民主法律時報

違法な滞納処分に対する国家賠償請求事件の不当判決について

弁護士 西 川 裕 也

1 はじめに
国が行った給料債権の差押えが違法であるとして国家賠償請求等を求めている訴訟において、令和5年12月7日に大阪地裁第7民事部(裁判長徳地淳)が、原告の請求をいずれも棄却するという不当な判決を下した。上記の判決に対しては、既に控訴をしており、地裁の判断を覆すために準備を進めている。

2 事案の概要
(1)先行滞納処分及びこれを違法とした先行訴訟の高裁判決
原告の滞納国税を回収するために、税務署により原告の給料の振込口座が差押えられた。その後、取立、配当が行われ、滞納国税に充当された。

同滞納処分について、原告は、先行差押処分及び先行配当処分の取消しや国家賠償又は不当利得返還を求め、大津地裁に訴訟を提起した(先行訴訟)。

先行訴訟では、地裁は原告の請求を退けたものの、高裁は、令和元年9月26日に、原告の請求を一部認める判決を出した。高裁は、原告の求めた先行差押処分等の取消しの訴えをいずれも却下したが、先行差押処分が実質的に差押えを禁止された給料等の債権を差し押さえたものと同視することができる場合に当たり、差押禁止の趣旨に反するものとして違法となるとして、差押可能範囲を超えた金員について不当利得返還請求を認めた。

国は、上記の高裁判決に従い、令和元年11月8日、原告に対して、不当利得として判決理由で違法とされた2万5307円を返還した。

(2)返還した2万5307円分の国税支払要求、被告の説明拒否、差押え
その後、税務署は、上記(1)で2万5307円を返還したことで滞納国税が増加したとして、原告に対し、これを含む滞納国税の支払いを求めた。これに対し、原告が税務署に対し、どうして一度支払った扱いにされた国税が復活するのか法的根拠の説明を求め、納得できる説明があれば支払う旨を伝えたが、税務署からの説明はなかった。
大阪国税局長は、その後も原告に説明をしないまま、上記2万5307円も含めて、令和3年5月18日、原告の5月分の給料債権に対して差押処分(本件差押処分)を行った。
これに対し、原告は不服申立てを行ったが、大阪国税局長は原告による不服申立てを知りながら取立、配当(本件配当処分)を行った。

(3)本件訴訟の提起
原告は、本件滞納処分(本件差押処分及び本件配当処分)が違法であり、また説明を拒否した点も違法であるとして、国家賠償及び不当利得返還を求めて令和3年10月18日に大阪地裁に提訴した。

3 本件訴訟の争点
(1)不当利得返還請求について
・本件差押処分・配当処分に基づい て得た本件徴収金の法律上の原因の有無等
・悪意の受益者該当性
(2)国家賠償請求について
・本件各滞納処分等の国賠法上の違法性の有無
・説明を拒否した点について説明義務違反の有無等、損害の有無及びその額

4 本件訴訟の意義と今後の戦い
本件は、滞納処分によりいったん充当まで行われた(したがって税務署の処理としてはいったん消滅した)滞納国税が、その後の訴訟で同滞納処分の違法性及び不当利得返還が認められることで、消滅しなかったものとされ、同滞納国税について再度滞納処分が行われた事案である。

なお、先行する滞納処分は違法とされた部分も含めて取り消されていない状況で、違法とされた部分の金額が不当利得として滞納者に返還された。この場合に、処分を取り消すことなく違法部分を滞納者に返還することで、一度消滅したはずの滞納国税が復活するかどうかについては、法律上の明文規定はない。

そのため取り消されていない処分について現金を返すことをもって滞納額として復活させてよいか(処分の取り消しなく滞納国税として復活させるには別途法律の定めが必要なのではないか)が問題となる。

国は、いったん充当まで行われたとしても、その後の訴訟で滞納処分の違法性が明らかとなった場合は、対象となった滞納国税は依然として存続していると主張した。大阪地裁はその国の主張を採用し、原告の請求を棄却した。
このような判断が認められてしまえば、国は、滞納処分が違法とされた場合に対象となった滞納国税を徴収できなくなるというリスクがなくなり、滞納処分を行う際に、違法であっても結局は徴収できることから、違法にならないかどうかを十分検討することなく滞納処分を安易に強行することにつながりかねない。

他方で、いったん充当まで行ってしまった後に、万が一滞納処分が違法とされた場合には対象となった滞納国税が消滅し徴収できなくなるということになれば、国としては、自ら行った滞納処分が万が一違法となれば同滞納国税を徴収できないという大きなリスクを負うことになり、差押処分が違法となることがないよう慎重に検討するようになり、結果として、違法な滞納処分の抑止につながる。

本件訴訟は、違法な滞納処分を受けた原告の被害回復を求めるのみならず、違法な滞納処分の抑止にもつながる訴訟であることから、控訴審において適切な判断が下されるように努める所存である。

(弁護団は勝俣彰仁、牧亮太、楠晋一、尾﨑彰俊、冨田真平、西川裕也)

民主法律時報アーカイブ

アーカイブ
PAGE TOP