民主法律時報

思想調査国賠訴訟―憲法を守り、市民・職員が当たり前にものが言える大阪市を取り戻すために

原告団長 永 谷 孝 代

 今年2月9日から大阪市職員に橋下市長がおこなった「職員アンケート調査」に対して大きな精神的苦痛を受けたことに対して、7月30日、55名の原告で大阪地裁に提訴しました。

 「職員アンケート調査」は、まず「市長の業務命令として全職員に真実を正確に回答していただくことを求めます。正確な回答がなされない場合には処分の対象となりえます」という橋下市長の署名入り前文から始まります。「処分」という文字に脅威を感じました。それまでの市長の言動も「職員に民意を語ることは許しません」とか「民意を無視する職員は大阪市役所から去ってもらう」など連日マスコミを通して報道されていましたので、市長の言うことに従わない職員をあぶりだすためのものだと思いました。アンケートの内容を見るとそれはまさしく、職員の思想・信条に踏み込んだもので「これは憲法違反」だと思いました。アンケートの項目一つ一つに目を通すだけでも苦痛でした。自治体職員として市民のための仕事をしたいと一生懸命がんばってきた自分の生き方を土足で踏みにじられた感じがしました。

 わたしは、保育士として35年勤務してきました。保育という仕事を通じてたくさんの子どもたち・保護者・地域の人たちと出会いました。とりわけ、障害を持った子どもたちや生活困窮の中で一生懸命生きる子どもたちとの出会いは、私の保育士人生を大きく変えました。マニュアルどおりの保育では決して解決しない問題が保育所の中には山積みにされています。雇用問題、社会保障問題など国の根幹から見つめなおすことや市民の声を聞き、声にできない子どもたちの悲痛な叫びをしっかり受け止めることなくして、解決しない問題がたくさんあることを学びました。私のような小さな力でも子どもたちの笑顔を守る運動に携わっていきたいと今まで労働組合を通して地域の人たちとの手つなぎを続けてきました。それは、子どもたちに背を向けるようなことはしたくないという私の生き方でした。日本の国は「憲法」があり、基本的人権や思想・信条の自由や幸福追求権など人間としての尊厳を守ってくれていることが、この社会で生きていく普通の人間の安心につながっています。私たちの運動も憲法で守られ、労働法で守られている適法の中の活動であると信じての運動でした。

 しかし、橋下市長の行なったアンケートは私が今まで行なってきたことが全て違法であり、「悪」であるかのように決め付けた中身であり、今までの生き方を否定するものでした。「どんなことで処分されるかわからない」「まじめに働いていても市長の意に沿わなければ処分されるかもしれない」常にそんな不安が職場の中に漂っています。「市長の言いなり」になることが公務員の役割なのか、就職の時に私たちは「全体の奉仕者として働くこと」「憲法を守ること」を誓約したはず、いろんなことを考え悩みました。職場感情を考えて提出したが、どうしても自分に納得ができず、悩んだ挙句、震えながら「アンケートを返してください」と返してもらった人、「処分する」の言葉にまだ幼い子どものことを考え、自分がもし職をなくしたらどうなるか考えたが、やっぱり母として子どもに胸を張って前を向ける道を選択しようと提出しなかった人、家族会議を開いて裁判の原告になる気持ちを家族に訴えた人、「お母さんのやりたい方向を選ぶのか一番いい」と言う息子の言葉に背中を押された人など、「処分」も覚悟で決意した原告たちは「どんな時も許してないけないものがある」と自分の生き方を貫きました。

 そして、私たちが踏み切るためにたくさんの方々の温かい励ましがありました。現役の職員を処分されてはいけないと立ち上がってくれたOBや、連日、市役所前に駆けつけて反対運動に参加してくださった団体・市民の皆さんの「市役所の職員頑張れ」の励ましが、今回の裁判提訴に踏み切る大きな勇気につながっています。私たちは自治体職員として、市民の声を聞き、市民とともに歩む道を選んで市労組を結成しました。今回の裁判は個々が原告としての決意を固め、立ち上がったものですが、だれもが、「これは自分の生き方だ」と胸をはり、「市労組」の組合員であることに誇りを持って決意しました。私たちのたたかいを通じて、職員を励まし、市民の応援に応えられるものにしたいと思っています。これから始まるたたかいは険しい道かもしれません。不安もたくさんあります。しかし、私たちにはたくさんの応援団がいる、一緒にたたかう仲間がいる、みなさんとともに原告団も勇気をもってたたかっていきたいと思います。

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