JAL不当解雇撤回裁判原告団 事務局次長 長 澤 利 一
はじめに
東京地裁で争われていた、JAL整理解雇訴訟のパイロットならびに客室乗務員の判決がそれぞれ2012年3月29、30日に言い渡された。整理解雇の有効性が問われた本件において、両判決は解雇を有効としたのである。原告の一人としてこの判決を受け止めるとき、不当な判決であるとしか言いようがない。両判決は整理解雇法理を否定せずにその要件を緩和しているのである。このことは、JALの会社更生の世界観が、①東京地裁が管財人を選任し、②その管財人が更生計画を作成し、③作成された更生計画を東京地裁が認可し、④そこで整理解雇が行われ、⑤その解雇権の濫用について東京地裁が判断するという大変偏狭なものであったといえる。
また、この判決にたいしては、多くの支援者、団体からも批判の声が上がっている。
1 地裁判決の不当性
私たち原告団は、東京地裁の口頭弁論において更生会社にあっても整理解雇法理は適用されるべきであると主張し、その4要件についていずれも合理性のないことを立証してきた。しかしながら、パイロット判決と客室乗務員判決では、多少の差はあるものの、裁判官の状況認識は適切なものとはいえなかった。すなわち、パイロットの判決においては、JALの再生計画は破綻的清算を回避するものと位置づけ、そして客室乗務員の判決では、一旦沈んだ船を二度と沈むことのない船にするための再生計画と位置づけたのである。したがって、このような前提下における整理解雇4要件の検討は、公正な判断にいたることができるのかという点で大きな疑問が残るのである。
(1)目標を超過しても整理解雇する必要性はあったのか
では、解雇された2010年12月31日の時点において、JALの実態はどうであったのか。当時の連結営業利益は、2010年10月で1327億円、11月で1460億円、12月で1586億円であったように、十分な利益を計上していた。その後の期末では更生計画の初年度目標の2.9倍にもおよぶ、JAL史上最高の1884億円を確保したのである。にもかかわらず判決では「このような収益の発生を理由として、更生計画の内容となる人員削減の一部を行わないということはできない」や「更生計画を上回る営業利益を計上していることは、更生計画に基づく人員削減の必要性を減殺する理由とはならない」としているのである。いくら巨額な利益をあげても人員削減の必要性の判断に影響しないというのであれば、その先にある整理解雇の必要性の検討はどの様になされるのであろうか。
人員削減数に関しても、原告らが在籍していたJALの運航会社では約1520名の目標に対して、1696人が希望退職に応じていたにもかかわらず、パイロットと客室乗務員については職種別の削減目標人数に未達であるとして、まともな説明もしないまま解雇にいたったのである。判決は更生計画で定めた人員削減数を絶対視して、必要性を無条件に肯定している。
(2)稲盛証言を無視する姿勢
特筆すべきは、当時の会長職にあった稲盛和夫証言である。証言では「その時の会社の収支状況からいけば、誰が考えても、それは雇用を続けることは不可能ではないということが分かるでしょうね」と解雇回避が可能であったことを認めていたのである。にもかかわらずパイロット判決ではこの証言を無視し、客室乗務員判決においては、「苦渋の決断としてやむなく整理解雇を選択せざるを得なかったことに対する主観的心情を吐露したに過ぎない」として歪曲してのけたのである。
(3)回避努力の形骸化
また会社更生には、労働者の協力が不可欠であるにもかかわらず、組合が解雇回避措置として提案した、ワークシェア、一時帰休、無給休職、転籍、出向なども被告は検討しなかった。この点について判決は、原告の主張を検討せずに在籍社員数に代わりがないことを理由にして被告の行為を肯定し、回避努力を形骸化させている。
(4)人選基準の不合理
私たちは、人選基準の合理性について、病気欠勤や休職したものを解雇したり、年齢の高い者から解雇するという基準には合理性などなく、こうした乱暴な解雇を行うことが現場に残された乗務員等に悪影響をあたえ結果として、JALの安全運航体制は揺らいでしまうと主張した。
しかし、両判決ともに人選基準の合理性の判断では「病気欠勤や休職したものを解雇する基準」と「年齢の高いものから解雇する基準」について、いずれも使用者の恣意の入る余地がない客観的基準であるとした。そして、安全運航に与える影響については、「運航の安全確保に必要な知識や経験の多寡が年齢と相関関係にあると認めるだけの根拠はない」、「安全運航に支障を来たすとするには論理に飛躍がある」として安全にたいしての見識のなさまで暴露したのである。
2 解雇後の職場の状況
事業再生を行うにおいて、一番重要でまた難しいのは労働者の意識を変えることであるといわれている。再生するJALにおいても、労働者の意識改革を行うために、経営の神様と呼ばれた稲盛氏を招聘し意識改革教育が持ち込まれた。
この意識改革はJALフィロソフィーとよばれ、全社員にフィロソフィー手帳を配布し携帯を義務付け、社内研修が1年に4日間という日程で、徹底したコスト管理と部門別採算性の教育がたたきこまれている。
パイロットや客室乗務員は、これまでコスト管理の観点はなかったわけではなく、それ以上に安全運航を遂行するための不断の努力が求められていたのである。しかし、意識改革が進むにつれ、パイロットの中には、いかに燃料を節約するのかが目的化され、台風を避けずに突っ切って飛行する機長も現れたりしている。また、出発前の飛行機の外部を点検する際に、機長が転倒し骨折をしたにもかかわらず、そのまま運航してしまった事実も発覚している。不安全な事象はこれだけにとどまらず、客室乗務員の職場においても安全が置き去りにされ、着陸時にベルトもせずに立ったままの状態であったり、機内サービス用品が格納されているカートとよばれるワゴンが離陸中に客室に飛び出したりもしている。
これらのことは、国会でも問題にされて、ようやくJALは重い腰をあげてこの4月から安全キャンペーンなるものを始めたのである。私たちが、ベテランのパイロットと客室乗務員を整理解雇して、意識改革を行った結果がこうした不安全事例の引き金になっていると指摘したことにたいして、パイロット判決で「想定し難い」とした判断の不見識さには、驚かされるものである。
3 今後の課題
判決後には、国民支援共闘会議主催の総決起集会、原告団主催の院内集会が開催された。そこでは、判決へ大きな怒りが表され、もはや個人の問題ではなく、社会の問題、文化としての問題であると考えて連帯が呼びかけられた。
さらに日本の労働者にかかわる非常に重要な問題でもあり、労働者の人権を軽視する判決を跳ね返し、国民的な運動として発展させていく決議もなされた。
これらを追い風にして、私たち原告団は4月11日に控訴し、新しい国民的運動とともにJALの安全と公正な判決を求めなければならない。