弁護士 村 田 浩 治
1 提訴までの経緯
大陽液送株式会社は、高圧ガス製造会社の子会社の運送会社である。1984年までに、労働組合が組織され活動してきた。組合員数 名、組織率ほぼ100%であった。ところが1996年頃から、大陽液送は、従業員(組合員)が退職する度に、正社員を補充せず、下請会社の運転手に置き換えてきた。タンクローリーは所有したまま、運送会社に配送させる運送業務請負契約を締結し、下請従業員が運転できるようにした。その結果、組合組織は弱体化する一方となり、ついには元請の大陽液送社員と下請社員の従業員数が逆転した。
請負会社は3社以上あったが、その後、統合が進められ、現在の「大田貨物運送株式会社」だけとなった。発注者の大陽液送従業員数は請負従業員の約半分となったが、請負従業員の仕事そのものは大陽液送の配車係が作成する搭乗票に記載されて指示され、大陽液送所有のタンクローリーを使って、同じように運転に従事し、急な変更の時は、相互に配送先を交代する等の実態で仕事をしていた。同じ事業所で仕事をする中で、いつしか大陽液送の労働組合が下請運転手らと親しくなり、労働組合が組織されるに至った。現在では請負会社の従業員(組合員)数が大陽液送の組合員数を上回っている。そして配車係の指示で同じように仕事をしており、請負というより、労働者派遣の実態があるのに、賃金に大きな格差があることを正すため団体交渉を重ねても、請負会社は、元請からの運賃の限界を盾に賃上げにも応じず、夏季及び年末一時金の支給すら拒絶し続けている。
2 労働者派遣の実態を無視した大阪地裁堺支部判決
同じ仕事をしているのに格差があるのはおかしいという実感は、2018年に最高裁判決が相次いだ不合理な差別を労働組合に想起させた。しかし、旧労働契約法20条裁判は、同じ会社の正規と非正規の格差の問題である。請負と元請従業員が同じ仕事をしていても格差を是正する法律はない。しかし、2019年の時点では、大陽液送の配車係が、日常的にラインや電話等で事細かな具体的な指示をし、請負会社の管理者からは何の連絡もないのが実態であった。運転手への指示の仕方に、大陽液送の従業員と請負会社従業員とで全く違いはなかった。請負会社は、タンクローリーを保有すらせず運賃計算に含まれるガソリンや車両のメンテナンスや保険費用を負担するだけだった。実態に照らせば、「運送業務委託契約」は名ばかりで労働者派遣に他ならないと当然判断できることから労働者派遣法40条の6の適用は可能であり、地位確認により格差是正を目指すべきだと判断した。
裁判では、大陽液送は、「運送業務請負契約」である以上、派遣法の適用の余地はないという形式論に終始した。労働省の派遣と請負の区別(Q&A)等を引用して、現在は配車係からの指示が請負会社の配車係を経由するようになっていること等や、一応の独立性を示す事情として高圧ガス事業者としての届出をして20年以上が経過していて専門性があるから、タンクローリーは自己所有ではなくても支障がないという程度の反論であった。
2022年5月11日、大阪地裁堺支部(木太伸広裁判長)は、原告側の最終書面提出前に結審し、僅か2ヶ月後の7月12日、請負契約であるというほぼ形式面で偽装請負(違法派遣ではない)を否定し、原告らの訴えを退けた。原告5名は大阪高裁に控訴した。請負会社は高圧ガス事業の登記すらしていない上、派遣業の登記があるのに許可すらとっていなかった。実態をみれば請負会社従業員らの労働力が「請負契約」の目的となっていることは明らかである。高裁で改めて契約形式ではなく組織に組み込まれているという実態を立証し、高裁での逆転を目指している。
(弁護団は、私と脇山美春)