民主法律時報

画期的な一審判決と高裁での完全勝利和解──和歌山介護老人施設職員過労死事件

弁護士 岩城  穣

1 事案の概要

和歌山県の広川町の介護老人福祉施設で勤務していた男性職員のS氏(死亡当時49歳)は、残業中の平成22年10月6日に職場でクモ膜下出欠を発症し、同月13日に死亡。
経営主体の社会福祉法人Hは長年保育園を経営してきたが、この介護老人福祉施設を皮切りに、短期間の間にデイサービスセンター、ケアハウス、グループホームなどを次々に開設していった。S氏はこの介護老人施設の開業準備段階から、実質的な事務責任者として経理や庶務、宿直などあらゆる事務作業を行ってきたが、施設が増えていくに連れて業務量が増大し、倒れる1年くらい前からは、朝8時過ぎに出勤し、夜遅いときは12時頃に帰宅する毎日で、休日は日曜日のみであった。そこに、平成21年11月と平成22年2月にベテランの女性事務員2人が退職し、適切な人員の補充がされなかったため、S氏の業務は一気に増大し、発症前4か月間の時間外労働時間は4か月連続して100時間を超え、多い月は129時間  分に達していた。
妻のKさんは御坊労基署に労災申請したところ、平成23年6月、業務上の認定がなされたが、法人と理事長、施設長は交渉に誠実に応じようとしなかったため、Kさんと3人の子が原告となり、これらを被告として和歌山地裁に損害賠償請求訴訟を提起した。

2 画期的な和歌山地裁判決

1審の和歌山地裁平成27年8月10日判決は、S氏の業務の過重性とクモ膜下出血との相当因果関係を認めたうえで、(1)被告の①S氏は労基法  条2号の管理監督者であった、②S氏は健康診断で脂質異常を指摘されていた、③S氏は相当程度の飲酒と喫煙を続けていたことを理由とする過失相殺の主張をすべて排斥し、過失相殺ゼロとするとともに、(2)原告側の主張を容れ、逸失利益の計算にあたって、未払残業代のうち、過労死の労災認定基準において「業務と発症の関連性が弱い」とされている1か月当たり  時間の時間外労働を継続することができたと考えるのが合理的であるとして、1か月当たり45時間分の限度で時間外手当を基礎収入に含めたのである。
後者の(2)については前例がなく、今後の参考になると思われる。

3 控訴審での完全勝利和解

被告らは控訴して争ったが、控訴審である大阪高裁において、平成28年2月29 日、①1審の認容金額を上回る解決金の支払と、②原告らへの謝罪と和解内容の施設内掲示などを内容とする和解が成立した。

4 Kさんの頑張りと過労死防止法の制定

Kさんは、労災申請とほぼ同時に「大阪過労死を考える家族の会」に入会し、平成23年秋から始まった「過労死防止基本法」制定の取り組みにも積極的に参加するようになった。たくさんの署名を集め、院内集会で法律制定を国会議員らに訴えるとともに、地元の弁護士や県会議員らの協力も得て、和歌山県議会、和歌山市議会、有田川町議会の3つで「過労死防止基本法の制定を求める意見書」の採択を実現させた(これは地元で大きく報道された。)。そして、平成24年6月に過労死等防止対策推進法(過労死防止法)の成立後は過労死防止全国センター及び過労死防止大阪センターの幹事、さらに平成27 年4月からは大阪過労死家族の会の代表に就任した。今回、自分の事件が解決したことから、今後は広く過労死の救済と予防の活動に積極的に関与していきたいと話している。
弁護団にとっては、この事件の勝利のみならず、Kさんと一緒に過労死防止の活動に取り組み、これからも関わっていけるということも、本当に嬉しい。なお、弁護団は、林裕悟、舟木和弘(いずれも大阪弁護士会)と私である。

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