民主法律時報

泉南アスベスト国賠訴訟最高裁判決――最高裁が国の責任を断罪

弁護士 鎌 田 幸 夫

1 最高裁での勝訴判決の言い渡し

 平成26年10月9日、最高裁判所第一小法廷(白木勇裁判長)は、大阪・泉南アスベスト国賠1陣訴訟(原告34人・被害者26人)及び2陣訴訟(原告55人・被害者33人)の上告審において、1陣訴訟、2陣訴訟とも国の責任を認める原告勝訴の判決を言い渡した。アスベスト被害について国の責任を問う訴訟で、最初に言い渡される最高裁判決であり、1陣高裁と2陣高裁で結論が正反対に分かれたため、最高裁がどのような判断を示すのか全国的に大きな注目を集めていた。本最高裁判決については、既にマスコミで大きく報道され論評されているところだか、ここでは、弁護団の立場から、判決の概要、意義、課題、今後の展望について簡単に述べたい。

2 本最高裁判決の内容

 本判決は、国の規制権限不行使について、①「労働大臣は、昭和33年5月26日には、旧労基法に基づく省令制定権限を行使して、罰則をもって石綿工場に局所排気装置を設置することを義務付けるべきであったのであり、旧特化則が制定された昭和46年4月28日まで、労働大臣が旧労基法に基づく上記省令制定権限を行使しなかったことは、旧労基法の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、著しく合理性を欠くものであって、国家賠償法1条1項の適用上違法である」と判断して、国の責任を認めた。
 他方、②「昭和49年9月30日以降、石綿の抑制濃度の規制値を昭和50年告示で5本/ccとし、産業衛生学会の勧告値である2本/ccとしなかったこと」、および、③「昭和47年9月30日以降、石綿工場における粉じん対策としては補助的手段に過ぎない防じんマスクの使用に関し、上記各義務(「防じんマスクの備え付け義務、労働者の使用義務、雇い入れ時、作業内容変更時の安全教育義務、じん肺法の安全教育義務」を指す・・筆者注)に加えて事業者に対して労働者に防じんマスクを使用させる義務及びその使用を徹底させるための石綿関連疾患に対応する安全教育実施を義務付けなかったこと」は、いずれも、著しく合理性を欠くとまでは認めらないとして、国賠法1条1項の違法性を否定した。
 そのため、1陣訴訟については被害者2名、2陣訴訟については被害者1名が、就労開始時期が昭和47年以降であったため、国の規制権限不行使の違法期間外であることを理由に責任が認められなかった。
また、2陣訴訟は確定したが、1陣訴訟は原告らの損害額の確定のために大阪高裁に差し戻された。

3  本最高裁判決の意義

 第1に、最高裁が、司法の最終判断としてアスベスト被害について国の責任があることを明確に認めたことである。平成17年のクボタショック後、国は、過去の対応を検証したが問題はなかったとし、平成18年の石綿救済法も国に責任があることを前提とした「補償法」ではなく「救済法」であった。最高裁が、1陣地裁、2陣地裁、同高裁に続き、アスベスト被害について国の法的な責任を認めたことは、国の過去の対応の検証や被害者救済及び将来の被害防止対策のあり方の見直しを迫る契機となる。

 第2に、産業発展でなく、国民の生命・健康を優先することを明確に認めたことである。本判決は、産業発展を優先するのか、国民の生命健康を第一とするのか、国のあり方を左右する問題について、最高裁が、憲法と法令に則り、国民の生命・健康こそが至高の価値であり、生命・健康被害を防止するために迅速かつ適切な規制権限を行使する義務があることを明確に認めたことである。最高裁判決は、1陣高裁判決を破棄し、筑豊じん肺最高裁判決(平成16年4月27日)を引用して「できる限り速やかに、技術の進歩や最新の医学的知見等に適合したものにすべく、適時にかつ適切に行使すべき」と判示した。本判決の判断枠組は、全国6カ所の建設アスベスト訴訟などアスベスト被害で国の責任を追及する訴訟にも当然適用され、勝訴に向けての追い風となる。
 さらには、最高裁の判断は、現在における原発再稼働など安全性軽視、産業、経済発展優先の国策に対する警鐘となるものといってよい。

 第3に、全国に広がったアスベスト被害救済の礎となることである。
 最高裁判決は、昭和33年3月末には石綿被害の知見が確立しており、国は昭和33年5月26日には、局所排気装置設置を義務づけるべきであったとして、昭和46年4月28日までの国の責任を認めた。医学的知見が確立してから対策の義務付けまでわずか2カ月弱の猶予期間しか認められていない。石綿紡織業以外の石綿取扱い業についても、被害が発生しているのに有効な粉じん対策を怠れば国に責任があることになる。石綿被害の原点である泉南地域の被害について国の責任が認められたことは、全国に広がったアスベスト被害の救済の礎となる。

 第4に、国賠訴訟の保護対象が広がったことである。
 最高裁は、2陣高裁判決が石綿工場の出入り業者について国賠法上の保護対象となるかについて「石綿工場の労働者の他、職務上、石綿工場に一定期間滞在することが必要であることにより工場の粉じん被害を受ける可能性のある者も保護対象に含まれる」とした判断について、国の上告受理申立を排除し、高裁判決を是認した。この判断は、旧労基法、安衛法を規制権限の根拠とする国賠訴訟の保護対象が、当該事業者と雇用関係にある労働者に限定されるものではないとするものであって、国のいう反射的利益論を打破し、国賠訴訟における救済対象を広げるものであるとともに、建設アスベスト訴訟の一人親方等の判断にも影響するものである。

 第5に、アスベスト被害について国に重い責任が認められたことである。
 最高裁は、2陣高裁判決が国の責任の範囲が全損害の2分の1であるとした判断について、国の上告受理申立を排除し、高裁の判決を是認した。筑豊じん肺事件の高裁判決の国の責任は、3分の1であり、アスベスト被害について国の責任の範囲を重くみる先例となろう。さらに、基準慰謝料額を筑豊じん肺訴訟の基準から各疾病において100万円増額し、慰謝料の減額事由を一切認めなかった2陣高裁判決の判断が確定した。

4 本判決の問題点

(1)   最高裁は、1陣訴訟の近隣ばく露者、家族ばく露者、および2陣訴訟の除斥期間の被害者について、7月17日の決定で上告を受理せず、あるいは排除して審理の対象としなかった。これは、泉南地域では零細の石綿紡織工場が集中立地し、事業者も労働者も家族も石綿粉じんにまみれて働き、工場外に石綿粉じんが大量に飛散していた実態を見ないものであって極めて問題である。

(2)   また、本最高裁判決は、抑制濃度の強化義務違反、防じんマスクを使用させることと安全教育実施義務違反による国の責任を認めた2陣高裁判決を破棄し、47年以降の違法を認めなかった。しかし、昭和47年以降は中低濃度の曝露による肺がん、中皮腫の罹患の医学的な知見が確立しており、しかも、本判決も認めるとおり、昭和40年代半ばから昭和60年にかけて石綿の大量消費が続き、泉南地域の石綿工場はフル稼働であり、大量の石綿粉じんが飛散していた。他方で、局所排気装置の性能は悪く、事業主や労働者の石綿の危険性の認識は極めて乏しく、防じんマスクも息苦しく、作業に支障があった。医学的知見や技術の進歩に適合した、迅速で「適時かつ適切な規制権限の行使」という判断枠組からは、昭和47年以降により厳格な規制である、抑制濃度の強化や特別安全教育の実施と防じんマスクを使用させること義務付けるべきであったというべきであり、最高裁判決の判断は不当である。
 なお、防じんマスクについて、最高裁は「石綿工場における粉じん対策としては、局所排気装置等による粉じんの発散防止装置が第一次的な方策であり、防じんマスクは補助的手段にすぎない」とし、「石綿工場の粉じん対策としては補助的手段にすぎない防じんマスクの使用に関し、上記義務に加えて」、防じんマスクを使用させることその徹底のための特別教育実施を義務づけなくとも、著しく合理性を欠くとまではいえないとした判示した。この判示部分が、現在係争中の建設アスベスト訴訟に直接の影響を及ぼすことはない。むしろ、建設作業では、局所排気装置による効果的な粉じん対策が困難であり、防じんマスクの使用が有効な防じん対策であったのだから、その規制の不備は、本最高裁判決の立場からしても違法という結論になるであろう。

5   最後に

 原告団弁護団は、国に対し、今回の最高裁判決を重く受け止め、加害者として原告ら被害者に真摯に謝罪すること、最高裁判決を基準に、1陣、2陣訴訟の原告らに対して、一括して速やかに賠償金等を支払うとともに、原告ら以外の泉南地域の被害者救済や残存アスベストの除去等に向けた協議を求めた。10月27日、厚労大臣が原告らに直接面談して謝罪し、差し戻された1陣訴訟については確定した2陣訴訟の基準で賠償金を支払う和解を申し入れること、1陣2陣訴訟原告以外の石綿工場の労働者についても最高裁判決と同様の状況にあれば訴訟上の和解を申し入れることを表明した。
 社会的な力も組織力もない泉南地域の労働者住民らが国に挑み、8年半の闘いの末についに国に謝罪させ、責任を認めさせた。民衆の闘いの歴史的な勝利である。弁護団は、 今後、差戻し審で泉南被害の全面解決を果たし、建設訴訟の勝利など全国に広がったアスベスト被害の救済に力を尽くしたい。

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