原告 谷 口 栄 次
この7月2日に私の、株式会社ジェイテクトに対する地位確認を求めた裁判が和解という形で終了しました。提訴から2年4か月でした。
この誌面を借りて改めて河村学先生・西念京祐先生・藤井恭子先生の弁護士の方々、JMIU大阪地本の林田さんや役員の方々、証言に立って頂いたJMIU光洋精工支部の辻岡前委員長・渡辺現委員長、傍聴に来て頂いた全ての方々に感謝いたします。
今回のジェイテクト事件は、2008~2009年におけるリーマンショック後の派遣切り・期間工切り等の雇い止めに対する地位確認を求めた裁判でした。私はジェイテクトの国分工場で2002年6月から雇い止めになった2009年2月まで6年9か月間働いていました。勿論、会社側の勝手な都合で偽装請負・違法派遣・期間工と契約形態は変えられていましたが、作業の内容は変わりありませんでした。しかし、会社側は景気の悪化を理由に当時国分工場で働いていた約300人の派遣社員・期間工を雇い止めにしたのです。私は、仲間たちと労働組合「JMIUジェイテクト国分工場関連支部」を結成し、団体交渉を行いましたが会社側は全く誠意を示さなかったので提訴に踏み切りました。
しかし、私が提訴した時は前年の12月に松下PDP事件の最高裁判決が出ており、大きな逆風がふいておりました。正直、私も提訴をするのかどうか考えました。しかし、このまま誰も提訴をしないとこの不当な雇い止めの問題が風化してしまう様に思い提訴に踏み切りました。
いざ裁判が始まってみると、何もかもが初めての事なので最初は戸惑う事が非常に多く、右も左も分からない状態の私を弁護士の先生方や労働組合の役員の方々は丁寧に根気よく指導して下さいました。2年4か月もの間さぞ大変であったことかとおもいます。
裁判が始まって私が最初に感じたのは、「よくこんなでたらめが書けるな」と思える様な会社側の文章でした。具体的には、非正規社員の方が能力が低く正規社員の方が能力が高いとのことですが、現場で確認すればそのような事は無い事が直ぐに分かるはずなのに、何故このような事を主張してくるのかと思い情けなくなりました。
裁判の引き延ばしとも思える様な対応をとられた事もありました。さすがに、この時は裁判官も怒っておられたように思います。私自身は、会社側はもう何も主張する事が無くなって来た様だと感じていました。
しかし、今回の裁判で私が一番問題だと考えているのは、一人の裁判官の発言です。「非正規の社員は景気の調整弁である」との発言です。雇用の安定が社会的にも求められている事さえも理解出来ずに裁判官をしているのかと思い恐ろしくさえ感じました。多くの地位確認裁判や労働裁判で不当な判決が出ているのも裁判官の資質に問題があるのではないかとも思えました。「木を見て森を見ず」の言葉のように、法律の条文だけを見ておりその条文をどの様に活かすかをまったく考えていない発言です。これでは裁判官など無くしてしまいコンピューターを置いておくだけで事足ります。裁判官という人間を配置しているのは、「社会においてこれでいいのか?」、「社会正義においてどちらが正しいのか?」等を判断する為に裁判官はいるのだと思います。現役の裁判官がこの様な調子では、今後の裁判も心配です。
私が裁判をしているあいだに期待していた労働者派遣法の改正も骨抜きになり、今回の労働契約法の施行と、ますます現代の身分制度が推し進められています。正社員、無期限社員、期間工、アルバイトの様に身分をつくり労働者同士を分断しようとしているだけで正しい社会構造とはとても言えません。先の見えない財界の方々には都合が良いのかもしれませんが、そのような社会が持続することはありません。誰もが平等に働ける社会こそが求めていくべき社会だと思います。2009年のテレビのニュースで連合の会合の様子が流されていました。そのニュースで流されたある女性の発言が今も私の脳裏に焼きついています、「非正規の人達を助けたら自分たちの給料が下がる。」との発言でした。年越し派遣村等が社会的にも注目され労働者派遣法の改正に流れが向いていくのを望まない人々がいることを訴えたかったのであろうが、私は、そのような人々に聞いてみたい「あなたの子供は全て正社員になり安定した生活が送れていますか?」、「あなたの身内に非正規の人はいませんか?」、「非正規の人々と年金未納の関係は深くこのままでは将来無年金の人々が大量に生まれますがどうしますか?」。
私の裁判は和解という形で終了しましたが本当の意味での闘いはこれからだと感じながらこの記事をかいております。