民主法律時報

公務労働と労働裁判についてもっと考えよう!―― 西条市立周桑病院事件について

弁護士 河村 学

1 はじめに

例えば、「部門を第三者に譲渡するにあたって、その部門の労働者を他の部門に配転できるが、今回は全員を解雇して希望者は再雇用することにした。再雇用にあたっては賃金を減額することにした。全体の業績は悪くないが、部門は赤字だったのだからいいじゃないか」という会社があった場合、多くの人は、「何を勝手なことを!」「裁判所が許すはずがない!」と思う。

しかし、そう考えないのが裁判所。民間であればとても許されない解雇が、公務ではまかり通るというこの恐ろしい司法の現状に無批判であってはならない。

2 事案の概要

本件は、愛媛県にある西条市立周桑病院での事件。2010年4月1日から、病院が指定管理者で運営されることになり、病院に勤務する医療職員全員151名を同年3月31日付で分限免職処分にした。

ただ、西条市は、引き続き西条市で働くことを希望する者については、全員を市の正規職員として処遇する方針をとったが、給料は1~3割下げることとした。

希望した職員のうち20名が分限免職の取消等を求めて提訴、2014年2月27日松山地裁判決で職員側が敗訴、そして今般、2016年8月26日高松高裁でも職員側が敗訴した。なお、同じ病院で働いていた事務職員は市長部局に配置換えとなり現給保障されている。

3 判決の内容

(1) 松山地裁の判決(裁判官は西村欣也、瀬戸茂峰、寺戸憲司)は、病院職員に適用されていた給料表を間違い、その間違った事実を判断の有力な理由とするなど、事実認定・判断とも極めてずさんなものであった。また、本件は「分限免職」だが、実質は「降任」なんだから行政の裁量は広くていいなどと、法律があっても行政はこれを無視してもよいと言わんばかりの判断であった(このような判断のために、裁判所は判決期日を2回も延期した)。

(2) 高松高裁の判決(裁判官は生島弘康、村上泰彦、井川真志)は、松山地裁の上記誤りは是正し、最高裁昭和48年9月14日判決の基準に沿って検討することとした。整理解雇の法理に沿って検討すべきとの職員側の主張は、何の理由も付さずに退けながらも、市長の裁量権の逸脱・濫用があったか否かを検討する過程で、実質的には、職員側が主張する「分限処分回避努力等についても検討することになる」とした。

ところが、実際の判断は、松山地裁の域を出ないものであった。

(3) 控訴審において、職員側は、地裁判決のおかしさを3点指摘した(他にもあるが省略)。①配転できるのに、分限免職するのはそもそもおかしい。②分限免職でなく配置換えだったら給料は例規により現状ほど下がらなかったはず。③同じ病院職員なのに、事務職員は給料が減額されておらず、医療職員だけ減額するのは平等ではない。

これに対し、裁判所は、①について、確かに配置換えすることに法律上の支障はなかったとしつつ(西条市側は本件分限免職当時は法律上配置換えはできないと説明していた)、地裁判決と同様、「その実質は、降任に近い」として適法とした。裁判所は、国民・住民に対しては、いつも「法律に基づく行政だ」などとして問答無用の判断をしているのに、行政にはとても優しい。②については、配置換えでも、分限免職後の任用でも、給料は全く同じとした。いずれも例規上「新たに職員となる者」にあたり、初任給の規定が適用されるとするのである。配置換えだけれども初任給になるというのはおかしいと思うが、裁判所は西条市の、しかも裁判がかなり進行してから主張しだした解釈に追随した。なお、西条市の「異動」の規定では、給料が現状ほど下がらなかったことは西条市自身が認めているが、この規定について裁判所は「死文化している」としている。③については、事務職員は「特殊の知識を必要」とする職員だから、医療職員と違いがあっても当然とした。通常、「特殊の知識を必要」とする職とは、医師や看護師、教師などをいうと解されるが、裁判所は、一般事務職員もこれに当たる(一方、医療職員はこれに当たらない)として、両者の違いは合理的とした。

(4) 裁判所の行政追随、救済の姿勢は極まっており、①西条市は異動の際に現給保障をすると労組に説明していたが、これは労使の合意にはなっていないとか、②退職金に対して誤った説明(免職時に退職金を支払う)をしていたが、直前に訂正したからいいとか、③配置換え出来ない(分限免職しかない)と説明していたことに至っては、弁護士の(誤った)意見も踏まえての判断だから虚偽の説明ではないとか述べて、職員の判断を誤らせるような瑕疵はなかったとしている。

西条市はさまざまな法的誤りや事実と異なる説明を行って職員を黙らそうとしてきたが、裁判所はこれをことごとく救済するのである(民間会社の社長や、国民・住民がこのようなことをしたら裁判所からどのような仕打ちに遭うか考えたらいい)。

(5) 本件は現在上告・上告受理申立中である。

4 終わりに

近時、労働者の生活や権利に対し無頓着な判決が多くなっているが、とりわけ公務労働者の分野では、裁判官が思考停止に陥っており、実態との乖離があろうがなかろうが行政に追随し、判断の理由さえまとも示さないという判決が増えているように思われる。

裁判所が公正・公平な判断をしていないこと、司法が労働者の権利と生活を蔑ろにしていることを、もっと社会的に明らかにすることが必要なように思う。

(弁護団は、城塚健之、水口晃、河村学、井上耕史)

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