民主法律時報

伏見・枚方市長による組合事務所の明渡要求を不当労働行為と断罪

弁護士 西川 大史

1 はじめに

大阪府労働委員会は、2020年11月30日付で、枚方市が枚方市職労に対して、組合事務所の明け渡しを求めたこと、団体交渉を拒否したことが不当労働行為に該当するとして、団交応諾と謝罪文の手交を命じる救済命令を交付しました。

2 事実の経過

枚方市職労は、1971年1月から、枚方市庁舎敷地内の職員会館の一部の貸与を受けて、組合事務所として使用してきました。枚方市職労が一年ごとに行政財産使用の許可申請をして、枚方市が許可決定するという取扱いがなされてきました。

2015年8月に枚方市長に就任した伏見隆氏(大阪維新の会)は、前職の枚方市議時代から、労働組合に対する批判を繰り返しており、市長就任後には、「戦争法廃止・憲法守れ枚方実行委員会」が作成した「戦争法の廃止を求める統一署名のお願い」という文書に枚方市職労の連絡先が記載されていたことをとらえて、枚方市職労に対して、「その手法いかんによっては…他の職員、ひいては本市そのものの名誉を傷つける事態をもたらす恐れ」があるので、「職員団体として常に節度ある活動を求める」との文書を発出しました。

伏見市長は、2016年3月31日に、枚方市職労への平成28年度の職員会館の使用許可に際して、使用目的として「組合事務所としての利用(職員の勤務条件の維持改善及び職員の福利厚生の活動に限る)」との条件を付しました。その後現在に至るまで、このような条件付きの許可が繰り返されています。

伏見市長は、枚方市職労が市職員向けに毎日発行する組合ニュースをチェックし、戦争法反対や安倍政権・維新政治を批判する記事の内容について、職員の勤務条件に関わらないとして介入を繰り返し、政治的な内容の記事を掲載しないよう干渉しました。そして、伏見市長は、2018年12月27日には、枚方市職労に対して、組合ニュースの記事の内容が政治的であるという理由で、職員会館の平成 年度の使用許可を取り消すと予告したうえで、自主的に職員会館から退去するよう通知しました。

枚方市職労は、枚方市に対して、組合事務所からの退去を求めた理由などについての協議を求めて団体交渉を申し入れましたが、枚方市は、団体交渉を拒否しました。

なお、府労委が、2019年2月14日に、辻田博子公益委員名義で、枚方市に対して、「これ以上労使紛争が拡大しないよう、労働組合法の趣旨に従い、適切に対応されたい」と文書による要望書を出したこともあり、組合事務所の明け渡しや使用不許可処分という最悪の事態を避けることができています。

3 府労委命令の判断

府労委は、「労働組合による機関紙の発行は、労働組合活動上、極めて重要な役割を持っており、…団結権を保障する観点から、これに対しては十分な保護が必要」であること、組合事務所からの退去を求めることは、「組合に記事の掲載を委縮させ、組合活動に直接的な支障を与えることとなりかねない」と正当な判断をしました。そのうえで、府労委は、「組合が組合事務所で政権や特定政党への批判的な記事を掲載した組合ニュースの印刷・発行を繰り返したとして、枚方市が組合事務所の明け渡しを求めたことは、組合活動を委縮・弱体化させる支配介入」であり、不当労働行為との判断を示しました。

また、府労委は、枚方市の団交拒否についても、不当労働行為と判断しました。

4 府労委命令の意義と課題

地方公共団体が労働組合に対して、組合ニュースの内容をチェックし、その内容が市長の意に沿わないことを理由に組合事務所の明け渡しを求めることは言語道断です。府労委命令は、伏見市長による一連の対応が、組合活動の自由・言論の自由を奪う不当労働行為であり、完全に誤っていることを示すとともに、伏見市長に対して、これ以上の不当労働行為を繰り返さないよう警告を与えるものでもあります。

もっとも、府労委命令には、大きな問題もあります。府労委命令は、①組合事務所の使用許可に条件をつけたこと自体は問題があるとまではいえない、②組合ニュースの記事を確認して、組合の活動内容を把握することは許されないわけではない、③政治的な内容の記事を掲載しないよう干渉したことについては具体的な疎明がなされていないとして救済を否定しました。

伏見市長は、府労委命令後も不当労働行為を反省することなく、府労委命令の取消訴訟を大阪地裁に提起したため、枚方市職労も、府労委命令の前記の問題点を是正すべく、中労委に再審査申立をしました。

今後の闘いの舞台は、中労委及び大阪地裁に移ります。伏見市長による一連の不当労働行為を是正させて、労働組合の言論活動に対する露骨な介入を絶対に許さないために奮闘していきます。今後ともご支援くださいますよう宜しくお願い致します。

(弁護団は、城塚健之、河村学、中西基、谷真介、加苅匠各弁護士と西川大史です。)

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