民主法律時報

格安賃料でのIR用地・借地権設定契約の 差止住民訴訟を提訴

弁護士 西 川 翔 大

1 はじめに

2023年4月3日、大阪府市が進めるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致をめぐり、大阪市が所有する大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)地区の一部をIR事業用地として、賃料を1㎡あたり月額428円で賃貸借契約(借地権設定契約)を締結することが著しく廉価であり、「適正な価格」による賃貸を求める地方自治法237条2項に違反するものとして、大阪市長及び大阪港湾局長を被告として、借地権設定契約の締結の差止を求める住民訴訟を提訴しました(同年1月16日に住民監査請求、同年3月15日に合議不調との監査結果を受領)。

2 違法な賃料価格設定の実態

訴状では、大阪市の依頼した不動産鑑定結果が不当であり、大阪市の設定した賃料価格が「適正な価格」ではないことを詳細に述べました。以下では、その要点を報告します。

(1) 複数の鑑定業者の鑑定結果が大阪市の定めた参考価格と一致していること
まず大阪市が依頼した不動産鑑定業者4社のうち3社の1㎡あたりの土地価格、期待利回り、月額賃料の鑑定結果が一致しました。不動産鑑定において評価手法・評価方針の策定、最有効使用の判定や標準的使用など多岐にわたる観点から鑑定が行われることから、3社の鑑定結果が一致することは業界の常識からしてもあり得ません。しかも、鑑定以前の最初の段階で大阪市が調査の依頼をかけた鑑定業者の調査結果を受けて大阪市が参考価格として設定した価格とも一致していました。2023年3月15日付の監査結果通知書から、鑑定業者に対する調査において、他の鑑定業者がどこかは大阪市職員から聞いて知ったと回答する業者も存在することが判明し、監査委員からも「不自然な印象を受ける」との意見が出されました。

さらに、IR推進局は最初に参考価格を提示した頃から「今の価格を大幅に変えることはない」旨を発言しており、2021年3月に再鑑定を行いましたが、新駅の設置やコロナ禍といった社会情勢の変化があるにもかかわらず、IR推進局の意向どおり最初の参考価格が維持されました。これらのことから鑑定結果を大阪市が指示した可能性は極めて高いと言えます。

(2) IR用地でありながら「IR事業を考慮外」としていること
本件土地はIR事業用地として利用することが予定されているにもかかわらず、全ての鑑定業者は「IR事業を考慮外」とする鑑定を行っています。大阪市の説明によると、鑑定業者1社から打診を受けて鑑定業者4社と「IR事業を考慮外」とすることを確認したと述べていますが、むしろそれ以前に大阪市側が付加条件に「IRを考慮外」とすることを指示していたことが資料には明記されており、大阪市の説明が誤っていたことが判明しました。

また、当初から高級ホテルの建設を予定しており、液状化対策等の土地改良費のために約790億円を支出することになっているにもかかわらず、評価条件としては1~2階建て「ショッピングセンター」を前提とした鑑定結果になっており、その不当性は明らかと言えます。

(3) 鑑定手法や取引事例の選択に不合理な点があること
さらに、土地改良費に790億円を拠出することを考慮する原価法を採用しなかった点や比較した取引事例が不適切であることなど鑑定評価の判断過程に不合理な点が多く、国交省の定める不動産鑑定評価基準から見ても不適切な点を多々指摘しています。

(4) 大阪市独自に「適正な価格」を設定する法的責任に反していること
以上の点から鑑定業者により行われた不動産鑑定結果が不当であることは明らかですが、大阪市はそれのみに依拠せず、最終的に独自に適正な賃料価格を設定する責任があります。しかるに、新駅の開発などが全く考慮されず、今後35年もの長期にわたって廉価な賃料で貸し続けることが予定されており、到底「適正な価格」とは言えません。

3 まとめ

本件借地権設定契約は、国の認可が下りればまもなく、長期にわたって廉価な賃料価格で締結されることが予定されています。結論ありきで強引にIR事業を推し進めようとする大阪市の姿勢を決して許してはなりません。今後、大阪市の答弁などから明らかとなる点も多々あると思いますので、今後の裁判の動向にご注目とご支援をいただければと思います。

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