民主法律時報

NHK不当労働行為事件 ~最高裁決定を受けて~

弁護士 西澤 真介

1 はじめに

初めて相談があったのは平成23年の夏ころのことでした。今回最高裁で上告棄却・不受理決定が出たのは平成30年10月10日でしたので、7年以上の歳月が経ちました。事件の内容は以下のとおりです。

全日本放送受信料労働組合堺支部(以下、「全受労」といいます。現在では「南大阪支部」に名称変更しています。)が日本放送協会(以下、「協会」といいます。)堺営業センター(現在では「南大阪営業センター」に名称変更しています。)との間で開催する団体交渉の中で、受信料契約の取次等を行う地域スタッフであったA氏に対する通信機器の貸与拒否や、地域割当ての問題等が議論の対象になっていました。全受労がその交渉力を強めるため、堺労連所属のB氏を団体交渉に参加してもらうこととし、団体交渉を申し入れたところ、協会側が「外部の者の同席は認めない」として団体交渉を拒否したのが発端です。

後日、再度の団体交渉申し入れに対し、協会は「外部の者の同席は認めない。」として団体交渉を拒否しました。そこで、全受労が団体交渉拒否を不当労働行為として申立てをしました。

2 事件の経過

本件事件の主な争点は、①協会の契約取次等を行う地域スタッフが労組法上の「労働者」にあたるか、②協会が外部者の出席を理由として団体交渉を拒否したことが不当労働行為にあたるか、の2点でした。

事件は、大阪府労委平成25年7月30日付命令では、①②ともに認容され、続く中労委平成27年12月7日付命令でも協会の再審査申立ては棄却され、①②ともに認められました。そしてこれに続く協会からの取消訴訟でも東京地裁平成2 9年4月13日判決でも請求棄却判決、東京高裁平成30年1月25日判決でも請求棄却でした(判例時報2383号58頁)。最終的に今回の上告棄却決定により確定いたしました。

上告棄却決定後直ちに協会は、全受労の支部副委員長を呼び出し謝罪文を手交しようとしましたが、全受労としては、然るべき出席者立会いの下で手交日時を決めて謝罪文の手交を求めるよう窓口交渉を行い、その結果、2018年10月1 8日の10時30分から、南大阪センターの会議室にて、謝罪文が手交されました。

3 判決の意義

本件上告棄却決定により、協会で働く地域スタッフの労働者性が確認されました。

高裁では「労組法上の労働者については、労働契約によって労務を提供する者のみならず、これに準じて使用者との交渉上の対等性を確保するための労組法の保護を及ぼすことが必要かつ適切と認められる者をも含み、これに当たるか否かについては、契約の実際の運用等の実態に即して、事業組織への組込みの有無、契約内容の一方的・定型的決定の有無、報酬の労務対価性、業務の依頼に対する諾否の自由の有無、指揮監督下の労務の提供の有無、事業者性等の事情を総合考慮して判断すべき」と判示したうえで、協会の反論をそれぞれ具体的に退けました。

本件とこれまでの最高裁3判例と比べた場合、時間的場所的拘束性がより緩やかであっても労組法上の労働者性を認めたという点で意義のあるものといえます。また、本件により、現実に働く実質的に労働者である地域スタッフ及び個人請負という形態で就労する方々が労働者として団結してたたかうことができると示せた点にも意義があります。

4 判決を受けて(労使関係への変化の有無)

しかしながら、現実に協会で働く地域スタッフからみると、協会との関係は改善されていません。地域スタッフの数は平成23年度に約4000人であったものが平成29年末では約1100人まで減少しています。減少分の業務は委託法人がカバーしているようです。協会は3年毎に『NHK経営計画』を策定し、『平成24~26年度 NHK経営計画』では、地域スタッフを毎年300名削減することを打ち出し、『平成27~29年度 NHK経営計画』でも、同じく毎年300名削減する事を打ち出しておりました。現在の『平成30~32年度 NHK経営計画』では32年度末までに地域スタッフ数を500名体制にする事を打ち出しています。

協会による業態変更が時代の流れであるとみる向きもあるでしょうが、実態は、協会が就労者の生活・権利を顧みずより使い勝手のよい労働力に置き換えようとしていることの現れと評価する事もできます。

本件上告棄却決定により、協会の地域スタッフだけではなく、個人請負という形態で働く方々の労働者としての権利が尊重されるよう、切に願う次第です。

(弁護団 河村学、井上耕史、野矢伴岳、西澤真介)

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