民主法律時報

門真市事件 ―組合役員に対する懲戒処分および公平委員会裁決の取消訴訟提訴―

弁護士 冨 田 真 平

門真市職員労働組合(門真市職労)の当時の執行委員長及び副執行委員長に対する懲戒処分の取消を求めた審査請求について、2023年9月28日に不当にも審査請求を棄却する裁決が出された。これに対し、本年3月1日に大阪地裁に取消訴訟を提起したので報告する。

1 事案の概要

門真市職労は、1971年の結成以来、交渉に関わる組合内部での執行委員長を中心とする協議や検討について勤務時間内に有給で行うことが長年認められてきた。

その後、2008~2009年に当局の提案により時間内組合活動についてのガイドラインを策定することになったが、同ガイドライン策定時にも従前の時間内組合活動を制限するものではないことが繰り返し確認された。そして、ガイドライン策定後も引き続き上記のような交渉に関わる組合活動を勤務時間内に有給で行うことが認められており、職場を離れる際には直属の上司の承認も得ていた。

しかし、2019年4月に市のホームページに寄せられた「市民からの通報」を契機に、当局は、組合との協議を行うことなく、秘密裏に半年もの間、執行委員長の離席状況を記録した上で、2020年10月14日に職務専念義務違反を理由に執行委員長及び副執行委員長に対して懲戒処分(執行委員長に対しては減給処分、副執行委員長に対しては戒告処分)を行った。

これに対し、同年12月23日付でこれらの懲戒処分の取消を求めて公平委員会に審査請求を行った。

2 公平委員会での闘い

公平委員会では、5回の準備手続と2回の口頭審理が行われた。

組合側は、当局側が長年にわたって認めてきた時間内組合活動の範囲内であり職場での業務の支障も生じさせていないため職務専念義務違反がないこと、また従前の取扱いを改めるとしてもまずは組合と協議を行うべきであり、組合役員を狙い撃ちにして秘密裏に調査を行った上でいきなり懲戒処分を行うことは少なくとも懲戒権の濫用にあたることなどを主張した。

そして、尋問も含めた審理の中で、ガイドライン策定時に従前の時間内組合活動の範囲を制限するものではないという合意があったことや当局が時間内組合活動による離席を認めていることが職場における共通認識となっていたこと、「市民からの通報」をきっかけに人事課が執行委員長の直属の上司に問い合わせた際には問題ないとの回答があったにもかかわらずその直後から秘密裏の調査が始まったことなどが明らかになった。

しかし、公平委員会は、2023年9月28日、基本的に当局の主張をそのまま認め、審査請求を棄却する裁決を出した。

3 処分者側代理人と密接な関係にある公平委員により不公正な審理・裁決がされた問題

審査請求で審理・裁決をした3名の公平委員のうち1名(大阪弁護士会所属の岩本安昭弁護士)は、橋下徹市長誕生後の大阪市における組合攻撃に端を発する様々な労使紛争において大阪市の代理人を務めてきた弁護士であった。そればかりか、当時岩本弁護士と同じ事務所に所属し共同して大阪市の代理人を務めていた森末尚孝弁護士(平成28年4月に別の法律事務所に移籍したが、我々が把握する限り少なくとも平成29年ころまでは大阪市の代理人を継続していた)が、門真市の顧問弁護士として、本事件で懲戒処分の調査に関与し、審査請求で処分者側代理人に就任した。大阪市組合事務所事件などで同じ被告側席で隣りに座っていた岩本弁護士と森末弁護士が、本件の審査請求で一方は判定者(公平委員)、一方は処分者側代理人として関与することに衝撃を受け、岩本弁護士について公平委員の忌避ないし回避の申立を行った。しかし、公平委員会は条例・規則に忌避手続がないこと及び忌避事由もないことを理由にこれを却下(不採択)した。本件審査請求手続中に岩本弁護士の公平委員の任期が満了したが、再任され、結局、裁決にも関与することとなった。

昨今、原発訴訟等に端を発し、最高裁と大手ローファームの癒着構造が明らかにされ(後藤秀典、雑誌「経済」2023年5月号「『国に責任はない』原発国賠訴訟・最高裁判決は誰がつくったか」参照)、さらに、行政専門部の部総括判事が、国が当事者となる訴訟を担当する法務省訟務局長に異動するなど、司法の公正を害する事態に警鐘が乱打されている。足元の地方自治体においても、このような行政から独立した委員会の手続の公正性を疑わざるをえない問題が存在することも見過ごされてはならない。

4 取消訴訟の提起及び今後の闘い

上記裁決を受けて、懲戒処分及び裁決の取消(裁決の取り消しは上記3で述べた裁決が公平性を欠いているという固有の違法を理由とする)を求めて本年3月1日に大阪地裁に提訴した。

本件懲戒処分は組合の役員を狙い撃ちにしたものであり、維新市政の下での組合に対する攻撃である。公平委員会での闘いは残念な結果に終わったものの、闘いを通じて、このような攻撃にひるむことなく職場での団結を強めることができた。

今後も当局からの攻撃を跳ね返し不当な懲戒処分(及び不公正な公平委員会の裁決)を取り消させるために職場及び司法の場での闘いを続けていく所存であるので、引き続き皆様の支援をお願いする次第である。

(弁護団は豊川義明、城塚健之、河村学、増田尚、谷真介各弁護士及び筆者)

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