民主法律時報

立正運送解雇事件 仮処分和解・本訴の提起

弁護士 脇 山 美 春

1 立正運送株式会社とは

立正運送株式会社(以下「立正運送」とする)は、高圧ガスのタンクローリー事業を営む貨物運送会社です。

同社の社長である榎氏は、夜間、建交労組合員が泊まり込んでいる組合事務所に重機を乗り入れさせ、組合事務所を潰すという実力行使までしたことがあるほど、労働組合が嫌いです。榎氏による悪質な組合つぶしの結果、立正運送堺営業所には、建交労の組合員は1人しかおらず、ほかには「御用組合」しかない状態になっていました。

2 たたかう組合の結成とそれに協力する管理職

立正運送堺営業所の運転手は、常時長時間運行を強いられており、法令違反の過積載での運行も強いられ、月200時間を超える時間外労働を強いられる運転手もいました。

原告Aは労働環境改善のため、2020年4月、16名の従業員と共に「立正運送堺労働組合(以下、単に「本件組合」とします)」を結成し、組合執行委員長に就任しました。本件組合は積極的に団体交渉を行い、労働環境の改善を訴えてきました。本件組合は、一時運転手の過半数が本件組合の組合員になるまでに成長しました。

原告Bは、堺営業所では所長に次ぐ2番目のポストである次長職にあります。原告Bもまた、上記違法・過酷な就労環境は問題だと考え、所長や荷主に待遇の改善を何度も訴えてきましたが、まったく改善の見込みはありませんでした。

そこで原告Aと原告Bは、協力して労働局等の公的機関に、法令違反状態の働き方が常態化していることを申告することにしました。

3 解雇に至る経過

(1) 原告Bの左遷
原告Aと原告Bは、2021年5月25日に労働局等に申告をし、2021年6月1日、労働局が立正運送堺営業所に立ち入り調査を行いました。

すると同年6月中旬、榎氏は原告Bを社長室に呼び出し、東京営業所への転勤を命じました。

原告Bの転勤は、労働局の立入調査の発端となったデータは管理職である原告Bが提供したに違いないとする立正運送・榎氏の犯人捜しの結果であり、会社に歯向かうものへの見せしめとして行われた左遷です。

(2) 原告らの追放
上記立入調査を受けても、立正運送堺営業所の労働環境の改善は不十分でした。そこで原告らは再度堺労働基準監督署に相談をし、2021年10月11日、再び立入調査が実施されました。

その後2022年2月21日、榎氏はわざわざ東京営業所を訪れ、原告Bを呼び出し「君が堺営業所で使っていたパソコンから、情報漏洩にあたるファイルが出てきた」「会社は刑事告訴の用意がある」等と言ったうえ、即日自主退職か、懲戒解雇かの選択を迫りました。原告Bは、刑事告訴を恐れて退職届を提出しました。

同年4月1日、原告Aは社長室に呼び出され、榎氏より「(君のしたことは)個人情報保護法に違反する」「君が行った不法行為と断定し、今日付けで解雇する」等と言われ即日解雇されました。

(3) 原告らの解雇・退職強要が違法・無効であること
原告Aに対する解雇は、労働局などに対して行った公益通報に対する報復ですので、公益通報保護法3条により無効です。また、解雇の客観的合理的な理由もありませんので、労働契約法16条より無効です。

何よりも、原告Aに対する解雇の真の目的は、組合嫌いの榎氏が、積極的な組合活動をする本件組合の執行委員長である原告Aを、今回の労働局などへの申告を契機として職場から追放することです。したがって、原告Aの解雇は、不利益取扱・支配介入(労組法7条1項1号・3号)であって無効です。

原告Bに対する退職強要は、強迫であり、かつ原告Bの意思表示は、錯誤によるものですから、民法95、96条より取消の対象となり、既に取消の意思を表示しています(注:弁護士の皆様。民法改正により、錯誤は無効原因でなく、取消原因です)。

なお、原告Bに対する退職強要も、本件組合の組合活動に、次長職の立場でありながら協力したことが榎氏の癪に障ったのが原因であることは、経過から明らかです。

3 仮処分での勝利的和解

2022年5月、原告らは当職及び平山正和弁護士を代理人として、賃金仮払の仮処分を申し立てました(担当:大阪地裁第5民事部の窪田俊秀裁判官)。

審理の中では、原告Aの賃金体系、原告Bへの強迫・錯誤の事実の立証の程度等が争点となり、最終盤には、裁判官が、連日にわたって当事者双方に電話をかけるなど積極的な和解勧試を行いました。同年10月7日、1年間、立証運送が原告らに対し、これまで受領してきた給料の金額に近い金員を支払う内容で和解が成立しました。

1年間の期間制限の理由について、裁判官は「既に主張立証が尽くされているので、本案の解決も相当早いだろうから」と説明しています。

4 本訴の提起

裁判官からの熱いエール(?)をうけ、本年10月31日、原告らは、立正運送を被告として、労働契約上の地位を確認する訴えを起こし、合わせて、組合つぶしを目的とした悪質な解雇・退職強要を主導した榎氏に対する損害賠償請求の訴えを起こしています。

執行委員長が職場にいないために元気を失っている本件組合に再び活気を取り戻してもらうためにも、裁判内外で様々に取り組んでいきたいです。

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