民主法律時報

いわゆる「大阪都構想」住民投票パンフ住民訴訟 控訴審不当判決

 弁護士 岩 佐 賢 次

二度目の大阪市廃止・特別区設置のいわゆる「大阪都構想」の住民投票に先立ち、大阪市が作成し全住民に配布したパンフレット(都構想パンフ)への公金支出が違法であるとして、松井市長及び副首都推進局長に対し、同費用の賠償を求めるよう大阪市に求める住民訴訟について、2024年4月25日に大阪高裁で控訴を棄却する不当判決が出された。

1 事案の概要

2020年11月の二度目の「大阪都構想」住民投票の際に、全住民に上記都構想パンフが配布された。大都市地域における特別区の設置に関する法律(以下「大都市法」という。)7条2項では、住民投票に際し「選挙人の理解を促進するよう、特別区設置協定書の内容について分かりやすい説明をしなければならない」と定められており、この分かりやすい説明の一環として、大阪市が公費で作成し、配布したのが上記都構想パンフであった。しかし、上記都構想パンフの内容は、特別区設置に関し、大阪市民を住民投票の賛成に誘導し又は大阪市民に誤解を与えるものであった。そこで、大阪市民の原告らは、上記都構想パンフの作成・配布には違法性があるとし、大阪市に対し、当時の副首都推進局長と大阪市長に損害賠償請求するよう求めたのが本件住民訴訟である。

2 大阪高裁の不当判決

大阪高裁第1民事部(山田明裁判長、横路朋生裁判官、石本恵裁判官)は、都構想パンフの記載内容が客観的かつ中立的な説明ではないと認定しながら、上記大都市法7条2項の「分かりやすい説明」について客観的かつ中立的な立場ではなく特別区の設置を推進する立場から説明をすることを禁止するものではないとして、原判決と同様、都構想パンフの作成・配布に違法性はなかったとした。

すなわち、高裁判決は、①市長が大都市法上、特別区設置を推進する立場にあることが想定されており、大都市法は市長がそのような立場にあることも踏まえて、説明する者を市長としたこと、②同様に憲法改正の国民投票の際の分かりやすい説明を定めた国民投票法には「客観的かつ中立に行う」旨の規定(14条2項)があるが大都市法にはこのような規定がないという原審の判断に加え て、③「分かりやすい説明」という文言は、多種多様な方法や内容を包含し得る抽象的なものであるし、同法は「分かりやすい説明」に関する方法や内容について具体的な定めを置いていないから、同項に基づく説明の具体的な方法や内容等については、関係市町村の長の合理的な裁量に委ねられているものと解するのが相当、などを理由として、市長の分かりやすい説明は客観的かつ中立的な立場から行うことまで求められておらず、推進する立場からする説明を禁止する趣旨ではないと解釈したのだった。

原告・弁護団は、行政・公務員の中立性や住民自治などについて述べた上で、住民投票の際の情報提供の中立性について述べた文献やこれを定めた住民投票条例、国民投票法に加えて、欧州評議会ヴェニス委員会が作成し採択された「レファレンダム(国民投票・住民投票)についての適正実施基準をも引用しながら、直接民主制たる住民投票に当たって住民がきちんと判断できるために行う情報提供である以上、客観性・中立性が求められる(提供される情報が偏った場合、偏った情報で住民が意思決定をすることになり、住民の意思が歪められてしまうおそれがある)ということを主張し、大都市法が準用する公職選挙法上の地位利用にあたることや、中立性確保条例違反などの追加主張をしたが、残念ながら退けられた。

3 上告審及び今後の取組について

この高裁判決も、住民自らが決定するという直接民主制の現れであり法的拘束力が伴う住民投票に当たって行政が行う情報提供の措置であり、かつ、地方自治体が公費を使って行うものであるにもかかわらず 、これが客観的かつ中立的なものでなくてもよいとするものである。これは、住民による意思決定を不当に軽視し、行政の長としての市長の立場と政治家としての立場を混同するもので、政治による行政の私物化を追認するものと言わざるを得ない。

一方、高裁判決は、「『分かりやすい説明』は、選挙人に対し、その理解を促進するために、特別区設置住民投票に際し、特別区の設置をするか否かについての各自の判断を形成するために必要十分な情報を提供するための具体的な措置の一つである」とし、「上記判断を形成するために必要な情報として、特別設置の利点だけではなく、設置により生じる可能性がある問題点についても触れる必要があり、また、合理的な根拠に基づき、事実の隠蔽やわい曲をすることなく、正確な説明をする必要があるものと解され、上記問題点に全く触れなかった場合や、重要な点に関する説明内容に、客観的な事実に反したり、重大な事実を隠蔽・わい曲したり、合理的な根拠に基づかないものがあったりした場合には、上記裁量の範囲を逸脱し 、「分かりやすい説明」をしていないものとして、違法になる場合もあるものと解される。」と判示し 、原審と異なり、行政の長に全くのフリーハンドを許すものでは決してなく、行政裁量の逸脱についての一応の基準を示した点では、収穫はあったといえる。現段階では上告するか否かは未定であるが、上告をした場合には 、不当な判決を覆すべく弁護団一同奮闘する所存である。

また、平気でデマを流す維新の会の宣伝姿勢を許さないためにも、上記裁量逸脱の基準を示した控訴審判決を活かし、ファクトチェックを行う体制づくりなど、維新政治の欺瞞性を具体的に明らかにし、これを広報するという取組を強化する必要がある。この点でも会員の皆様には引き続きご協力をお願いしたい。

(5名の弁護団のうち、民法協会員弁護士は冨田真平弁護士と岩佐。)

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