民主法律時報

パワハラ自死事件(損害賠償請求事件)解決のご報告

弁護士 川 村 遼 平

1 はじめに

上司からのパワーハラスメントや過重労働等によって40代の営業社員が死亡した自死事件(以下「本件」といいます。)に関し、2022年6月20日に青森地裁に提訴した後、8月に当事者間で和解が成立しましたので、ご報告いたします。

2 事件の概要

本件は、青森県内大手のハウスメーカーにて勤務していた男性が長時間労働や上司からのパワーハラスメントにより自死した事案です。男性に交付された「症状」というタイトルの書面(賞状用の紙に男性を揶揄する内容を記載したもの)がマスコミに報道され、大きな話題を集めました(詳細は7月号にご報告した記事をご参照ください。)

3 和解の内容

本件の和解では、主に下記のことを会社・役員に約束していただきました。

① 被災者の貢献に対する感謝
② 会社・代表取締役らの謝罪
③ 加害上司らの厳正な処分
④ 遺族に対する慰謝料の支払い
⑤ パワハラ・時間外労働に関する実態調査の実施
⑥ 従業員に対する未払賃金の支払い
⑦ パワハラ・長時間労働等の再発防止策の整備
⑧ 従業員に対する和解内容の十分な説明
⑨ 再発防止策の実施状況を報告する全社集会の開催(年1回)
⑩ 調査結果・再発防止策等の遺族に対する報告
⑪ 会社ホームページ冒頭における和解骨子・謝罪文の掲示

特に、謝罪の条項については、ご遺族と話し合い、責任の所在が明確になるよう工夫しました。

まず、本件の発生原因が恒常的なパワーハラスメントや長時間労働であることを明記しました。その上で、代表取締役には、パワーハラスメントや長時間労働の発生を防止する義務を負っていたにもかかわらず、同義務を怠ったために男性の命が失われたことを謝罪していただきました。更に、労災認定後(提訴前)の交渉段階において真摯な対応をしていただけず、当時の代理人弁護士から「悪ふざけや余興の類いのものとして認識されており、取り立てて気にするほどのものでは無かった」、「同氏の自殺という結果を回避することは非常に困難であった」等、会社の法的責任を否定する内容の通知書が届いたことについても、再びご遺族を深く傷つけるものであったとして謝罪していただきました。

実態調査の結果や再発防止策の内容は、現時点ではわかりません。今後、会社から報告を受けることとなっていますので、ご遺族と一緒に代理人としても注視していきたいと思います。

4 ご遺族のコメント

和解成立後、青森県庁内で記者会見を開きました。そのときのご遺族(被災者の妻)のコメントを一部紹介します。
「会社との間で和解が成立しましたが、気持ち的には何も変わっていないというのが本音です。」
「かけがえのない命が失われ、子どもたちの父親はもう戻ってきません。この事実は、変わりません。」
「せめて、今回のことをきっかけに、今後は社員の命を大切にする会社に変わってほしいと願っています。」

5 おわりに

本和解の成立に当たっては、過去の過労死事件の和解例を参考にさせていただきました。

2022年2月の権利討論集会(第3分科会)でも、ちょうど過労死事件の和解例がテーマの一つとして取り上げられており、権利討論集会に参加して学んだ知識がとても役に立ちました。この場を借りて御礼申し上げます。

(担当弁護士は古川拓・川村遼平)

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