民主法律時報

新聞記者の取材に応じると懲戒処分か? ―― 帝産湖南交通事件

弁護士 藤木 邦顕

 滋賀県の路線バス会社帝産湖南交通のバス運転手の八木橋喜代友氏は、帝産湖南交通労働組合の委員長であったが、私鉄連帯する会に参加するなかで、2014年7月ころにしんぶん赤旗記者から取材を受けて、組合の活動や増えているパート労働者の労働条件問題について述べたところ、同年8月22日に記事となって掲載された。これを知った会社は、赤旗記事に誤りがあるとして、労働組合の抵抗にもかかわらず、翌年2月に出勤停止10日の処分を発令した。八木橋氏は、これを不服として大津地方裁判所に懲戒処分無効確認の訴えを提起した。大津地裁は、2017年3月17日に原告の請求を棄却すると判決した。八木橋氏は、これを不服として大阪高裁に控訴している。

会社が懲戒理由としたのは、記事中の「労組はパート運転手の不満をとりあげて会社と交渉しました。しかし、会社は、非組合員の問題であると言って組合との交渉に応じませんでした。」との部分(原判決上記事①とされている。)と、「運転手が『君しか走るものがおらんのや』といわれ、一日に2人分の勤務をかけもちするように迫られ、断りきれずに3日連続の長時間労働をした翌日に心筋梗塞で入院しました。」という部分(原判決では記事②とされている)であった。原判決は、記事①は真実であるが、記事②は事実に反するものであって、記事②だけでも出勤停止10日の処分は相当であるとした。

内部告発と懲戒については、内部告発の真実性または真実と信ずべき正当な理由があること、基本的目的が法違反や不正の是正にあること、告発行為の態様が相当なものであることを要件に、懲戒権行使は許されないものと解されている。(菅野和夫『労働法』第十版485~486頁)。

公益通報者保護法第6条は、同法3から5条の規定は、通報をした労働者に対し、解雇その他不利益な取り扱いをすることを禁止する他の法令の適用を妨げるものではないと規定し、解雇・懲戒処分に関する労働契約法14、15、16条をあげている。

ところが原判決は、従業員が会社の内部情報を外部の報道機関に提供する行為は、「一般に平時においては企業秩序に違反するものとして厳につつしまれるべきものと解され」、公益通報者保護法に定められた対象事実・通報先・内部通報で是正されないことなどの要件を充足しなければ労働者は保護されないという解釈をした。

この判決は、内部告発について、あたかも公益通報者保護法の定めた要件に該当する通報しか保護されないかのように解しており、放置できない。

原判決は、記事②について入院した運転手の勤務は、「自動車運転者の労働時間の改善のための基準」に違反せず、そもそも長時間労働ではないし、心筋梗塞との因果関係は不明であるのに関係があるかのような記事になっていると認定した。しかし、当該運転手は、前月度に47時間10分の残業をしているところ、5月21日から入院する前日の5月28日までに、本来の乗務に加えて掛け持ちと呼ばれるさらに1系統の乗務をした日が2日、公休出勤が1日あり、7日連続の勤務であったうえ、7日間のみで前月の約半分にあたる23時間16分の時間外・休日勤務をしていた。かかる労働実態は長時間労働以外の何物でもない。

原判決は、処分の相当性について、長距離バスの重大事故などのため、バス運転手の長時間労働への社会的関心が高まっていたなかで、被告が長時間労働を強いた結果、運転手が倒れたという記事によって、被告の社会的信用の毀損のおそれは非常に大きいとする。これでは、長時間労働をさせていた会社が免罪され、労働者は沈黙を強いられることとなる。判決でかような逆転した論理がまかり通ることは許されないので、控訴審を闘う決意である。

(弁護団:藤木邦顕、鎌田幸夫、安原邦博)

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