民主法律時報

偽装請負の寮管理人「みなし制度」で 京都銀行に地位確認を求める

     弁護士 榧野 寛俊

1 事件の概要

原告ら夫婦は、2012年、「一流企業の独身寮」「夫婦住込管理員」という新聞求人を見て株式会社魚国総本社(以下「魚国」とする。)と有期雇用契約を締結し、労働者派遣契約によらないで、被告である京都銀行が管理する社員寮の寮管理人として住み込みで勤務していた。原告らの勤務実態は、時間外労働が常態化しており、代替要員の確保はなく有給休暇も一切取得することができないものであった。また、日常的な業務の指示命令は京都銀行から原告らに対して直接的に行われ、他方、魚国が原告らに対して指示命令をしたことは皆無であった。

その後、原告らの有期雇用契約は更新され、2023年4月には通算11回目の更新がされた。他方で同時期に、京都銀行と原告らとの間で寮管理業務の範囲について紛議が生じた。同年6月2日、魚国から原告らに対して、「京都銀行から寮管理者交代の強い要望を受けた」ことを理由に、給食補助業務への配転が命じられた。原告らは寮に住み込みで勤務しており、配転は原告らの住居のはく奪という重大な不利益を伴うことを意味する。同月9日、弁護団は魚国及び京都銀行に対して受任通知を送り、原告らは全日本建設交運一般労働組合(京都府本部)に加入した。そうしたところ、同年8月30日以降、魚国及び京都銀行は、寮生及び関係者に対して原告らとは接触しないよう周知するとともに、後任の寮管理人を選任したうえで原告らに仕事をさせず賃金の不支給を宣言した上、さらには歪曲した事実関係を前提とする懲戒事由を記載した警告文を日々追加的に濫発し精神的プレッシャーを与えて原告らの追い出しを図るようになった。

同年9月8日、原告らは、京都銀行に対して、派遣法40条の6に基づくみなし申込みに対して承諾したことによって成立した京都銀行との労働契約上の地位の確認を求め提訴した(同月12日、魚国に対して配転無効等の仮処分を申し立てた)。

2 労働契約申込みみなし制度とは

労働契約申込みみなし制度とは、派遣先により違法派遣が行われた時点で、派遣先が派遣労働者に対して、その派遣労働者の雇用主(派遣元)との労働条件と同じ内容の労働契約を申し込んだものとみなす制度であり、2015年に施行された(派遣法40条の6)。この派遣先の申込みに対して派遣労働者が承諾をすれば、派遣先との雇用契約が成立する。同制度の対象となる違法派遣の類型は5つであるが、本件は偽装請負の類型(同条第1項5号)に該当する。

3 偽装請負とは

偽装請負とは、派遣法または同法により適用される労働基準法等の適用を免れる目的で、請負や業務委託の形式で、派遣元が雇用する労働者を派遣先が指示命令して労務の提供を受けることをいう。偽装請負が禁止されるのは、そもそも派遣労働が直接雇用原則の例外的な雇用形態(間接雇用形態)であることに鑑み、派遣法及び職業安定法による規制を潜脱することを許さない趣旨にある。間接雇用形態の弊害は多岐にわたるが、本稿との関係で述べれば、①労働時間管理、賃金支払や災害補償などといった雇用主の責任が不明確になること(雇用主責任の不明確化)、②派遣先が派遣労働者の差し替えや派遣契約の打ち切りなどによる人員整理が容易になること(人員整理の容易化)があげられる。

4 結び

雇用後10年以上にわたり偽装請負状態を利用して、労働時間や休日の管理といった原告らに対する雇用主としての責任を負うことを魚国及び京都銀行の双方が回避して利益を得る半面で、原告らに不利益を転化していた。また、京都銀行は魚国を通じて、実質的雇用主としての責任を何ら負わないで合理的理由なく寮管理人の配転命令を行った。原告らについて、雇用主責任の不明確化及び人員整理の容易化という間接雇用形態による弊害の被害が生じており、派遣法40条の6の適用により雇用を安定化して救済されるべき事案に他ならない。

提訴後、現在も魚国及び京都銀行による原告らに対する過酷な追い出し行為は継続しており、原告らは建交労京都府本部に加入して団体交渉をしている。

ぜひ本件に関心をもっていただき、ご支援のほどよろしくお願い申し上げます。
(弁護団は、村田浩治、中筋利朗、榧野寛俊)

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