民主法律時報

石綿被害者の救済を広めるために ―― 厚労省を動かす!

弁護士 奥村 昌裕

 大阪・泉南アスベスト国賠訴訟は、平成26年10月9日の最高裁勝訴判決で全て解決したと思われている方が多いと思います。しかし、そうではありません。

最高裁判決を受けて国は、最高裁が、国が責任を負うべきだと認定した基準に合致する被害者が、国を相手に訴訟を起こせば、最高裁判決で認定した慰謝料額で和解することを約束しました。そして、最高裁判決後、大阪地裁だけでも39名が提訴し、うち33名(被害者数)の和解解決をみています。

和解基準の概要は、「昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間に、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事し、石綿関連疾患を発症したこと。」です。

この「石綿粉じんにばく露する作業に従事」する者は、石綿工場事業者と雇用契約をして、工場内で、石綿製品の製造にかかわっていた労働者だけではありません。最高裁判決は、石綿工場と雇用契約のない、石綿の原料を石綿工場に運送し、工場に搬入していた労働者が、石綿工場内に飛散していた石綿粉じんにばく露して病気を発症したことについて、国の責任を認めました。石綿工場の業務に不可欠な作業のために、石綿工場に出入りしている労働者について、石綿工場の事業者が雇用している労働者と同視できるとして、国が責任を負うべき労働者の範囲に含めたのです。

この判断に基づき、平成29年11月1日、和解事案では初めて、石綿原料を港でトラックに積み込み、泉南地域の石綿工場に運送・搬入していた被害者が提訴し、国が争うことなく速やかに和解が成立しました。このように石綿工場事業者と直接雇用関係のない労働者も、作業実態に基づき和解解決ができます。過去、石綿工場に石綿原料を運送していた労働者が工場内で石綿にばく露して石綿関連疾患を発症しているかもしれません。また運送業以外でも、出入りの業者で、石綿工場の業務に不可欠な作業(例えば、機械の点検・修理)をして深刻な病気を発症しているかもしれません。このような被害者にも国は和解に応じるものであり、広く周知することが必要です。

これまで弁護団は厚労省に対し、労災受給者など国が把握している被害者に積極的に広報するよう要求してきました。それに対し、国はやっと重い腰を上げ、平成29年11月に、まず全国の労災受給者に対し、上記基準で国が和解に応じて賠償金を支払うことを、個別に通知しました。12月には、じん肺管理区分の認定のある被害者にも通知されました。

もっとも、この通知は「石綿ばく露作業による労災認定等事業場一覧表」の「石綿ばく露作業状況」のうち、主に石綿・石綿製品の製造・加工(切断・穿孔等)作業に従事した被災者を抽出して送付しており、「石綿原綿又は石綿製品の運搬・倉庫内作業」などに分類される「運送業」従事者には送付されていないと思われます。石綿工場に出入りしていたか否かは、労災認定時の被災者「聴取書」等によって確認できる場合があるので、厚労省は労災記録を確認した上で、泉南型国賠対象可能性のある被災者に漏れなく個別通知すべきことはもちろんですが、私たち弁護士が、このような被害者から相談を受けた際、国の和解対象の可能性があることを相談者に伝えることが大事です。

自分たちのためだけではなく、同じ石綿被害者の全面救済を目指し約8年半にも及んだ泉南アスベスト訴訟で勝ち取った成果を、多くの被害者に利用してもらいたい。それが、原告、弁護団、支援の思いです。

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