民主法律時報

大阪市庁舎からの一方的追い出し行為は許さない ― 組合事務所使用不許可処分の取消等を求めて大阪市労組らが提訴

            弁護士 谷   真 介

  1.  2012年3月14日、大阪市役所労働組合(大阪市労組)及び大阪市労働組合総連合(大阪市労組連)が原告となり、両組合が橋下徹・大阪市長にこれまで使用してきた大阪市庁舎地下1階の組合事務所について同年4月以降も使用を許可するよう申請したところ橋下市長よりこれを不許可とされた処分に対し、その取消等を求める行政訴訟を大阪地裁に提訴したので、報告する。
     なお、大阪市長は、市庁舎地下1階の本部組合事務所の使用不許可処分に先んじて、同年1月19日には、市労組の各区役所等の支部と各区役所等との合意に基づき継続使用してきたロッカー・印刷機などの設置場所である支部組合スペースについて、まだ許可期間が残っているにもかかわらず、その期間中にこの許可を一方的に取り消した。これらについても追加で提訴する予定であるが、この点は割愛する。
  2.  大阪市労組は、1990年7月に連合・自治労系の大阪市職等から分離独立する形で結成、現在の組合員は約500名という少数組合である(なお自治労・大阪市職は組合員約1万1000名、大阪市職を含む連合・大阪市労連は組合員約2万8000名である)。また大阪市労組連は、大阪市労組のほか、大教組傘下の大阪市学校園教職員組合(大阪市教)、大阪市立高等学校教職員組合(大阪市高教)、大阪市立障害児学校教職員組合(大阪市障教)の3労組と、大阪市学校現業労働組合(学現労)を併せた5労組の連合体であり、合計組合員数は約3000名である。
     大阪市労組と大阪市労組連は、2006年7月より、労使の合意に基づいて、大阪市庁舎の地下1階に組合事務所を継続的に使用してきた。その法律上の根拠は、地方自治法238条の4第7項の行政財産の目的外使用許可である。大阪市の財産条例において、許可期間は1年以内とされているため、市労組らは毎年1年間の使用許可申請をして大阪市長の許可を受け、組合事務所の使用を継続してきた。賃料(使用料)については、使用許可申請に併せて毎年減免申請を行い減免が認められてきた。ただ減免率については2009年以前は8割減免であったが、労使協議を経た上で、2010年度は7割減免、2011年度は6割減免と、逓減されてきた。直近の2011年度には6割減免で約80万円の使用料を支払い、わずか約44㎡のスペースの組合事務所を使用してきたのである。
     なお2012年度についても、継続的に組合事務所を使用することを前提に、減免率を5割にすることが労使で合意されていた。
  3.  しかしその後、ご存じのとおり、2011年11月27日の大阪府市ダブル選挙で府知事から鞍替え出馬した橋下徹氏が市長に当選し、同年12月19日に大阪市長に就任した。橋下市長は就任直後から、「職員組合と市役所の体質をリセットする」、「組合の事務所には庁舎から出ていってもらう」などと、公然と、あからさまに、職員組合を敵視する発言を繰り返した。
     その言葉どおり、2012年1月30日には、市労組らがまだ来年度の組合事務所の使用許可申請をしていないにもかかわらず、先んじて、総務局長名で、来年度の組合事務所の使用許可を行わない方針であることと、3月末までに退去するように通告がなされた。市労組らは2月17日に4月以降の使用許可申請を行ったが、橋下市長は2月20日に早速これを不許可とし、改めて3月末で市庁舎から退去するよう通告してきた。単に「組織改編による新たな事務スペースが必要になった」という理由を示したのみで、労使協議は一切ないといってよく、代替案すら示さなかった。
     市労組らは、このような労使の話し合いを全くせず一方的に追い出す橋下市長の手法を唯々諾々と容認することはできないと意思統一し、裁判闘争に踏み切ることになったのである。
  4.  訴訟における請求の内容は、上記不許可処分の取消請求と4月1日からの使用許可の義務付け請求、各労組200万円の国賠請求である。行政財産の目的外使用許可はまさに行政の裁量行為であるが、その裁量に逸脱濫用がある場合に違法となるのは当然である。
     本件で橋下市長が行った組合事務所の使用不許可処分は、まさに労働組合の弱体化をねらった不当労働行為目的に基づいている。前述のように、橋下市長は就任当初より、「組合との関係をリセットする」として組合事務所退去の方針をとっている。そして、何ら行政上の必要に迫られていないにもかかわらず、この市長の意向を受けて組合事務所の撤去そのものを目的として、不許可処分が行われたのである。本来、目的外使用許可をする際に検討されるべき以外の事情(不当労働行為)を考慮に入れて不許可処分を行っていること自体、大阪市長には裁量権の逸脱濫用があり、同処分は違法である。
     とりわけ大阪市労組は、大阪市長選挙における交通局での投票依頼の問題のような、橋下市長や当局が問題とする行為すら、何ら行っていない。仮に他労組に問題行動があったとしても、それを理由に市労組らに不許可処分をすることが許されてならないのは当然である。
     本件で問題となる組合事務所の撤去の問題は、労働組合にとって極めて深刻な問題である。組合事務所が組合活動の最も重要な拠点であることは、疑う余地がない。本件不許可処分の目的は、まさにこの活動拠点を奪うことで、労働組合の活動を弱体化させるところにある。かかる一方的な組合事務所が適法とされてしまうと、他の自治体の労働組合や民間の労働組合への影響も計り知れず、この点からも本件訴訟は極めて重要な位置づけを有している。
  5.  本件は、単に一自治体において一市長の意向で組合事務所の撤去が要求されたという単純な問題ではない。ポピュリズム的手法をとる維新の会・橋下市長による、組合や職員に対する数々の攻撃の一環として行われたものである。
     ご存じのとおり、橋下市長は市長就任後、思想良心の自由や団結権を侵害する職員アンケートの実施、職員・教育基本条例の提案、密告の奨励など、職員や労働組合の適法で自由な行動まで規制し、思想良心さえ統制する動きを顕著に進めてきた。職員はその中で物も言えず、市政への批判などは全くできない状況になりつつある。職員・労働組合は原則として政治的活動も自由にできるはずであるのに、マスメディアを利用した誤った情報操作により、市民に誤解を生じさせ、職員や労働組合の自由が全く奪われてしまっている。橋下市長の真の狙いは、このように「市民」を誤った情報で煽って公務員バッシングの世論を形成し、また職員や組合を徹底的に攻撃をすることで、職員を統制し、市政への批判を封じるところにある。結局、これでは市民の自由や権利の行使も萎縮させることになり、市民・住民の利益に真っ向から反することになるのである。しかし、橋下市長は圧倒的な選挙結果を背景にして、自身の行動が「民意」であるとして、専制支配を実現しようとしているのである。
     市労組の事務所には、橋下市長就任以来、「市民」と名乗る人々からの根拠のないクレームの電話が鳴り止まない。「ここは市民の財産だ」と言って、同意なく事務所内にまで入ってこられることもしばしばだそうである。提訴の際にも、某テレビ局の職員が組合事務所の中を撮りたいといったのに対し、突然言われてもすぐに同意はできないと断ったところ、「市民の財産なのに許可は必要ない」と言って、強引に入ってこようとした騒ぎがあった。市政クラブでの提訴会見でも、「4月1日以降は不法占拠になるがどう考えているのか」という質問ばかりで、組合を「市民」の敵としか捉えない橋下市長べったりのマスコミの姿勢を体感することとなった。このようなプレッシャーの中で最前線で闘っている市労組の方々やその中で働く職員の心理的負担は計り知れないものがある。
     このような橋下市長の手法にどう対抗するか、市民への共感を呼ぶ運動をつくりあげるかは、難しい課題であるが、乗り越えなければ大阪の未来はないであろう。市職員の仕事や労働組合の意義や役割について、市民に伝える努力を粘り強く続けることしかないと思う。
  6.  提訴後、本件裁判は一旦は行政部に係ったが、その後労働部に回付され、労働部で審理されることとなった。提訴しても市長の退去要求が止まることはなく、提訴翌日には早速、当局より改めて退去をするよう通告がなされた(明け渡さない場合、明け渡しの民事訴訟を起こすようである)。なお市労組には現業の組合員もいるため、年度内に労働委員会への救済命令申立も行う予定である。
     最後になったが本件は緊急の提訴であったにもかかわらず、民法協会員を中心に  名もの弁護士に弁護団に参加していただくことができた。市労組らは、法廷内外の運動を含め、あらゆる手段を駆使して労働組合としての権利を守り正常な労使関係を取り戻すべく最後まで闘いぬく決意を固めているので、今後も全面的なご支援をお願いする次第である。(実働弁護団は、自治労連弁護団を中心に、豊川義明、大江洋一、城塚健之、河村学、増田尚、中西基、喜田崇之、宮本亜紀と谷真介。その他弁護団、73名)

 

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