民主法律時報

不当なシフト外し、労働審判で勝利和解

弁護士 西 川 大 史

1 はじめに

非正規労働者の勤務シフトが一方的にカットされる「シフトカット」が社会問題となっている。シフト制労働者は時給制、日給制で働いていることが多く、シフトカットは賃金の減額を意味する。しかも、シフト制労働者は、シフトを簡単に減らされる恐怖に晒されるなど非常に脆弱な立場にあり、シフト制労働の問題はコロナ禍で浮き彫りになった非正規労働の新たな課題である。

そのような中、一人の女性が不当なシフト外しに屈することなく立ち上がり労働審判を申し立て、2022年6月24日に勝利和解が成立した(担当審判官は窪田俊秀裁判官)。

2 事案の概要

Aさんは、大阪市内の鍼灸整骨院で鍼灸師、受付事務などの業務を担当するシフト制労働者である。Aさんへの労働条件通知書には、「始業7時30分~終業21時30分」「時間の中でシフト勤務制とする」と記されているだけだが、実際には週3日、午前7時30分から12時まで勤務をしていた。

2021年4月に、整骨院の従業員が新型コロナウイルスの濃厚接触者の疑いがあると指摘され、妊娠中のAさんは、産婦人科医から、感染予防のために休業するよう指示され、整骨院にその旨を伝えて休業した。その数日後、Aさんは、整骨院の代理人弁護士に対して、シフトに入れて欲しいと要望したが、整骨院は新たに作成する2021年5月21日からの勤務シフトにAさんを入れず、シフトに入れないことの合理的理由を説明することもなかった。Aさんは、その後もシフトに入れるよう要望を続けたが、整骨院の代理人弁護士は、Aさんをシフトに戻すことはなく、それどころかAさんに対して、退職を前提とする少額の解決金による解決まで提案した。

結局、整骨院がAさんをシフトに戻すと回答したのは2021年8月5日のことであり、「来週より、従前どおり、月水金の午前7時30分から正午まで出勤いただきたい」との内容だった。なお、Aさんは、8月下旬から産休の予定であり、整骨院が従前Aさんと約束していた母性健康管理措置をとらないと明言したことなどから、現実に就労することはできず、産休を取得することになった。

3 労働審判委員会の判断

Aさんは、①週3日勤務を内容とする労働契約が成立しているとして、民法536条2項に基づく賃金請求、②合理的理由のないシフト外しが不法行為であるとして、2022年2月に労働審判を申し立てた。

労働審判委員会は、整骨院側の不合理な主張を排斥し、Aさんの切実な声に耳を傾け、第1回期日において、「2021年5月21日から8月5日までは、月水金の午前7時30分から正午までという従前どおりの内容で、申立人をシフトに組み入れることが可能であった」との心証を開示し、Aさんに対して同期間の賃金に相当する解決金の支払での和解を提案した。

整骨院側は、審判委員会の和解案をなかなか受け入れず、第1回審判期日後に、何度も主張書面を提出して、シフト外しの理由を繰り返し主張したが、労働審判委員会を説得できるような主張内容ではなく、Aさんに対する解決金の支払、育休後の労働条件について誠実に協議するとの内容で和解が成立した。

4 和解の意義

本件は、Aさんに対するシフト外しが違法であるとの心証を踏まえた勝利和解である。整骨院による不当なシフトカットを許さないとの裁判官及び労働審判員の正義も伝わってきた。

不当なシフトカットに苦しむ労働者は少なくない。しかしながら、在職中であることや、請求金額が大きくないことなどから、泣き寝入りを余儀なくされている労働者が多いのが現実である。

Aさんも在職中であったが、勇気を出して労働審判を申し立て、勝利和解を勝ち取った。Aさんの勇姿は多くのシフト制労働者の励みになるものである。不当なシフト外しに屈することなく立ち上がったAさんに敬意を表したい。

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