民主法律時報

大阪大学非常勤講師解雇(雇止め)事件提訴

弁護士 中 西   基

1 はじめに

大阪大学には約1100名の非常勤講師が勤務している。その多くは、本業や本務校のない、いわゆる「専業非常勤講師」である。半年ないし1年の有期契約で、賃金は1コマ(120分)あたり1万3770円、月給にすると10~20万円程度にすぎない。生計のために複数の大学で非常勤講師を掛け持ちしながら、授業がない夏休み期間などは賃金がゼロになるためアルバイトで食いつないでいるという。

不安定な非常勤講師らにとって、雇用の安定は切なる願いであった。

ところが、大阪大学は、2023年3月末で、勤続10年となる非常勤講師約100名全員について、次年度の契約を更新しない(雇止めにする)とし、次年度も契約したければ、あらためて公募に応募せよと通告した。

本件は、このうち4名が原告となり、大阪大学に対して、地位確認と賃金を請求する訴訟である。

2 労働契約ではなく「委嘱契約」

大阪大学は、非常勤講師との契約を、労働契約ではなく「委嘱契約」(法的性質としては準委任契約)であると主張してきた。

大阪大学は、2007年に大阪外国語大学と統合しているが、原告の中には、大阪外国語大学の時代から非常勤講師として勤務してきた者もいる。大阪外国語大学の時代は労働契約であったのに、大阪大学に統合されてから以降は、勤務の実態は何も変わらないにもかかわらず、契約形態は「委嘱契約」(準委任契約)とされた。

この問題は、原告らが加入する関西圏非常勤講師組合が繰り返し追及し、国会でも問題であると取り上げられた結果、大阪大学は、2022年4月からは、非常勤講師との契約形態を労働契約に変更した。なお、契約形態は変更されたが、勤務の実態は従前とは何も変わっていない。

大阪大学が、「委嘱契約」という契約形態に固執し続けてきた理由は、そうすることによって労働者保護のための労働関係諸法令を潜脱しようという意図があったものと思われる。

3 10年直前での雇止め

大阪大学は、勤続期間が10年に達する非常勤講師の全員について、2023年4月以降の契約を締結(更新)せず、2023年3月末日付けで雇止めすると通告した。

これは、労働契約法18条の無期転換ルールが2013年4月から施行されており、大学教員任期法の特例(任期を定めて雇用されている大学教員について無期転換までの通算期間を5年ではなく10年とする特例)によっても、2023年4月以降は、無期転換権が発生することになるため、この無期転換を逃れるための雇止めであると思われる(それ以外に理由は見当たらない)。

大阪大学は、建前上、委嘱契約(準委任契約)であった期間については労働契約法18条の通算期間には含まれないと主張しつつも、本音のところでは、就労の実態からすれば労働契約であり、無期転換権が発生してしまうことを恐れて、このような雇止めの方針をとったものと思われる。

このように、大阪大学は、労働契約ではなかったという点と、 年未満で契約は終了したという点の、二重の意味での脱法行為により、非常勤講師らの無期転換を阻もうとしている。

4 人間の尊厳をかけた裁判

半年ないし1年という不安定な契約を、何年にもわたって繰り返している非常勤講師を大量に雇止めにするという大阪大学の引き起こした今回の事態は、研究・教育の府である大学が、組織的、系統的、しかも大掛かりに基本的人権を蹂躙するものにほかならない。

原告の1人は、第1回口頭弁論期日における意見陳述において、次のように述べた。

「本来、大学は、広い視野に立ち、誰もが平等・対等、自由闊達に研究・教育を行う場であるはずです。とりわけ苦難の時代にあっては、若い学生たちと真摯に語りあい、明日への光を見出していく希望の場でもあるはずです。その一端を担う教員自身が、生活の不安と精神的隷従に追い詰められていて、どうして、学生らとの伸びやかな学び合いの場が保障されるのでしょうか。(略)この国に生きる同じ人間として認めてほしい、私たちをいつもの教室に戻らせてください。」

原告らにとっては人間の尊厳をかけた裁判である。ぜひご支援ください。

(弁護団は、中村和雄、鎌田幸夫、冨田真平、喜久山大貴、中西基)

民主法律時報アーカイブ

アーカイブ
PAGE TOP