民主法律時報

神戸刑務所の派遣労働者の交替要請は違法――大阪高裁が一審を変更し、国家賠償を認める

弁護士 村 田 浩 治

1 事件の経緯

 国の機関である神戸刑務所において、2003年から、偽装請負の形態で始まり、その後労働者派遣の形態で違法な就労を継続していた管理栄養士が、調理指導や衛生管理のため受刑者が働く炊場に入場する必要性があるのに、その入場の指示が曖昧であったため、安全に対する管理責任の所在に不安を覚え、所属する責任者の課長に対し、明確な指示を求めたところ、当該課長は派遣元会社に当該労働者の交代を求め、職場から追い出そうとしたため、労働者が労働組合に加入し、国に対し団体交渉を求めたが、刑務所が「なかったことにして職場に戻ってほしい」という対応のため、刑務所長の謝罪、交代要請にいたる事実経緯の説明、職場環境改善の提示等の要求を掲げて、さらに団体交渉を求めたところ刑務所が団体交渉を拒否し労働者が職場に戻る機会を失ったという事件である。

2 公務職場での民間労働者の存在

 刑務所の管理栄養士は本来、管理栄養士という職務の性質上、刑務所が栄養と衛生管理の直接責任を持つべきであり、また刑務所の受刑者に対して調理指導を行い衛生管理上の指示も出すのだから直接雇用された正規職員が当然行うべき業務である。刑務所では2003年ころから業務委託という形式で管理栄養士の業務が民間業者に委託され、処遇施設に入り込む形で民間の労働者が仕事をしていた。本件の当事者である女性労働者は交代要請で事実上職を追われそうになり、一旦はあきらめかけたが、思い直し個人加盟の「アルバイト・派遣・パート関西労働組合」に加入し、組合の支援をうけながら団体交渉に臨んだ。

 その後、組合の支援をうけて2007年10月頃、兵庫労働局に是正指導を求めて申告した。兵庫労働局は労働者派遣が業務委託時代から続いていたとして、同年12月に是正指導を行った。その後、全国9つの施設において偽装請負状態であったことが新聞記者の情報公開で明らかとなったが、違法派遣労働者はその後、直接雇用されている。

3 労働委員会の判断

 2008年12月、兵庫県労働委員会は、申立を棄却する決定との結論を出したが、国の使用者性を認め、本件要求事項について団体交渉応諾義務があることを認めた。棄却は「すでに後任の管理栄養士が勤務している現状においては、当該組合員が復帰する可能性はないので、救済の利益がなくなっている」ということのみであった。労委命令までは労働組合のみで手続きを進めていたが、この時点で弁護士に相談が持ち込まれた。学者のご意見も参考に、労委の判断を生かして、中労委への再審査請求は行わず、労働組合による団体交渉拒否による損害賠償と労働者個人の損害賠償を行うこととした。

4 一審神戸地裁の判決

 一審神戸地裁(矢尾和子裁判長)は、神戸刑務所が労働者の交代要請により労働者の地位に影響を与えたことを認め、「労働組合法上の使用者にあたらない」との国の主張を退けた。そして交代要請に至る経緯及び職場復帰に向けた就業環境の改善などが義務的団交事項にあたるとして、神戸刑務所の団体交渉拒否が不当労働行為にあたるとしたうえで労働組合に対する無形の損害として金33万円(うち弁護士費用3万円)の支払いを命じた。

 ところが、労働者個人については、刑務所においてパワハラを受けたという点について、炊場に入場する指示は出していたのに、労働者が混乱をもたらしたという国の主張を採用し、個人の損害賠償請求をすべて否定して請求を棄却した。片手落ちの評価は免れなかったが、民間の派遣労働者に対する国の労組法上の使用者性を認め損害賠償を命じたことは画期的であった。国は控訴せず労働組合の請求事件は確定した。

5 控訴審の判断

 控訴審の課題は、労働者個人に対するパワハラと交代要請の違法性による損害賠償請求のみとなった。大阪高裁第11民事部(前坂光雄裁判長)は、証拠調べは行わず、準備書面は控訴理由書を含め4通が提出され、改めて控訴人本人の陳述書も刑務所において名札着用していたことの不安など炊場入場にいたるまでの労働者個人の心情や、本来派遣労働ならば派遣先使用者が負うべき責任がないがしろにされてきたことを強調した。

 2013年1月16日に言い渡された判決は、①偽装請負状態で就労させたこと自体についての違法性は否定したものの「偽装請負を前提に、派遣先が指揮命令を行ったことが原因で労働者が不利益を被った場合は、その指揮命令の違法が問われ、その違法を判断する際に偽装請負である点が考慮される余地はある」と指摘し、②直接雇用申込み義務違反による損害賠償も否定したが、偽装請負の場合、法律が要件とする派遣元からの通知等は不要と解する余地もないではないとし、仮にそのような立場に立ち、直接雇用申込義務に違反した事実があると解するとしても本件では直接雇用関係を構築することは不可能であって、このような事態に至ったのは本件交代要請が原因であるから、これによる侵害利益の回復は交代要請の違法による損害賠償を認めることで評価されているとみることができるとした。その上で、③職場環境整備義務違反は、交代要請の違法の問題と重なるとして独立に評価する必要はないと判断した上で、④本件交代要請は違法であるとの判断に基づき損害賠償を認容した。

 なお、控訴審では、団体交渉拒否による賠償は個人の権利侵害も構成するとの主張も展開したが、⑤団交拒否の違法ついては、団体交渉の当事者はあくまでも労働組合であって労働者個人ではないから、団体交渉権の侵害について労働者個人は権利主体たり得ないとした。

 特徴的なのは偽装請負は違法派遣であり、実質派遣状態であるという認定を踏まえ、そうであるならば派遣法では、派遣先にも苦情を受け付けたうえで相応の対応をすることが求められているという具合に実質派遣という実態のもとで労働者派遣の派遣先が負っている義務を重くとらえているという点であり、判決は、神戸刑務所の職員が、控訴人の苦情を放置したのは、本件業務委託契約に派遣管理栄養士に対する身体的損害についての刑務所長の責任が明記されておらず、その責任の所在を明確にしていなかったからだ、その原因はまさに、偽装請負という不明確・不安定な労働環境に控訴人を置いて就労させていた点にあるとして、正式な労働者派遣契約の場合と対比して生じる具体的な不都合として本件では刑務所という特殊な職場における安全及び衛生に関する事項や苦情処理に関する事項を設けなければならないという点を重視した。

 今後の違法派遣の場合の労働者の被る不利益をどう主張するかという点で参考になる判断と考える。今後の参考のため報告する。

 なお代理人は永嶋里枝(主任・大阪労働者弁護団)、辰巳裕規(兵庫民法協)、普門大輔(大阪労働者弁護団)、増田裕一(兵庫民法協)、当職の5名である。

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