民主法律時報

泉南アスベスト国賠2陣訴訟大阪高裁判決――三度国の責任を断罪

弁護士 鎌 田 幸 夫

1  勝訴判決の言い渡し
 平成25年12月25日、大阪高裁13民事部(山下郁夫裁判長)は、泉南アスベスト国賠2陣訴訟(一審原告58人、被害者33人)控訴審で、国に対して総額3億4474万円の支払いを命じる一審原告勝訴の判決を言い渡した。
 大法廷で裁判長の判決主文、そして骨子の読み上げを聞きながら、国の責任が長期かつ幅広く認められていることがわかるにつれ、被害者ら(裁判中になくなった人も含めて)の声が裁判官の心に届いたという思いと、1陣訴訟提訴後7年半の長い闘い、特に、2年半前の1陣訴訟高裁での衝撃的な逆転敗訴とそれからの苦しい闘いが脳裏をよぎり、感極まって落涙してしまった。
 ここでは、判決の位置づけ、概要と意義、判決内容で特に注目すべき点、現在の運動について簡単に報告したい。

2 2陣訴訟高裁判決の位置づけ
 泉南国賠訴訟は、1陣訴訟(被害者26名)が平成22年5月、大阪地裁(小西義博裁判長)で国の責任を初めて認める画期的判決が言い渡されたが、同22年8月、大阪高裁(三浦潤裁判長)で逆転敗訴判決が言い渡された(最高裁に係属中)。 同24年3月、2陣訴訟で大阪地裁(小野憲一裁判長)で再び国の責任を認める判決が言い渡された。そして、2陣訴訟高裁判決(「本判決」という)は、1陣訴訟提訴後7年半にわたる当事者の死力を尽くした主張・立証と、1陣地裁・同高裁・2陣地裁の3度の判決を踏まえて、最後の事実審として言い渡されたものであり、その判断は極めて重いものである。

3 2陣訴訟高裁判決の概要と意義

(1) 概要
 本判決は、①国は、昭和33年5月には局所排気装置の設置を義務付けるべきであった、②昭和49年9月までには日本産業衛生学会の勧告値(1立法センチメートル当たり2本)を抑制濃度とする特化則に基づく告示の改正を行うべきであった、③昭和47年9月には特化則を改正して防じんマスクを使用させることを義務づけるべきであった、④昭和 年の時点で防じんマスクの使用徹底を図る補助手段として使用者に特別安全教育の実施を義務づけるべきであったとして、国の規制権限不行使が国家賠償法1条1項の適用上違法であるとし、国の責任を認めた。

(2) 意義

 第1に、泉南アスベスト被害について、1陣、2陣訴訟の各大阪地裁判決に続いて、三度、国の規制権限不行使の責任を明確に認めたことである。また、高等裁判所として、初めてアスベスト被害について国の責任を認めたことである。
 第2に、国が依拠した1陣高裁判決を厳しく批判し、否定したことである。1陣高裁判決は、生命健康よりも産業、工業発展を優先させ、広範な行政裁量を認めて国の責任を免責した。長年にわたる公害、労災闘争なかで築きあげてきた成果や司法判断の流れに逆行する不当判決であった。国は、2陣控訴審で1陣高裁判決を最大の拠り所として主張を展開したが、本判決は国の主張をことごとく排斥しており、1陣高裁判決を明確に否定したものといえる。当然、本判決は、係属中の1陣最高裁の行方にも大きな影響を及ぼすものであり、泉南アスベスト被害について国の責任を認める司法判断の大きな流れは固まったものといってよい。
 第3に、長期間かつ全般的にわたる国の規制権限の不行使の違法と、国の重大な責任を認めたことである。国の責任期間を昭和33年から平成7年まで長期間にわたって認め、また、国の規制権限不行使の違法事由を粉じん発生抑制措置(局所排気装置設置)義務付け、濃度規制の強化、ばく露防止措置(防じんマスクの使用)義務付け、安全教育実施など基本的な粉じん対策全般にわたって認めた。本判決は、2陣地裁判決が、国の責任期間を昭和35年から同46年までに限定し、違法事由を局所排気装置設置義務付け違反しか認めなかったことと比べて、責任の期間、違法事由とも大きく拡大させた。国の不作為の違法が、これまでの判決のなかで最も厳しく指弾された。ことに、1970年代から1980年代にかけてわが国にアスベストが大量に輸入され、広く使用されていた頃の違法性が認められたのは、全国6地裁で係属中の建設アスベスト訴訟にも影響を及ぼし、励ますものである。
 第4に、国の重大な責任を認めたことである。 国の責任について、使用者の安全配慮義務とは別個独立であり、被害者に対する直接の責任であると指摘し、国の責任期間、規制権限不行使の内容、義務違反の程度など重大であるとして、責任範囲を全損害の2分の1を限度とし、 基準慰謝料額も、筑豊じん肺訴訟の基準から各疾病において100万円増額し、しかも、慰謝料の減額事由を一切認めなかった。本判決は、2陣訴訟地裁判決が、責任の範囲を3分の1とし、労災受給や喫煙などを減額事由としたことに比べて、国の責任をより重大なものと認めたものである。
 第5に、石綿原料を搬入していた運送業者の従業員も損害賠償の保護範囲に含まれるとしたことである。
本判決によって、石綿工場の労働者だけでなく、石綿工場に滞在して石綿粉じんばく露して健康被害を被った者も保護の対象となり、国賠法上の救済対象が広がった。

4 本判決の注目すべき内容

(1) 国の規制権限行使のあり方とその具体的な適用
 本判決は、石綿による健康被害の防止のための国の規制権限行使のあり方と不行使の違法性判断基準について、筑豊じん肺最高裁判決(平成16 ・4・27)に沿って「できる限り速やかに、技術の進歩や最新の医学的知見等に適合したものにすべく、適時にかつ適切に行使すべき」とした。そして、 規制権限行使の時期や態様等については労働大臣の高度に専門的な裁量であるとしたクロロキン最高裁判決(平成7・6・23)は、医薬品の有用性と副作用の比較衡量が必要な事案であり、本件の石綿粉じんから健康被害を防止するための労働安全行政の場面には妥当しないことを明確に指摘した。1陣高裁判決は、クロロキン事件最高裁判決と同様の判断基準によって広い行政裁量を認めて国を免責したが、その誤りは明白である。
 また、本判決の特徴は、具体的な規制権限の行使すべき時期を、①局所排気装置設置義務づけについて医学的知見、技術的基盤が確立した昭和33年であるとし(じん肺法の成立時期とする2陣地裁判決や筑豊じん肺最高裁判決の認定時期より2年早い)、また、②肺がん中皮腫は発症の危険性が明らかになった昭和47年以降は、さらなる厳格な規制が必要であるとして石綿粉じんの濃度規制の強化について、学会の新たな勧告がなされてから6ヶ月後の昭和49年9月までには改正を行うべきであったとしている。技術の進歩や医学的知見に適合するよう、国の「適時かつ適切な規制権限の行使」を厳しく求めたものといえる。石綿のみならず、今後も新たな有害物質によって健康被害が生じる危険があることを考えると、国の過去の怠慢を厳しく指摘するとともに、今後の労働安全行政のあり方の見直しを迫るものである。

(2) 規制権限を行使する際に石綿の社会的有用性を考慮してはならないこと
 本判決は、「石綿製品が当時いかに有用であり、必要な製品であったとしても、そのために製造過程で発生する有害な石綿粉じんによる労働者の健康被害の発生を容認してよいとはいえないことは明らかである」「石綿製品の社会的有用性を考慮して規制の要否や程度、時期等を決定するなどということは、旧労基法や安衛法の委任の趣旨に背く」と明確に判示した。1陣高裁判決は、厳格な規制は工業技術や産業社会の発展を阻害するとして、工業製品の社会的必要性及び工業的有用性も考慮して、規制するかどうかを決定すべきであると判断し、生命健康を軽視し、産業を優先するものであると世論の強い批判を浴びたが、本判決も、1陣高裁判決を厳しく批判するものである。

(3) 公害、労災防止の技術の考え方
 本判決は、規制権限を行使する(対策を義務づける)前提としての工学的知見について「技術的基盤が形成されるということと、それが十分な性能をもって利用されていることとは別の事柄」であるとし、局所排気装置設置のように利潤に結びつかずコスト負担を伴う場合「法規制によって義務付けられない限り、当該設備が広く普及することはなく、むしろ規制に基づいて設置が進むことによって市場が形成され、その過程で具体的な市場の要求に応える形で技術が一層発展していく」とした。この判示は、健康被害が発生している以上、たとえ不完全でもその時代にある技術で規制し、被害の発生を食い止めること、そして、規制することによって技術が普及し、進展していくという公害、労災防止の技術の基本に則った判断である。1陣高裁判決は、効果的な局所排気装置が社会に相当普及していないと義務づけることはできないと判示したが、本判決は、規制の前提として「十分な性能を有する局所排気装置があまねく普及していることを要するのであれば、それこそ規制の必要性がなくなってしまう。むしろ規制によって普及させることこそが重要である」と、一蹴した。

(4) 規制措置の実効性も考慮すべきこと
 本判決は、国が、粉じん対策について既に規制措置を講じている場合は、違法性判断に当たっては、当該措置の実効性(十分な効果をあげたか)も考慮すべきであるとし、任意の行政指導では局所排気装置は普及せず、また、防じんマスク備付けの義務付けもマスクの息苦しさや作業への支障のため、着用が進まなかったとした。そして、肺がん中皮腫の危険性が明らかになった時期以降は、新たに防じんマスクを使用させることと、安全教育実施の義務付けを行わなかったことが違法となると判断した。被害の発生はマスクを着用しなかった労働者の自己責任であると切って捨てた1陣高裁判決と対照的である。
 本判決は、国が、抽象的な規制や一片の通達を出して事足れりとするのではなく、採った措置が労働現場で健康被害を防止する効果を上げているかどうかを絶えず検証して、効果があがっていなければ、新たな規制を行うべきであるとするものであって、労働安全行政のあり方の見直しを迫るものである。

(5) 国賠法上の保護対象を拡大したこと
 本判決は、石綿工場の労働者ではない石綿原料の運送業者の従業員が国賠法上の保護対象となるかについて、「人の生命、身体、健康というものは、行政活動において常に尊重されるべき」であるから、安易に取消訴訟における反射的利益論を持ち出すのは妥当でなく、当該法令(旧労基法等)の直接的な保護対象のみに拘泥することなく、その趣旨、目的に照らして、慎重に保護範囲を決するべきであるとし、「石綿工場の労働者のほか、職務上、石綿工場に一定期間滞在することが必要であることにより工場の粉じん被害を受ける可能性のある者も損害賠償における保護範囲に含まれる」とした。 この判示は、国賠法上の保護対象の範囲を拡大するものであり、1陣訴訟の労働者の家族や近隣農作業者、建設アスベスト訴訟における一人親方の保護対象にも影響を及ぼすものである。

5 上告断念を求める運動
 原告、弁護団、勝たせる会は、12月25日の判決当日から、東京の厚労省前でも大阪と同時並行で集会を開き、厚労大臣に面談を申し入れ、12月27日まで厚労省前、官邸前で全面解決の要請行動を続けた。そして、野党全会派の与党議員の厚労大臣への申し入れ、早期解決アピールに賛同の国会議員が117名に上り、地元市長、議長のメッセージ、マスコミの社説なども全面解決を求めた。原告団は年が明けても上京して要請行動を行ったが、国は、上告期限前日の1月7日、「1陣高裁判決との開きがありすぎる」という理由で上告した。これは、政治の役割を完全に放棄するもので、極めて不当なものである。原告団は、国の不当な上告に抗議をしつつ、自らも上告した。闘いの舞台は1陣・2陣とも最高裁に移ったが、今後も国には速やかな全面解決を求めていく。引き続きのご支援をお願いしたい。

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