民主法律時報

大手前病院によるコロナを口実とする 団交拒否・救済申立て

弁護士 佐久間 ひろみ

1 はじめに

国共病組・大手前支部(以下、「組合」)が、2022年7月11日、国家公務員共済連合会・大手前病院(以下、「大手前病院」)に対し、職員の有給休暇の消化率や職員の処遇等について団体交渉を申し入れたところ、「コロナ感染の終息」後に応じると述べ、これを拒否した。そこで、組合は、2022年10月18日、大阪府労働委員会に対し、団交拒否を理由として不当労働行為救済申立て(救済を求める内容:団交応諾命令・ポストノーティス)をしたものである(労組法7条2号)。

2 事案の概要――コロナを口実として団交拒否を繰り返したこと

大手前病院は、国家公務員共済連合会が運営する医療機関であり、1951年に開院し、現在の従業員数は約700名である。組合は、大手前病院で働く組合員で組織する労働組合であり、1963年1月16日に結成された。

組合は、これまでも大手前病院に団体交渉の申し入れをしてきたが、コロナを口実に拒否されてきた。組合は、2020年11月9日、大手前病院に対して、新型コロナウイルス感染症対応特別手当の概要や、職員の有給休暇などについて団体交渉を申し入れたが、「新型コロナウイルス感染症の鎮静化後に行う」と回答して、団体交渉を拒否した。これに対し組合は、コロナ禍であったことをふまえ、やむなく書面での回答を求めたが、結局大手前病院は、「開示する考えはない」等と述べるだけであった。

さらに組合は、新型コロナウイルスが徐々に沈静化してきた2021年8月17日、再度大手前病院に対し団体交渉を申し入れた。しかし、大手前病院は、「大阪府のフェーズ及び当院の新型コロナウイルス感染症対策のステップが下がり次第交渉を行い、…それまでの間、延期していただくことを希望する」と回答して、団体交渉を拒否した。

その後、2021年11月10日に、ようやく団体交渉が開催され、当該組合の組合員に加えて上部団体である国共病組の書記長、大阪医労連の書記長も出席した。しかし、大手前病院は、団体交渉の場において、組合側の要求する事項について前向きに検討すると述べるばかりで、何ら具体的な回答をしなかった。

上記のような経緯の中で、組合は、2022年7月11日、大手前病院に対し改めて職員の有給休暇の消化率や職員の処遇等について団体交渉を申し入れたところ、「コロナ感染の終息」後に応じると述べて拒否したことから、本申立てに至ったものである。なお大手前病院は、今後団体交渉を開催するとしても、上部団体(国共病組、大阪医労連)の出席を拒否する意向を明らかにしている。

3 大手前病院の不当労働行為

団体交渉は、労働者と使用者が対等の立場に立って、労働条件などの協議を行い、より良い労使関係を構築・確立するための場であるため、労使双方が直接協議することが困難である等の特段の事情がない限り、書面の回答により団体交渉が誠実に実施されたことにはならない。小西生コン不当労働行為事件・中労委命令も、会社が、組合からの団体交渉申入れに対し、コロナを理由として書面による回答にとどめ対面による団体交渉を拒否したことは不当労働行為に当たると判断している。

大手前病院は、新型コロナウイルスを理由として団体交渉を拒否しているが、感染対策を講じて実施することは十分可能であり、かつ2022年7月11日時点では緊急事態宣言・まん延防止等重点措置も適用されておらず、社会生活・経済生活に対する制限はなかったことから、何ら特段の事情がないことは明かである。しかも、大手前病院は、「コロナ感染の終息後に」実施するとのことであるが、感染拡大の「収束」する見通しすら立たない中で、「終息」するまで団体交渉に応じないというのはほぼ永続的に団体交渉を拒否することを意味する。

さらに、大手前病院は、一度団体交渉に出席した上部団体の組合員らの出席を拒否するなど、強い組合嫌悪が伺われる。

これらの大手前病院の態度からは、新型コロナウイルス感染症を口実として、組合との団体交渉を拒否していることは明かであり、労組法7条2号の不当労働行為に該当する。

4 まとめ

解雇、雇止め、賃金カット、シフトカットなど、コロナを口実とする使用者による違法行為が後を絶たないが、本件はコロナを口実とするあからさまな団交拒否である。

弁護団一同、大手前病院が速やかに団体交渉に応じ、誠実な交渉がなされるよう、力を尽くす所存である。

(弁護団は西川大史・垣岡彩英及び当職)

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