合は、これを受けて、会社に誠意ある対応を求めましたが、会社は、「調査の結果、上司Aのセクハラ行為は認定できない。」「上司Bの言動は行き過ぎた行為であると評価できるが、上司Aの関与は認められない。」などと回答してきました。組合は、会社の調査方法や調査報告等に対して抗議し、会社と団体交渉を行い、ハラスメントの調査と報告を求め続けてきましたが、会社は、「調査の結果、不適切な行為ではあるがハラスメントとまでは認められない」「再調査の予定はない」「これ以上の調査は不要」「懲戒処分は行わないこととし、再検討を行う予定はない」との回答を繰り返しました。組合からの厳しい追及の結果、会社は、事実調査が不十分であったことはようやく認めたものの、上司A及び上司Bからの原告女性に対するハラスメントや、会社の責任等については、いまだに認めていません。

4 まとめ

民法協では、2023年6月にセクハラ学習会を開催しました。当日は、男性の参加者が少ない中、化学一般からは4名の男性の組合員が参加し、うち1名は今回の組合の執行委員長でした。当日の有村先生の講義やディスカッションでの習得を踏まえて、組合は、会社との団体交渉により是正を求め続けてきました。本件は、被害者である原告女性の被害回復のため、社会におけるハラスメント根絶のための裁判です。会員の皆さまには、引き続きご支援とご協力をお願い申し上げます。

(弁護団は、西川大史及び当職)

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