民主法律時報

遺族によるアスベスト労災記録の開示請求訴訟を提訴

弁護士 谷 真介

労働者が業務上災害を受けた際に、労基署に労災申請し、労基署が調査した事実等が記載された労災記録は、不支給決定に対する審査請求をしたり(審査請求時には一件記録を謄写したものは提供されないため)、あるいは企業の安全配慮義務違反による損害賠償請求等を検討する際には、極めて有用な情報となる。

労働者側で上記相談を受けた際には、まずその検討のために、労働局に対し、行政機関個人情報保護法(以下、本稿では単に「個人情報保護法」という)に基づく個人情報開示請求を行って、これを取得することとなる。特に、アスベスト労災では、病気を発症するまでの潜伏期間が長いため、どこでアスベストにばく露したか等の情報が被災者本人や遺族にはわからない場合が多く、労基署の調査によって判明する事実も多い。それだけに開示の必要性は高い。

しかしながら、例えば、被災者本人が労災申請をし決定を受けた場合、被災者の死亡後にその遺族(相続人)が被災者の労災記録について個人情報開示請求を行っても、原則として開示されない。これは、個人情報保護法による「個人情報」とは「生存する個人の情報」とされているからである。死者の情報はあくまで死者の情報であり、相続人が相続するわけではない(死者も相続人に対しても知られたくない情報がある)という考えからである。ただ、労災記録については、2009年以降の情報公開・個人情報保護審査会の答申以後、当該被災者の労災決定を基礎として、遺族が遺族年金や生前の未支給の給付決定を受けている場合に限って、被害者の労災記録の情報は「遺族本人の情報」でもある、という取り扱いによって、遺族に対する開示が認められるようになった。

しかし、相続人が上記の関係に立たない場合であっても、例えば企業に対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権を相続している場合は当然ありうる。労災記録には、その損害賠償請求権の前提となりうる情報も存在している。実質的使途は同じであるのに、遺族年金等を受給しているか否かによって、開示請求権の有無の結論を分けるのは、やはりおかしい。

さらに、アスベスト労災においては、泉南アスベスト最高裁判決以後、国は、同一の要件に該当する被害者・遺族について訴訟提起をすれば、和解し賠償金を支払う方針を出しながら、その周知が不十分な状態が続いていた。そして、昨年10月には、ついに国自身が把握する労災認定・じん肺管理区分決定を受けた被災者・遺族に対し、国賠訴訟に関する通知を出すこととなった。しかしながら、同通知は、必ずしも国賠要件に合致していることを前提にしているわけではないため、通知を受けた方は、国賠要件に合致しているかどうかを検討するために、まず労災記録の開示請求をし、これを検討の上で国賠訴訟を提起するかどうかを決定することとなる。今回、本件開示訴訟の原告となった方(2名)も、この国からの通知を遺族として受け取り、相続人として労災記録の開示請求をしたにもかかわらず、上記開示要件を満たさないとして兵庫労働局から不開示決定を受けた方である。昨年11月以降、このようなケースについて積極的に事前に開示をするよう、全国のアスベスト被害者団体や弁護団から国に対して要請を続けてきたが、国の態度は変わらなかった。国の責任で被害者を出しながら、その情報について開示しないということがあってよいはずがない(医療過誤により死亡させた病院が遺族によるカルテ開示請求を「本人ではないから」といって拒否する不合理さを想像していただきたい)。そこで、これは捨て置けないということで、大阪アスベスト弁護団の弁護士により、本年5月 日、かかる労災記録不開示決定処分取消訴訟の提訴(大阪地裁)に踏み切った。

この死者と相続人の個人情報開示請求は、これまで争われた裁判例は少なく、労災記録だけではなくその他の情報開示の問題(医療機関のカルテや学校事故等各種事故の調査資料など)にも波及しうる問題でもあるため、何とか開示を認めさせる判決を勝ち取りたい。

(弁護団は大阪アスベスト弁護団から、馬越俊佑、安原邦博と当職)

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