民主法律時報

日検事件 逃げる派遣先、捕まえぬ裁判所――偽装請負の責任は誰も取らないのか?

弁護士 増 田  尚

偽装請負にて働かされていた派遣元の日興サービスの労働者16名が派遣先事業主である一般社団法人日本貨物検数協会(日検)に対し、2012年の労働者派遣法改正に伴い導入された労働契約申込みみなし制度(労働者派遣法 40条の6)に基づき、労働契約が成立したとして、地位確認を求めた事件の控訴審で、名古屋高裁(萩本修裁判長、池田信彦裁判官、飯野里朗裁判官)は、2021年10月12日、一審・名古屋地裁判決に続いて、労働契約の成立を否定し、控訴を棄却する不当判決を言い渡した。

一審判決の問題点と控訴審の争点

一審判決(民主法律時報567号既報)は、脱法目的での偽装請負を認めつつ、労働者派遣法40条の6に基づき派遣先事業主が労働契約を申し込んだものとみなされている期間(派遣法違反行為が終了した日から1年以内)に、派遣労働者らが承諾の意思表示をしなかったとして、労働契約の成立を認めなかった。一審判決は、控訴人らによる承諾の意思表示の有無について、「通常の労働契約締結における承諾の意思表示と何ら異なるものではない」とした上で、「労働者がみなし申込みの存在を明確に認識」し、あるいは、「みなし申込みの存在を前提とするもの」でなければならないとの見解に立ち、所属する労働組合(全港湾)から日検に直接雇用の要求があったとしても、いずれも、「みなし申込みを受けて」なされたものとはいえないとして、承諾の意思表示とは認めなかった。また、一審判決は、2016年3月31日をもって業務委託契約が終了し、同年4月1日から労働者派遣契約が発効したから、これにより偽装請負状態が解消されたとして、そこから1年を経過した2017年4月1日の到来をもって、みなし申込みの効力は消滅したと判断した。

しかし、一審判決の考え方によれば、派遣労働者に秘密裏に派遣に切り替えて1年の期間が経過するのを待てば、労働者が承諾の意思表示をして派遣先への直接雇用を選択する機会を奪われてしまうことになる。

そこで、このような不条理を解消する法解釈として、控訴人らは、控訴理由書において、以下のとおり、いずれかの法解釈を採用して、地位確認請求を認容すべきであると主張した。

すなわち、①承諾の意思表示を一審判決のように厳格に解するのは誤っており、派遣先に対する労働契約の締結を認める何らかの意思表示(労働契約の本質的要素の一致)があれば足り、あるいは、みなし申込みの事実(偽装請負の事実)を認識していなくともよいのであるから、控訴人らが所属する労働組合が日検に対し直接雇用(移籍)を要求したことをもって、承諾の意思表示をしたものと理解すべきである。

また、②本件において、派遣元事業主と派遣労働者との間で派遣労働契約の締結(労働者派遣とすることについての派遣労働者の同意の取得、労働者派遣法32条2項)がなく、派遣労働者との関係において、派遣先が指揮命令する根拠を欠いており、また、日検と日興サービスとの労働者派遣契約が労働契約申込みみなし制度の適用を免れるために日検の意向で形式的に締結されたものであることからも、同法40条の6第1項5号の労働者派遣法違反行為=偽装請負が終了したとはいえない。

さらに、③偽装請負の労働者派遣法違反行為が終了したと解するとしても、派遣労働者が偽装請負を認識するまでは、法律により擬制されているにすぎない派遣先事業主からの労働契約の申込みがあったことを知ることができず、選択権を行使して派遣先事業主との労働契約の成立を求めることはできないのであるから、1年の期間制限も進行しない。

これらのいずれの法解釈にもよることができない場合には、④もはや法の形式的不備というほかなく、信義則(民法1条2項)に反するものとして、日検からの期間制限の主張を封ずることにより、実質的な権利救済を図るほかない。

以上の4つの主張を争点として、4回の口頭弁論期日にわたって、主張立証の応酬がなされた。

控訴審判決の不当性

控訴審判決は、これらの争点につき、いずれも、控訴人らの主張を排斥した。

①の承諾の意思表示については、「それがみなし申込みに対する承諾の意思表示と実質的に評価し得るものであれば足りると解」して、一審判決に比べて緩和したものの、労働組合による直接雇用の要求については、派遣元の労働条件によるのではなく、派遣先の労働条件が有利であれば、その適用を求めるなど、「いいとこ取り」をするものであるとして、みなし申込みに対する承諾とはいえないと判断した。しかし、申込みみなし制度により労働契約が成立した場合の労働条件も、派遣元の労働条件によるものと擬制されるにすぎない(労働者派遣法40条6第1項柱書)。労働組合として、派遣先での直接雇用を求めるに際し、法令で定められるよりもよい労働条件を求めることは当然のことであって、「いいとこ取り」などと揶揄するのは、労働組合に対する無理解、不見識も甚だしい。みなし申込みに対する承諾としては、派遣先との間に労働契約を成立させる意思があれば足り、労働条件の相違は問題とならない。

②の偽装請負の終了については、派遣労働者から同意を取得すべきは派遣元であるとの形式論に終始し、正面からの回答を回避した。

③の派遣労働者の偽装請負の認識の要否についても、参院厚労委の附帯決議にて、「派遣労働者がみなし制度を利用できる状態にあることを認識できる仕組みを設けること」が掲げられたことを指摘しながら、結局、実効性を担保する措置が講じられなかったことや、法文上、派遣労働者の認識を承諾期間の起算点とするようにされていないことなどとして、控訴人らの主張を排斥した。

④の信義則違反についても、府労委からの求釈明に回答を拒否し続けたことについて、「承諾期間を経過するまでみなし申込みの存在を隠蔽しようとしたといわれてもやむを得ない」とまで言いながら、「故意に妨害したと評価することはできない」などした上で、「みなし申込みに対する承諾(選択権行使)の機会を得られなかったのは、…申込みみなし制度そのものに内在する実効性の問題に由来するともえいる」などと法の不備に責任転嫁をした。

そもそも、労働契約申込みみなし制度は、労働者派遣法に違反して派遣労働を受け入れた事業主に対する民事的制裁として、直接雇用の原則に戻って、法違反の是正方法として派遣先で雇用させることが派遣先の法違反への関与実態等からしても妥当であるということから、派遣労働者を保護するために設けられたものである。その上で、派遣先事業主から労働契約の締結を申し込んだものとみなすこととして、派遣先事業主との労働契約の成立を派遣労働者の承諾にかからしめることにより、派遣労働者の選択権を付与したのである。

しかるに、日検は、偽装請負の労働者派遣法違反をしておきながら、その民事的制裁を免れようとして、日興サービスの労働者に対し、偽装請負にあったことをひた隠しにして、府労委の審査でも回答を拒否して、隠蔽を図ったのである。このような隠蔽をした派遣先事業主が、改正法に基づく雇用責任を取らなくてもよいことになれば、派遣労働者保護の改正法は無力というほかなくなる。このような場合に、司法は、法の趣旨に立ち返って、脱法行為を許さないことが求められていたはずである。しかるに、名古屋高裁は、法の不備だと思考停止をして、派遣労働者の保護に背を向けたのである。

控訴人らは上告及び上告受理申立てをした。最高裁は、日検の「逃げ得」を許さず、労働者派遣法違反を重ねた民事的制裁を加えなければならない。最高裁での逆転勝訴に向けて引き続いての支援を呼びかけたい。

(弁護団は、坂田宗彦、西川大史、冨田真平と当職)

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