民主法律時報

東リ事件の原告らが職場復帰

弁護士 大 西 克 彦

1 職場復帰

東リ事件(派遣法40条の6に規定する労働契約申込みみなし制度によって東リ株式会社の従業員の地位を最高裁で確定)の原告5名は、2023年3月27日から東リの伊丹工場で働きはじめました。職場を追い出された2017年3月から5年以上、最高裁決定(2022年6月7日付)から約10か月、ついに職場への復職を実現しました。

2 最高裁での地位確定後の団体交渉

最高裁の決定後すぐに、原告ら及び組合は、東リに対し、職場復帰に向けた団体交渉の申し入れを行いました。これに対し、東リは、団体交渉には応じるものの、職場復帰については、復職させる意思はあるが、原告らがもともと勤務していた巾木工程・化成品工程には十分に人が足りているため復帰させることができないと主張しました。原告らは、東リの正社員なので、巾木工程や化成品工程以外のどの工程でも働く旨を伝えましたが、東リは判決では巾木工程と化成品工程での職務に限定されるという解釈を述べて、他の工程での職場復帰も拒み続けました。

東リは復職の時期も未定とし、原告らをずっと復職させるつもりはないとしか思えない対応が続きました。なお、後でわかったことですが、東リの伊丹工場は他と同じように人手不足の状態でした。

3 兵庫労働局の助言、指導

(1) 派遣法40条の8
派遣法40条の8第2項では、厚生労働大臣は、偽装請負をした会社が派遣労働者を就労させない場合には、必要な助言、指導または勧告をすることができるとし、さらに同第3項においては勧告に従わない場合には、その旨を公表できると規定しています。

東リは、給料さえ払っていれば、判例上就労請求権が認められないと考えているのか、頑なに職場復帰を拒み続ける対応をとるため、原告らや弁護団では対応に苦慮していました。そのような中で、弁護団長の村田浩治弁護士が前記派遣法の規定を使って東リに対抗していく方法を提案されたことから、団体交渉とともに兵庫労働局への働きかけを何度も行うようになりました。

(2) 派遣法40条の8に基づく助言、指導
その後も東リは、団体交渉において、同じ回答を繰り返し、原告らの復職を認めようとしませんでした。

そのような中、2022年7月14日、兵庫労働局は、東リに対し、派遣法第40条の8第2項に基づく助言を行いました。情報開示によれば、助言の内容は「司法判断を踏まえ、誠実かつ適切に対応いただきたい」というものでした。その後も兵庫労働局は、東リの主張には合理性がないとして、東リと面談し、助言を続けていたようです。

さらに2023年1月末には、兵庫労働局は、東リに対し、口頭での指導を行いました。この時労働局からは、このままの状態が続くと文書による指導、勧告、さらに企業名の公表と続くことになると通告を受けたようです。

(3) 団体交渉において職場復帰を認める
2023年1月の団体交渉において、東リは、職場復帰を認めないばかりか金銭解決を提案してきました。しかし、原告らは金銭解決を受ける意思はない旨を強く述べて、これを拒否しました。

すると次の2023年2月24日の団体交渉において、東リは、同年3月27日から就労のための研修を開始するとして、原告らの職場復帰を認める回答をしました。各工程での研修を1か月間行って、その後適正な配置場所を決めるというものでした。

4 最後に

東リが原告らの職場復帰を認める回答に至ったのは、原告らの職場復帰への強固な意思があったのはもちろんのこと、このまま職場復帰を認めないと兵庫労働局からの文書による指導・勧告、そして企業名の公表になることを東リが恐れたからではないかと思います。東リは最高裁決定後も職場復帰を引き延ばし、金銭解決を言い出すなど見苦しい態様に終始していましたが、兵庫労働局からの指導によって判決を受け入れる決断を漸く東リはできたような気がしました。本件は、団体交渉だけでなく、派遣法40条の8の規定の発動を求めて兵庫労働局に働きかけたことが実を結んだのだと思います。

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