民主法律時報

三洋電機多重偽装請負労災切り事件が和解解決

弁護士 谷  真 介

1 はじめに

 本件は、平成21年11月に、三洋電機の元請負(派遣)社員であるIさん(北河内合同労組組合員)が、三洋電機及び請負(派遣)会社2社の合計3社を被告にして大阪地裁に提訴した事件である。平成23年9~10月にかけて原告本人尋問・証人尋問が行われた後、裁判所(裁判長・中垣内健治裁判官、主任・別所卓郎裁判官)の強い和解勧告の末、裁判上の和解によって解決したので、報告する。

2 事案の概要

 事案は極めて複雑であり、Iさんが三洋電機で就労を開始した時点から順を追って説明する。

(1)デジタルカメラ事業部時代(平成17年12月~平成19年9月)
  Iさんは、設計業務などを専門とする請負会社ヒップ(この会社は被告にしていない)の正社員として契約し、平成17年12月から請負契約という名目で三洋電機大東事業所において事前面接を受けた上で合格し、デジタルカメラのCCD基板の設計業務に従事した。三洋電機とヒップとの間には、三洋電機とリクルートが共同出資した人材派遣管理会社であるリクルートファクトリーパートナーズ(RFP。当時の社名はリクルート三洋ヒューマン)が介在し、二重の請負契約の形であった。
 Iさんを含むRFPを介した派遣・請負社員は、皆RFPの作業着を着て業務を行っており、直接三洋電機の正社員から口頭やメールで指示を受けて作業に従事していた。ヒップやRFPの社員は業務内容の把握すらしておらず、職安法44条に明確に違反する2重の偽装請負状態での就労であった。

(2)テレビ事業部時代①(平成19年10月~平成20年4月)
  平成19年9月、IさんはRFPと三洋電機から、事業所内での部署をデジタルカメラ事業部からテレビ事業部に無理矢理移籍させられた(配置転換)。それと同時に、請負会社もヒップから静岡の請負会社である東和テックへ移籍することとなった。東和テックもRFPを通しての請負契約であり(二重の請負契約)、しかもその際、東和テックとIさんとの契約は「業務委託契約」(いわゆる個人請負契約)とされ、社会保険等も未加入の状態となった。しかし就労時間によって給与計算がなされるなど「業務委託」とは名ばかりで、Iさんは完全に労働者として就労していた。この事案を複雑にしているのは、ここで東和テックとの間で問題となる労働者性の問題に加え、さらに偽装請負(しかも2重)が加わるため、使用者性の問題も生じることであった。
 Iさんは設計業務をすると言われてテレビ事業部に移籍したはずであったが、実際に従事したのは、大型テレビの試験器の部品を運搬して、組み立てて検査、試験をするという仕事であった。部品のうちとりわけ液晶パネルは非常に重く、またパネルの中に手をつっこんで固いコネクターを抜き差しするなど、手や指に常に負担のかかる過酷な仕事であった。仕事の指揮命令は、三洋電機の社員から毎朝のメールや週1回のミーティング、また日々の直接の指導によりなされており、デジタルカメラ時代と変わらず、間にRFPが介在する2重の偽装請負状態であった(しかも、東和テックとIさんとの間の契約が偽装の業務委託であったため、実に3重の偽装状態となったのである)。
 上記の過酷な労働が続く中、平成20年2月、Iさんは手の指に痛みが走り出した。3月になり病院を受診すると、重度の腱鞘炎の疑いと診断されギブスをつけることになった。Iさんは東和テックに報告し仕事を休みたい旨告げたが、東和テックの担当者は「RFPに言っておく」と言うばかりであり、RFPも「三洋電機に報告して指示を仰ぐ」というばかりで、Iさんの訴えは放置された。その後も休業は認められず、Iさんは作業をこなすため、残業や休日出勤さえ強いられた。

(3)テレビ事業部時代②(平成20年4月~6月)
 そのような中、平成20年4月、Iさんを含め、三洋電機社員より、RFP関連の派遣・請負社員は部署の1箇所に移動するように指示された。後に裁判の中でわかったことであるが、このとき大阪労働局が製造部門に立入調査して、三洋電機とRFPに違法な偽装請負について是正指導を行ったため、テレビ事業部における偽装請負の隠蔽をはかったものであった。それだけでは駄目だと思ったのかその1週間後には、Iさんは、ついにこれまで契約関係の間に入ってきたRFPが契約から離脱し、三洋電機と東和テックとの直接契約にすると告げられ、「請負」から「派遣」に切り替えると説明された(裁判でも三洋電機は「派遣」であったと主張して、派遣契約書を提出している)。しかしその後も東和テックとIさんとの間の契約は業務委託契約のままであった。東和テックは三洋電機と労働者派遣契約を締結しながらIさんとは派遣労働契約ではなく業務委託契約を継続するという、全くもって信じがたい契約形態をとっていた(東和テックは団体交渉の際に労災を受け付けない理由として業務委託契約であることを強行に主張し、裁判でもIさんの労働者性を否定し続けた)。
  このころより、無理をして作業に従事させられたことで、Iさんの右手指の状態はさらに悪化し、平成22年6月には手の痛みでほとんど仕事ができない毎日となり医師からついに手術をしなければならないと告げられた。Iさんは三洋電機テレビ事業部の部長に事情を説明し、手術をしたいから休みたい旨を告げると、部長は「仕事投げよった。もうあかんな。」と言って、即座にIさんの派遣契約を中途解除した。
 こうしてIさんは、三洋電機で正社員同様に指揮命令を受けて約2年半働き続けた結果、業務上の怪我として右手指腱鞘炎で手術をしなければならなくなったことを理由に、職場を追われることになったのである。

(4)その後の労災申請、団体交渉
 その後、Iさんは手術を行い、契約解除問題と労災申請を求めて、会社と交渉すべく北河内合同労組に加入し、東和テック、RFP、三洋電機それぞれに団体交渉を申し入れた。しかし、いずれもIさんは自社の労働者ではないという理由で団体交渉を拒否した。東和テックは何と労災保険にすら加入しておらず、それが発覚することを恐れ、形式上の業務委託契約を強行に主張して、事業主証明を拒否した(労災隠し)。平成20年11月、やむなく入江さんは事業主証明のないまま東和テックを管轄する磐田労基署に労災申請をし、労働者性の問題や業務起因性の問題など壁がいくつもあり時間を要したが、約1年後の21年10月に労災支給決定を受け、平成21年11月に提訴に至ったのである。
 なおIさんは、裁判中の平成22年12月には、後遺障害14級の認定を受けた。

3 裁判での請求内容と争点

(1)裁判での請求内容
      裁判において、Iさんは次の3点を請求した。
    ① 三洋電機に対する地位確認と賃金請求
    ② 予備的に三洋電機、RFP及び東和テックに対する契約解除に伴う損害賠償請求(共同不法行為)
    ③ 腱鞘炎の発症に関し、3社に対する共同の安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求(後遺障害14級の認定が出された後に損害額をさらに拡張)

(2)争点
    ① 三洋電機とIさんとの間が2重(3重)の偽装請負状態にあったか(三洋電機が入江さんに対して指揮命令を行っていたといえるか)
    ② 偽装請負状態にあったとして三洋電機と入江さんとの間に黙示の労働契約が成立するか
    ③ 2重(3重)の偽装請負、あるいは派遣契約の中途解除に関し、共同不法行為が成立するか(被告らの行為に違法性があるか、入江さんに損害があるか)
    ④ Iさんに発症した腱鞘炎が業務上のものか(業務起因性)
    ⑤ 被告らにIさんの腱鞘炎発症について安全配慮義務違反があるか
    ⑥ 損害額とその範囲(Iさんの治療及び休業の必要性とその期間、素因減額の有無)
  など、多岐にわたっていた。

(3)Iさんの主張と被告らの反論
 ①については、Iさんはメール等大量の証拠を提出し、事前面接の事実や三洋電機による指揮命令や労務管理の事実を詳細に主張し、被告らも概ね事実関係は認めている。ただ被告らは、事前面接は「業務内容の事前の打ち合わせ」であったと社員からの指示や連絡は請負契約上の「調整、すりあわせ」であったなどと評価について苦しい主張を行った。
 ②については、被告は松下PDP最高裁判決を根拠として、一貫して黙示の労働契約の成立を否定した。Iさんは松下PDP事件と異なり、多重請負状態にあった本件は明らかに派遣法違反にとどまらず職安法違反の労働者供給にあたることは争いなく、また事前面接も存在するため、松下PDP事件最高裁判決が示した「特段の事情」が存在すると主張した。証人尋問においても、請負会社である東和テックが何らかの労務管理を行っていたことが明らかとなり(むしろIさんとの間を業務委託にしていた東和テックは、積極的に、労務管理などしていないと断言していた)、十分に「特段の事情」が認められうる事案であった。
 ③については、Iさんは、本件では極めて複雑な形態をあえてとることにより、労基法19条の労災の解雇制限も潜脱し、またその後の解雇権濫用法理の適用も潜脱して本来許されない労災切りを実現し、これにより入江さんの雇用を求める地位(ないし期待権)を侵害したと一定の賃金相当額ないし慰謝料が認められるべきという主張をした。この点については、3重の偽装請負状態にあったこと、東和テックが労災保険にすら加入していなかったこと、派遣契約の更新拒絶ではなく中途解約であったことなど、名古屋地裁で慰謝料請求が認められているパナソニックエコシステムズ事件や三菱電機事件に比べても尚更、違法性が際立っており、不法行為の違法性を満たしていると確信していた。
  ④については、労災認定が出て後遺障害認定が出されているにもかかわらず、被告は、Iさんが従事した業務で過去にIさん以外に腱鞘炎を発症した者はおらず、私病であるとの主張を繰り返した。Iさんの方は労災の認定資料を提出するだけでなく、主治医の意見書を追加で提出するなど、万全の主張立証を行った。
 ⑤については、これもIさんは大量のメール等を提出して、Iさんが手指の痛みや業務の変更について被告らに訴えていたにもかかわらず被告らが何らの対応もとらなかったことについて具体的に主張を行った。被告3社の担当者が出廷した証人尋問では、見事にお互いが責任をなすりつけ合う証言がなされた。東和テックはRFPに改善を要求したと言い、RFPは三洋電機に改善を要求したと言い、三洋電機はそこまで悪いとは聞いていなかったと言い張った。被告担当者らの三者三様の不誠実な証言と、痛みを訴えながら改善されないまま痛みを押して死にものぐるいで働いたIさんの真摯な証言はまさに対照的で、尋問終了後、勝負あったと確信した。

4 裁判上の和解による解決と本裁判の意義

    冒頭にも述べたが、証人尋問が終了した後、裁判所から強い和解勧告がなされた。我々は勝利を確信していたため判決をとるという考えもあったが、平成20年6月にIさんが労災切りされてから既に3年以上経過するなど争議が長期化していたこと、勧告された内容がIさんや弁護団、組合としてもIさんが違法状態で就労させられた中で労災事故に遭い雇用を打ち切られたことの補償として十分なものであると判断できる内容であったことから、和解に応じることとなった(和解内容については秘匿条項が付されているため詳細を述べることはできない)。
 この事件は、労災認定が出される前、全く団体交渉にも応じない中、困り果てたIさんが労働組合の方と私のところに相談にこられたのが最初であった。Iさんは怪我をして働けなくなったにも関わらず、労災もおりず、妻と3人の子、介護を要する父を抱えながら貯蓄は底をつき、車のローンなど借金の返済を迫られるなど、本当に追い詰められていた。Iさんの話を聞いても、法律関係、事実関係ともに複雑すぎて全く把握できず、提訴に至るにも大変な労力と時間を要することとなった。しかし、Iさんが大量のメールを残しておりまたこのような苦境に陥らせた三洋電機らを絶対に許さないという強い気持ちをもっていたこと、労働組合の支援の元で労災認定(後遺障害認定も)を勝ち取ることができたことなど、条件が揃い、何とか提訴にこぎ着け、複雑多岐にわたる争点についての主張、立証を尽くした後に、解決をすることができた。
 本件は、2重の偽装請負に偽装の業務委託が加わりさらに派遣に切り替えるなどといった非常に複雑な契約形態をとり、Iさんに対する雇用責任を曖昧にして、労災の発生で通常解雇制限がかかるはずであるにもかかわらず簡単に解雇を許し、あるいは労災申請さえさせない労災隠しを容易にさせる状態にさせてきた事件であり、派遣・請負といった間接雇用の問題点が全て表れている。このような事案において、組合の支援を背にIさんがおかしいと声を上げ、大企業相手に裁判闘争を構え、問題点を正面から捉えた上での全面解決をすることができたことの意義は大きい。この事件は私が初めて主任として取り組んだ民法協の弁護団事件でもあり、感慨もひとしおである。この闘いの経験や誇りを胸に、今後も非正規労働者の無権利状態を問い正す闘いに取り組みたい。

                                  (弁護団は梅田章二、鎌田幸夫、谷真介、牧亮太)

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