民主法律時報

入管内電気カミソリ使い回し国賠事件提訴

弁護士 奥 田 愼 吾

1 概要

Aさんは、パキスタン・イスラム共和国(以下「パキスタン」という。)で出生し、同国籍を有する40代男性である。本件は、Aさんが、国に対し、国家賠償法1条1項に基づいて、入管の収容施設内で電気カミソリ等の使い回しにより慢性B型肝炎に罹患させられたことにつき損害賠償請求を、また、B型肝炎ウイルスに感染した事実を説明されなかったことにつき慰謝料の支払を、それぞれ請求する事件である。

2 収容に至る経緯と電気カミソリ等の使い回し

Aさんは、ある事情から2004年6月にパキスタンを出国し、中国に入国した後、2005年2月、日本に入国した。その後、2012年2月、Aさんは、入管に摘発され、名古屋入国管理局の施設に収容された。その後、同年6月、大阪入国管理局が管理する西日本入管センター(現在は廃止)へ移送され、同年10月まで合計8か月間収容された。

名古屋入管収容場及び西日本入管センターにおいては、当時、被収容者は、電気カミソリ、電動のボディシェーバー・バリカン及び爪切り(以下「本件電気カミソリ等」という。)の貸与を受けることができた。バリカンは頭髪を、電気カミソリは髭を、ボディシェーバーは腋下・下腹部等の体毛を剃るために、使い回しされていた(Aさんが腋下等を剃毛するのは宗教上の理由による)。例えば、電気カミソリについては、毎朝居室ごとに1台の電気カミソリが貸与され、同室の被収容者5~6名が順番に使用して髭を剃っていた。各施設の入管職員らは、消毒をしないまま本件電気カミソリ等を使い回させていた。

3 本件提訴に至った経緯

Aさんは、西日本入管センター収容中、別の病気で外部の病院を受診したことがあった。その際の血液検査の結果、2012年10月にB型肝炎ウイルス感染(HBs抗原陽性)が判明した。

同年10月24日、Aさんは仮放免許可を受け、同センターを出た。

大阪入管は、通常、被収容者を外部病院に受診させた際、職員が診察等の結果を聞いている。本件では、職員がAさんの血液検査の結果(B型肝炎ウイルス感染)を検査日に知ったが故に仮放免許可をしたという疑いがある。そうでなくとも病院からの情報提供により、同年11月にはAさんのB型肝炎ウイルス感染を知った。いずれの時期にせよ、大阪入管は、感染の事実を知った後も、本人にそれを説明しなかった。

Aさんは、2021年7月、外部病院にて、B型慢性肝炎罹患の診断を受けた。そこで、同9月、支援者を通じて弁護士らに相談した結果、感染の原因が本件電気カミソリ等の使い回しの点にあると思われることなどを知り、2022年2月10日、本件訴訟を提訴した次第である。なお、集団予防接種での注射器の連続使用によるB型肝炎ウイルス感染については、2012年1月にB型肝炎給付金特措法が施行された。しかし、Aさんは同法の救済対象ではない。

4 結びに代えて

入管行政の在り方を問うという観点から、注意義務違反について、国は、①B型肝炎ウイルス感染を未然に防止すべき注意義務を怠ったという点のほか、②国は、外国人を収容するにあたり、肝炎感染の有無を確認するため健康診断を受診させる義務を怠ったと構成した。また、国がB型肝炎ウイルスに感染した事実をAさんに説明する義務を怠ったことを独立の違法事由として主張し、別途慰謝料の支払いを請求している。

本件を通じ、非衛生的で人権侵害の温床となっている入管について、人権保障の見地からの制度の抜本的な変更を迫るべく、弁護団一同、力を尽くしたい。

(弁護団:奥田愼吾、中峯将文、川村遼平)

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