民主法律時報

パート労働者のシフトカット事件 大阪地裁で勝利的和解

弁護士 冨 田 真 平

 (民法協のコロナ特設ホットラインをきっかけに事件化した)2020年4月の緊急事態宣言以降シフトを一方的に週3日から週1日に減らされ(正社員には10割の休業補償がされる一方で)その補償もされなかったことから、①勤務日数が週3日であることが契約内容となっていることの確認及び②減らされたシフト分の未払賃金の支払い等を求めて2020年11月に大阪地裁に提訴したパート労働者の事件について、本年3月に大阪地裁(安西儀晃裁判官)で勝利的和解が成立したので報告する。

1 事案の概要

(1) 原告は、数年前から大阪のウエディングフォトスタジオでパート社員として働いていた。
雇用契約書には勤務日数として「シフト制」「概ね週3日、月13日前後」と記載されており、入社以来ずっと週3日で就労してきた。

(2) ところが、2020年4月の緊急事態宣言を受け、会社は全店舗を休業し、全ての従業員に一斉休業を命じた。会社は、原告らシフト制で働くパート社員に対し、シフトが出ている4月分は100%の賃金を補償したが、5月分は(正社員には100%の賃金を補償する一方で)週1日分の賃金補償しかしなかった。また、同年6月の営業再開後も、原告らパート社員はシフトを週1日に減らされ、シフトを減らされた日(休業を命じられた日)についての賃金補償が全くされなかった。

さらに、会社は、原告らパート社員に対し、勤務日数を週1日とする契約内容に変更することに同意する同意書にサインをするように迫った。

(3) 原告が民法協のコロナ特設ホットラインに電話をかけてきたことから事件化し、冨田と谷真介弁護士が同行して労基署への申請も行ったが労基署の是正指導・勧告等はされず、会社もシフトを元に戻すことを拒否したことから提訴に至った。

2 シフトの回復及び和解の成立

提訴後約1年3ヶ月が経過した2021年2月に会社が原告のシフトを週3日に戻したこともあり、本年3月24日に①今後の契約内容(勤務日数が概ね週3日、月13日であること)の確認、②勤務日数変更の必要性が生じた場合に誠実に協議すること、③解決金の支払(*解決金の金額については口外禁止)、④訴訟提起等を理由とする不利益取扱いの禁止及び職場環境への配慮等を内容として和解が成立した。

3 和解の意義等

コロナ禍において補償なき一方的なシフトカットがあちこちで横行し、シフト制の問題が顕在化した。時給制で働く労働者にとってシフトを減らされることはダイレクトに収入の減少につながるもので、労働者の生活を脅かすものである。

本件は、コロナ禍を理由とするシフトカットに対して全国で最初に提起された訴訟と思われるが、この訴訟において、在職しながらシフトを回復するとともに、今後勤務日数の変更が生じた場合に誠実に協議することを約束させ、解決金を支払わせるという勝利的な解決ができたことは、今後の一方的なシフトカットに歯止めをかけるものであり、大きな意義を有する。また、本件はコロナ対応の場面における非正規労働者に対する不合理な差別を許さず、均等待遇を実現するための闘いでもあり、この点でも重要な意義を有する。

シフト制の問題については、昨年に非正規労働者の権利実現全国会議(非正規会議)や首都圏青年ユニオンでオンライン集会や共同アンケートなどの取り組みも行い、本年1月には(不十分であるが)厚生労働省もシフト制に関する留意事項を出すに至った。また、民法協でも本年4月16日にシフト制労働対策弁護団とともにホットラインを開催し、多くの相談に対応した。

今後も法改正等も含め引き続きシフト制労働者の権利擁護のための取り組みを進める必要があると考える。

(弁護団は谷真介弁護士と冨田)

民主法律時報アーカイブ

アーカイブ
PAGE TOP