民主法律時報

近畿大学における和解交渉について

弁護士 吉岡 孝太郎

1 法人の方針転換

これまで、学校法人近畿大学(以下「法人」)は、近畿大学教職員組合(以下「教職員組合」)を敵視する政策を取り続け、多数の集団的労使紛争や個別労働紛争が生じていた。2019年3月には、法人が過去の教職員組合の団体交渉における発言を謝罪しない限り団体交渉に応じないと通告していたことから、団体交渉の不開催が続いていた。

ところが、法人は、これまでの敵視政策を改めて労使関係を正常化する方針に転換し、これまで依頼していた弁護士とは別の弁護士を新たに選任して、団体交渉を実施したいと申し出てきた。昨年 月のことである。教職員組合は法人の申し出に応じることにし、昨年 月末より団体交渉や事務折衝を集中的に行ってきた。その結果、2020年3月 日に第1次包括協定が締結された。

2 第1次包括協定の内容

大阪府労働員会で団体交渉の実施要項をまとめたにもかかわらず、法人がこれを遵守していないこと等を踏まえて、第1次包括協定では、より詳細な団体交渉実施要領を策定された。

また、これまで法人が非民主的な方法により過半数代表選挙を強行していたことを踏まえて、第1次包括協定では、民主的な選挙により過半数代表者を選出することが約束された。具体的には、選挙管理委員会の設置、選挙活動の自由、無記名投票等である。第1次包括協定と同時に締結された労働協約では、教職員組合から選挙管理員会の委員に一定人数を推薦することも認められた。非民主的な選挙により選出されてきたこれまでの過半数代表者は教職員に意見聴取することなく職務を遂行し、その内容も全く不明であった。そのことを踏まえて、第1次包括協定では、過半数代表者がその責務を果たすに際しては労働組合との協議を含めて教職員に対して事前に意見聴取をしなければならないことが明記された。のみならず、過半数代表者がその職務を遂行するにつき使用者より交付された資料、自ら作成した意見書、並びに安全衛生委員会に推薦した者等を公示しなければならないことが明記された。

その他、第1次包括協定では、研究休暇の取得要件の大幅緩和や、手当(文芸学部の役職手当、附属高校の補習手当)の増額等を実現するとともに、教員評価制度の再検証、就業規則の改定案の事前告知、入試業務の平準化や負担軽減の検討等も確認された。互助会関係では、採用時に事実上強制加入とされていたことを改め、加入の任意性を明確化・周知化し、互助会費の賃金控除を規則化することも約束された。残された課題についても、包括和解交渉で順次解決すべき課題を明記し、2020年6月末、同年9月末、同年12月末までに全て解決するように努めることが確認された。

以上の和解を踏まえて、互助会の天引や過半数代表の選挙の有効性等を争っていた訴訟は取り下げることになった。

3 個別和解

第1次包括協定が締結された令和2年3月31日に、文芸学部の組合員が専攻主任の地位を解任された事件についても個別和解をした。これにより、当該組合員は、同年4月1日から専攻主任の職に復帰した。また、文芸学部の専攻主任は他の学部の学科長とほぼ同一の職にありながら、学科長と比べて手当の額が低く抑えられていた。そのため、個別和解により、復帰後の専攻主任の手当も学科長と同等の手当が支給されることになった(より一般化した規定は第1次包括協定で明記された)。

以上の和解を踏まえて、専攻主任の解任を争う訴訟や救済申し立て等は取り下げることになった。

4 評価と課題

法人が、組合敵視政策を改めて労使関係を正常化する方針に転じたことは評価できる。こうした法人の方針転換は、教職員組合の長年にわたる粘り強い闘争が結実したものである。法人は、組合敵視政策により労使紛争を多くかかることになり、かえって疲弊し、レピュテーションリスクを無視できなくなったと思われる。団体交渉は8時間を越える日もあり、3月に入ってからの法人交渉、組合内の意見集約及び和解条項の確定作業には膨大時間を要した。私から見ても、法人側が労使紛争を解決したいと本気で考えていると実感した。

他方で、法人と教職員組合との間で解決しなければならない課題は非常に多く、今回解決できたものはその一部にすぎない。不当な雇止めや解雇をされた組合員の救済は未だ実現しておらず、この点は大きな課題である。残された課題を順次解決していくことは必要であるが、彼らの救済なくして真の解決はないというスタンスで労使交渉に臨む必要がある。

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