民主法律時報

コロナハラスメント事件和解解決

弁護士 脇 山 美 春

1 はじめに

2022年11月21日、愛須勝也弁護士、西川大史弁護士と担当していたコロナハラスメント事件が和解により解決しましたのでご報告します。

2 事件の概要

本事件は、全盲の原告が新型コロナウイルスに感染・発症し、入院治療を受けて回復したにもかかわらず、勤務先の就労支援A型事業所より、それまで普通に行ってきた同事業所利用者の付添による通勤を禁じられ、原告がこれに異議を唱えたところ、退職を強要されたというものです。退職強要の場面では、施設長が2時間半にもわたり、終始高圧的な態度で「全員PCRとかもしなって、2週間になったら、営業停止になるんですよ」「ここ自体が送迎があるわけじゃない……ここでは支援できません」等と繰り返し、原告は強い恐怖を感じました。原告は精神的苦痛に耐えかね、面談の2日後、退職を選ばざるを得ませんでした。

原告は、おおさか労働相談センターに電話相談し、民法協で弁護団が結成されました。

本事件は、新型コロナ感染・発症を理由としたハラスメント(コロナハラスメント)であり、かつ障がい者に対する合理的配慮を欠いた障がい者差別の事案でもあります。

3 和解に至る経過

原告は2022年4月21日に、事業所を被告として、コロナハラスメント、障がい者差別の責任を追及する裁判を提訴しました。これに対し裁判所(担当裁判官:岩佐圭祐裁判官)は、第3回の期日から積極的な和解勧試を行いました。

担当裁判官は、期日で原告に対し、どんなことがつらかったのかを丁寧に聞き取ったうえで、被告に対して、和解解決を迫りました。

しかし被告は、口外禁止条項に強固にこだわるとともに、「原告に対する言動に、言葉の行き違いがあったことを確認する」との和解提案をするのみでした。

原告はこれを当然拒絶し、裁判官による説得もあって、「被告は、原告が……新型コロナウイルス感染症にり患して入院治療を受けた後、同感染症にり患したことを理由に被告への出勤を拒んだと受け止められるような発言をしたこと」「原告が的確な通勤手段を見出だせないまま……退職をしたこと」につき被告が遺憾の意を表明するという内容の和解が成立しました。

4 原告本人の声

和解成立後、原告は晴れやかな顔をしていました。原告に「裁判してよかったですか」と尋ねたところ、以下のように答えてくれました。

「裁判してよかった。裁判官がしっかり話を聞いてくれた。これをきっかけに、障がい者支援事業所が就労者に対して誠実に向き合ってくれるようになればと願っている。」

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、コロナを理由とする解雇・雇止め・シフトカット等のトラブルが相次いでいます。本件の和解が、そのようなトラブル根絶の一助となり、また、障がい者に対する合理的配慮の重要性を再確認するきっかけになってほしいと願っています。

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