民主法律時報

枚方市組合事務所事件・中労委命令報告

弁護士 加 苅   匠

1 事件の概要

枚方市(伏見隆市長)は、2018年12月、枚方市職員労働組合(市職労)が組合ニュースに政権を批判する記事を掲載したことを理由として、職員会館内にある組合事務所の使用許可の取り消しを予告し、即刻退去するように通知しました。

2020年11月30日、大阪府労働委員会は、枚方市の対応は不当労働行為(支配介入・団交拒否)にあたるとして、誓約書の交付等を命じる救済命令を出しました。もっとも、府労委命令は、枚方市が組合ニュースに政治的な記事を掲載しないよう干渉したことについては具体的な疎明がないとして判断を避けるなど、不十分な点が残りました。

そこで、市職労は、組合ニュースへの干渉行為自体が支配介入にあたるとの判断を求めて、中央労働委員会に再審査を申し立てました。

2023年2月22日、中労委(担当公益委員は鹿士眞由美弁護士)は、枚方市による組合事務所の明渡しにかかる対応が不当労働行為であるとの判断は維持したものの、再審査申立ては棄却しました。

2 枚方市の不当労働行為(支配介入・団交拒否)を改めて認定!

中労委命令は、労働組合は「組合活動に関連して、表現の自由の範囲内において、一定の政治的意見を表明すること」が許容されており、「組合事務所の明渡しが組合活動に与える影響は極めて大きく、組合活動に直接的な支障を生じさせるおそれがある」ことや、同じく組合ニュースに政治的記事を掲載していた別組合(自治労枚方)との取扱いに差異があることを認定して、枚方市が組合ニュースの記載内容を理由として組合事務所の明渡しを求めたことは支配介入であり、また組合事務所の使用に係る団体交渉を拒否したことは団交拒否であるとして、府労委命令に続き枚方市を断罪しました。

3 残された課題

中労委命令は、枚方市が市職労に対し「政権・政党批判や、労働条件に関係が薄い法案に関する記事の掲載を遠慮してほしい」旨求めたことを認めました。もっとも、枚方市が組合事務所の使用について「職員の勤務条件の維持改善及び職員の福利厚生の活動に限る」との条件を付け加え、「戦争法廃止」「維新政治反対」などの特定の政治的な意見を掲載することが上記条件に反するとする基準を設定することには「一定の妥当性」があるとし、これに基づき組合ニュースに干渉したことは「市なりの論拠がある」として、支配介入に当たらないと判断しました。

しかし、労働組合には、組合員の経済的地位に関する活動のみならず、社会的、文化的、政治的活動など広い範囲の活動を行う権利が保障されています。とりわけ、地方自治体職員の経済的地位は政治情勢と密接不可分であり、また自治体労働組合には、地域住民の生活と権利を守るために、時の政府や市政の問題点を指摘し批判する責任があります。そのため、労働組合の活動のうち政治的活動を禁止し、形式的に職員の勤務条件の維持改善等にかかる活動に制限することは、労働組合の団結権行使を不当に制限するものであって許されません。

また、組合ニュースに政治的な記事を掲載することは、組合員への情報伝達、意見の共有、組合活動への参加促進、組合員間のコミュニケーションツールとして機能するなど、組合員の団結に直結します。このような発信の積み重ねが、より強く大きな団結へ、ひいては職員の経済的地位の向上に繋がるのであって、職員の勤務条件の維持改善等と無関係ではありません。

中労委の判断は、団結権の内容や組合ニュースの意義について正しく理解せず、市長の意に沿わない記事の掲載を抑制するために当局が用意した枠組みをそのまま認めるもので、誤りというほかありません。

4 おわりに

市職労及び弁護団は、上記中労委の誤った判断を是正させ、組合ニュースに対する干渉そのものを阻止するために、引き続き奮闘していきます。ご支援をよろしくお願いいたします。

(弁護団は、豊川義明、城塚健之、河村学、中西基、谷真介、西川大史、加苅匠)

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