民主法律時報

東リ偽装請負事件で最高裁が不受理決定をする ――就労先との直接契約関係を認める判決が最高裁で確定――

弁護士 村 田 浩 治

1 裁判所での勝訴の確定

2022年6月7日、最高裁判所第3小法廷は、東リ伊丹工場事件の偽装請負で就労していた労働者5名と株式会社東リとの労働契約関係があることを確認する大阪高裁判決への東リの上訴に対して上告を棄却し、上告審として受理しない旨の決定を行った。2021年11月4日の大阪高裁判決が確定した。1996~7年頃から、長年にわたって請負契約の形式で、製造現場で偽装請負状態で就労してきた労働者の5年にわたる闘いが勝訴判決で確定した。偽装請負を告発した労働者が裁判で争い、最高裁で地位確認判決が確定したのは、私自身初めての経験である。

2 高裁判決確定の意義

大阪高裁判決が確定したことの意味は、いうまでもなく派遣法40条の6のみなし規定という労働者保護規定による高裁での判断で労働者が勝訴し、今後も引用できる判例となったことである。どう活用していくのかが大切である。確定した大阪高裁判決は以下のような重要な判断を示した。

(1) みなし規定要件である「偽装請負(適法な請負か違法な労働者派遣か)に該当するか否か」の判断にあたって、労務提供を目的とした契約でなく請負事業者して独立性と専門性を備えているといえるかという点を厳格に判断する。特に厚労省が作成した「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(37号告示)を参考にできる。会社側の主観的な主張ではなく、就労実態を踏まえ、過去の経緯や、日常的な就労実態を検討して違法派遣にあたるという判断は、派遣先の形式的契約ではなく実態を対象として判断することを明確にした。

(2) さらに、みなし規定適用の要件である「派遣先企業に派遣法等の規定(規制)の適用を免れる目的があったか否か」の判断にあたり、前記の就労実態を詳細に認定し、「日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたことが認められる場合には、特段の事情がない限り、労働者派遣の役務の提供を受けている法人の代表者又は当該労働者派遣の役務に関する契約の契約締結権限を有する者は、偽装請負等の状態にあることを認識しながら、組織的に偽装請負等の目的で当該役務の提供を受けていたものと推認する」と判示した。

3 今後の課題

高裁の判断の確定は厚労省も無視出来ないことを、厚労省は昨年 月に実施したヒアリングで認めている。今後、偽装請負事件に取り組む際には、裁判所だけでなく労働局に対する申告でも高裁判決を参照するよう求めていく必要がある。

派遣法が成立して以来、派遣先に対する雇用契約関係を認められた事件が確定して職場復帰を果たした事例は、おそらく存在しない。過去にもJR西日本(大誠電機)事件や松下PDP事件、ダイキン工業事件等全国でも70以上の事件で、沢山の労働者が偽装請負から直接雇用を目指しながら、涙を流してきた。

ただ、判決が確定しても、5名の当事者が東リ伊丹工場に職場復帰を果たした上で、さらにみなされた差別的な労働契約を正す課題も残っている。職場復帰と差別是正を勝ちとるまで5名の闘いは続くので、引き続き注目し、支援をお願いしたい。

(弁護団は、村田浩治、大西克彦、安原邦博)

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