弁護士 中 村 里 香
JMIU津田電気計器支部の岡田茂組合員が、高年法に基づく継続雇用を争った訴訟で、最高裁で地位確認等を認められる勝訴判決を獲得したことは、記憶にも新しいと思われる。
2月21日、同支部に関連して、大阪府労委でほぼ「完勝」と評価できる勝利命令が出された。高年法下において、継続雇用を命じる労働委員会命令は、まだ他に例がない。この勝利命令について、ここに報告する。
1 はじめに
本件の申立人は、JMIU大阪地本、及びその津田電気計器支部、また、植田修平組合員及び中田義直組合員である。
会社は、活発に組合活動を行ってきた両組合員に対し、植田組合員については「マイナス81.95点」、中田組合員については「マイナス15点」という、著しい低査定を行い、継続雇用規程における基準点(「0点」で継続雇用可とされる)を満たしていないとして、相次いで継続雇用を拒否した。これら低査定についても、会社の不当労働行為意思に基づく不当な査定であることが明確に認定された結果、それぞれ、「プラス6.05点」「プラス34点」と認定された。
査定につき、岡田組合員が継続雇用を争った裁判における高裁判決では、選別基準を満たしているかは使用者側に立証責任があるとされる。しかし、一般に、使用者による査定には広汎な裁量が認められがちであり、加えて、査定資料も使用者側に偏在していることから、実際上、労働者が査定の点数を争うことには大きな困難を伴う。
最高裁で勝利した岡田組合員の事件においては、当初の査定点数は「マイナス4点」とされ、上記2組合員よりは上回っていた。それでも、事実関係を詳細に主張するとともに大量の書証を集めて提出し、査定点数を1点2点と積み上げ、何とか基準点を勝ち取ることができた。すなわち、岡田組合員は勝利したが、この勝利は、選別基準となる査定点数である0点をクリアしていることが大前提となってのものである。
本件の申立人である両組合員の点数は、上記のとおり岡田組合員よりも低く、特に植田組合員についてはマイナス81点を下回るという異常な点数とされていたため、きわめて厳しいたたかいが予想された。
本件は、そのような中で、使用者による査定について「大逆転」を勝ち取り、高年法下における地位確認等を認めた、まさに画期的な勝利命令であることを改めて強調しておきたい。
また、本件においては、支部の結成以来、申立人らを含む組合員らが活発に組合活動を行い、これに対して、会社により連綿と不当労働行為が繰り返されてきたという歴史がある。組合員らは、不当な攻撃に屈することなく、過去に数多くの救済申立てや法廷闘争を行い、会社による攻撃が不当労働行為であるとの認定を勝ち取ってきた。そのため、労働委員会においては、組合がこれまで獲得してきた勝利命令などの成果を余すところなく主張立証し、公益委員の心証を引き寄せることができた。過去の数々の勝利が、本件の大きな勝因となったことは間違いない。
2 事案の概要
会社は、昭和49年の支部結成当初から、組合員らに対し、数々の不当労働行為を繰り返し、労使間には緊張関係が続いていた。
そのような中で、会社は、非組合員については全員を継続雇用する一方、最後に残った3名の組合員に対し、相次いで低査定を理由に継続雇用を拒否するという攻撃に出た。上記の岡田組合員の件を皮切りに、平成21年10月には植田組合員の継続雇用を、平成23年3月には、中田組合員の継続雇用をそれぞれ拒否した。
本件は、会社が両名の継続雇用を拒否したこと、及び、植田組合員の継続雇用に関する団交を拒否したことがそれぞれ不当労働行為に当たるとして、同人らが救済申立てを行った事案である。
本件の主な争点は、①両組合員に対する継続雇用拒否が不当労働行為に当たるか、②本件団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たるか、の2点であった。
3 命令の概要
命令は、まず、①について、会社により連綿と行われてきた、数々の過去の不当労働行為を詳細に認定している。そして、両組合員を、いずれも支部発足以来、支部の組合活動の中心的人物であったこと、また、会社における労使関係が長期間にわたり対立状況にあり、会社の組合に対する対応に不適切な点がみられ、本件においては組合嫌悪意思が推認されうる状況であったとする。
その上で、会社が組合員排除の道具として用いた「査定」についても、「会社の継続雇用の可否にかかる査定の運用は、杜撰な点があり、公平性や透明性の点で高い水準にあるとは、到底認められず、恣意が入る危険性のある状態であった」と明確に述べている。
これを前提として、両組合員の査定についても、非組合員、特に継続雇用が認められた2名の非組合員と比較し、詳細に検討を行っている。査定項目は多岐にわたるが、多くの項目において、両組合員に対する低査定の根拠が疎明されていないとされ、「正当な理由があったものではなく、組合員であること等を理由にしたもの」と認定されている。
また、両組合員による始末書の提出が懲戒実績に当たるとする相手方の主張については、明確に斥けられている。始末書に関していうと、「組合員のみに責任があるといえない事項や、非組合員が同様のことを行った場合には問題にしないような事項について、(組合員には)始末書の提出を求めた」と認定され、組合員の始末書の提出回数が多いことをもって、精度の低い仕事をしていたとみることは適当でないとされた。
このように、本件の柱である①の点について、会社による査定を大きく覆すことができたのは、両組合員が長年、仕事に誇りを持ち、会社に貢献してきたからにほかならない。審理の過程で、両組合員が長年会社において上げてきた実績や成果については、書証や尋問に基づいて詳細に明らかにされた。これに対し、会社側は、低査定の根拠としてきわめて薄弱なものしか示すことができなかったのである。
また、冒頭にも書いたように、会社の不当労働行為意思が明確に認定されたのは、これまでに何度も、労働委員会や法廷において、組合・組合員が勝利を重ねてきたという歴史によるところがきわめて大きい。本件は、これまでの成果を礎として、価値ある勝利がさらに積み重ねられたものということができよう。
②の点については、組合が、査定を継続雇用の可否の判断に使用するとの会社の方針に反対し、査定帳票への押印はしないとの態度を取っていたとしても、会社が団交において、植田組合員の継続雇用について、説明協議を行う義務を免れるものではないと判断している。また、組合員が訴訟を提起し、または提起する可能性が高いことも、団交に応じるべき義務を免れる理由とならないことについても明確に述べ、不当労働行為であることを認定している。
このように、本件は、継続雇用拒否及び団交拒否について、ともに不当労働行為性が明確に認定され、両組合員の地位確認等を認めるとともに、会社に対しポストノーティスが命じられている。ほぼ「完全勝利命令」と評価してよいものであろう。
4 おわりに
本件は、平成22年11月に植田組合員の件について申立てを行ってからここまで長期間を要したが、毎回多くの傍聴支援者に恵まれ、岡田組合員の最高裁勝利判決に続き、勝利命令を得ることができた。
会社が組合攻撃の総仕上げとして、組合員のみを相次いで継続雇用拒否を行っていることが明確に認定されたことは、府労委のみならず、今後の法廷闘争にとっても大きな価値がある。中田組合員の地位確認等請求訴訟など、いくつも並行している「津田電気計器事件」に、今後も引き続きご注目いただければ幸いである。
(弁護団は、鎌田幸夫、谷真介、中村里香)