民主法律時報

山下よしき「ゼロ票」損害賠償請求訴訟で不当判決

弁護士 井 上 耕 史

「ゼロ票」訴訟とは

2019年7月の参院選比例代表選挙において、堺市美原区の相当数の有権者が、日本共産党の山下よしき氏(党副委員長・当選)に投票した。ところが、美原区の開票結果では、山下よしき氏の得票は0票と発表された。過去の選挙結果や他地区の開票結果からしても、あり得ないことであり、開票作業(投票の点検)に誤りがあったことは明白であった。しかし、堺市の選挙管理委員会は、誤りを認めず、調査も拒否した。

そこで、裁判手続を通じて真相を究明するほかない、と考えた美原区の住民10名が、2020年3月、「自らの投票が等しく自ら投票した候補者の得票として計上される権利」を違法に侵害されたことを理由に、堺市を被告として慰謝料等の支払を求める訴訟を大阪地裁堺支部に提起した(その後1名が追加提訴)。

真相究明を裁判所が拒否

大阪府内の開票結果を調べたところ、美原区では、山下よしき氏と同じ「山下」姓の別の候補者A氏(国民民主党・落選)の得票が他地区に比べて不自然に多いことが判明した。美原区では、山下よしき氏に対する投票を、誤ってA氏の得票に計上したことが強く疑われた。他所では無効票扱いにより0票になった例もあり、美原区でも無効票扱いとされた可能性も考えられた。

投票用紙は梱包・封印されて保管されているが、この封印を解いてA氏の得票とされた票や無効票を確認すれば真相が明らかになる。そこで、原告側は投票用紙の検証の申立てを行った。しかし、裁判所(堺支部第2民事部・木太伸広裁判長)は、検証の申立てを却下、原告らの尋問も行わずに結審してしまった。

選挙人の権利自体を否定した不当判決

2022年3月22日、堺支部は、原告らの請求を棄却する不当判決を言い渡した。判決は、「候補者の当落にかかわらず自らの投票が正確に得票に計上される権利」は認められず、投票の点検に誤りがあっても、意図的に開票事務の手引きに違反したものでない限り、国賠法上違法なものとなる余地はない、というのである。

しかし、選挙権の行使は、投票箱に票を入れれば終わりではないし、単に候補者の当落を決めれば良いものでもない。各候補者の得票数が正確に計上されて公表されることで、初めて国民の政治的意思が示され、国民が政治に参加する権利が具体的に保障されるのである。地裁判決は、こうした参政権の意義を全く理解しない不当なものである。

控訴審へ

この参院選比例代表選挙では、静岡県内で「山田太郎」票が誤って「山本太郎」票とされて山田氏が0票とされた例や、千葉県内で某候補の得票を誤って無効票に計上して0票とされた例が報道されている(いずれも選管が原因を公表し、謝罪した上で票数を訂正した。)。

このように「ゼロ票」問題は全国的に発生している。その背景として、市区町村職員の大幅な削減に加え、参院選に非拘束名簿式比例代表制(政党名でも個人名でも投票可能)が導入され、集計が複雑になったことが指摘されている。そうすると、「ゼロ票」を含む開票事務のミスは構造的問題であり、美原区の事件は氷山の一角に過ぎない。

選挙に対する国民の信頼を取り戻すためにも、本件訴訟を通じて真相の解明と再発防止体制の構築が求められている。こうした課題に背を向け、国民の参政権を蔑ろにした地裁判決を容認することはできず、原告らは控訴した。控訴審での真相究明と逆転勝訴を実現すべく、ご支援をお願いする次第である。

(弁護団は、辰巳創史、西口加史仁と筆者)

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