民主法律時報

「3歳の壁」をなくす実効性ある育休法改正を!!―京阪ステーションマネジメント配転命令無効確認事件 訴外で和解

弁護士 西川 大史

1 はじめに

夜間などの不規則勤務を含む業務への配転命令を受け、育児との両立ができなくなり休職に追い込まれた女性が、勤務先である京阪電鉄の子会社である京阪ステーションマネジメントに対し、配転命令の無効確認を求める仮処分を大阪地裁に申し立てたことについて、民主法律2015年3月号でご報告しました。今般、会社と訴外での和解が成立しましたので、ご報告します。

2 仮処分申立に至る経過

A子さんは2011年に2人目の子どもを出産しました。2012年5月に産前産後休業・育児休職から復帰して、育児短時間勤務として本社で事務職などの勤務をしていました。
ところが、会社は、2014年10月に、子どもが3歳を迎えたことに伴い、A子さんの育児短時間勤務を終了させて駅改札業務への配転を命じました。配転後の勤務時間は、午前8時から午後9時45分までのうち8時間勤務という不規則勤務であり、子どもらの保育園への送迎ができなくなります。A子さんは夫婦で時間調整しましたが、夫も早朝勤務や深夜勤務があり、保育園への送迎ができない日が出てきます。

A子さんは、会社に、勤務時間の配慮や配転命令の撤回を求めましたが、男性管理職から、「皆、事情抱えてるやん、そんなん。あなたの都合で勤務できへん」、「個人的な事情で特別に便宜図るいうのは無理やわ」、「家庭の事情は色々ある、僕は両親の介護のために嫁さんに会社辞めさせましたよ」、「(子ども持ちながら働くの)難しいな。うちの嫁はんも辞めやったけどな」、「今はそういう世の中や」などと言われ、勤務シフトの変更には応じてもらえませんでした。

そこで、A子さんは、当職らに相談に来られ、2014年11月から会社と交渉を開始し、大阪労働局の雇用均等室にも紛争解決援助を求めて相談に行きました。しかし、会社は、勤務時間帯の改善には応じないという姿勢を崩しませんでした。また、労働局の雇用均等室に至っては、育児介護休業法が3歳以上の子を養育するに労働者への措置として使用者に課しているのはあくまでも「努力義務」であり、会社が努力しているといえばそれ以上のことは言えないなどと、会社の代弁者のような応対に終始しました。
そこで、A子さんは、配転命令の無効確認を求めて仮処分申立に踏み切りました。

3 訴外での和解

裁判所は、第1回審尋期日から和解を勧試しましたが、A子さんに対して「何とか保育園の送迎できませんかね」などと問うなど、解決に向けて積極的に対応する姿勢ではありませんでした。
我々としては、裁判所での法的な主張のみならず、社会全体に向けてのアピールが重要だと考え、A子さんのマタハラネットでの記者会見や、各メディアへの取材要請など、さまざまなアピールをしてきました。また、他の電鉄会社では、3歳以上の子どもを養育する労働者に対しても、さまざまな配慮をおこなっていたことから、京阪グループの努力がいかに不十分であるかについても訴えてきました。

そのような中、会社から訴外での和解申し入れがあり、その内容は、①A子さんが平成28年4月より復職すること、②会社が、育児・介護により早朝及び夜間における勤務が困難となる労働者を対象とする新たな勤務シフトの導入に向けての協議を開始するというものです。
A子さんにとってはけっして十分な合意内容ではなかったのですが、A子さんの復職が叶うことや、会社が制度を導入することの意義、さらには育児と労働が両立する社会の実現の一助になればとの思いから、2016年2月1日に会社と合意をすることとなりました。

4 さいごに

育児介護休業法は、3歳未満の子を養育する労働者に対して所定労働時間の短縮措置等を講じなければならない法的義務を課していますが、3歳以上の子を養育する労働者に対しては、努力義務を定めるのみです。いわゆる「3歳の壁」があります。
厚生労働省の調査によれば、育休法の規定に従い、育児のための所定労働時間の短縮措置等の制度を導入している企業は約6割にとどまります。また、育休法の規定をこえて、3歳以上の子どもを養育する労働者に対して所定労働時間の短縮措置等を講じている企業は、そのうちの約6割とのことです。
A子さんのように、子どもが3歳に達した途端、会社が所定労働時間どおりの通常労働を命じることは多いでしょうが、子どもをもつ労働者にとっては事実上の退職勧奨でもあり、「マタハラの進化系」でもあります。
この「3歳の壁」が取っ払われ、実効性のある育児介護休業法の改正こそが女性の社会進出、育児と労働の両立に不可欠です。この裁判が育児介護休業法改正の一助になればと強く願います。

(代理人は、有村とく子弁護士と当職です)

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