民主法律時報

百数十日に及ぶ職場占拠を伴うストライキに争議行為の正当性を認めた事例~きょうとユニオンiWAi分会(仮処分)事件

弁護士 塩見 卓也

 現在、京都市山科区では、160日以上(2016年2月22日時点で169日)にわたり職場占拠を伴うストライキを継続している労働争議が行われている。その争議に関し、大阪高裁において、争議行為の正当性を正面から認める決定が出されたので、報告する。

 事案は以下のとおりである。京都の廃棄物処理業者の社長が廃棄物処理法違反で2015年5月に逮捕された。そのことで、京都市から事業許可を取り消されるおそれが強まり、従業員に雇用不安が拡がったため、従業員15名が地域労組である「きょうとユニオン」に加入し、職場で分会を結成し、8月に雇用維持と残業代支払い、仮に雇用維持が困難となった場合には退職金を支払うことなどを求め、団交を2回行った。団交で社長は、従業員を解雇せざるを得なくなった場合の退職金支払約束の誓約書に署名し、少なくとも10月度までは賃金支払を保障すること、残業代を支払うようにすることなどを内容とする労働協約も、会社側社労士も在席する中で締結された。その余の交渉事項は、9月に継続交渉することになった。

しかし、9月5日、社長は「体調不良」を理由に雲隠れし、組合に対し団交拒否及び労働協約等の破棄を通告した。
そこで組合は、9月7日、スト権行使通告の上、職場占拠(社長の出入りは拒んでいない職場滞留)を伴うストライキに入った。
このストライキ突入直後あたりから、私はきょうとユニオンから本件についての相談を受けるようになった。

 それに対し会社は、9月11日、京都地裁に社屋への立入禁止等を求める仮処分を申し立てた。さらに同日中に、事業許可取消を理由に組合員に対し解雇通知文を送付した。9月14日、京都市は、会社の事業許可を取消した。
9月15日、上記仮処分の申立書と、仮処分審尋期日の呼出状が組合に届いた。呼出状には、審尋期日は2日後の17日と指定されていた。組合に対しほとんど準備期間を与えない期日指定であり、この時点では、京都地裁は仮処分を認める決定を出すつもりだったのではないかと思われる。

私は、組合から15日の深夜に電子メールでこの呼出状が届いたことの連絡を受けた。私は17日の審尋期日に出席するのはスケジュール上無理だったが、とにかく審尋期日までにやれることはやらなければならないと思い、翌16日の午前に組合との打合せを入れることにした。
打合せでは、2度の団体交渉や会社からの説明会については、全て録音が残っており、第1回団交については映像も残っているということを聞いた。しかし、1日ではこれらの反訳等を準備している時間がない。証拠に基づく詳細な認否・主張は間に合わないので、私は、答弁書では事実経緯と主張の主要部分のみを述べ、裁判所に対し改めて第2回審尋期日を指定し、詳細な認否・反論を行う機会を与えることを求めることにした。16日夜は徹夜で、事業継続が不可能となるおそれが生じ雇用不安が拡がったことについてもっぱら会社経営者の落ち度であること、組合側の要求事項は使用者側の落ち度で雇用不安が生じた状況では当たり前の内容であること、2度の団体交渉は至って通常の団体交渉であったこと、それら団体交渉を通じて労使間で協約が締結され、退職金支払いが約束されたこと、にもかかわらず会社が協約や約束を一方的に破棄し団交拒否を通告したこと、会社に交渉継続させ締結済みの協約等を守らせるために争議行為を行うことはやむを得ない状況であることを述べ、この状況での組合の争議権行使は憲法  条で保障された当然の権利行使であり、それに付随して職場に滞留することも憲法で保障された争議権の範囲内であるという筋道を述べる答弁書を作成した。さらに、会社の事業許可が既に取り消されているから、保全の必要性もない旨を主張した。

9月17日、仮処分審尋期日では、私が出席できないまま、組合員のみ出席で開催された。裁判所からは、第2回審尋期日は開かないものの、10月9日までを期限に、双方の追加主張を出すという訴訟指揮が行われ、この日の期日は終わった。徹夜で頑張った甲斐あり、ひとまずはすぐに打ち切られて仮処分を出されることは避けることができた。

 10月9日、仮処分手続に、組合、会社の双方が主張書面を提出した。この主張書面においては、2回の団交や会社説明会の録音反訳や団交の映像などを証拠提出し、8月31日までは通常の労使交渉が行われていたにもかかわらず、会社側がそれまでの積み重ねを一方的に破棄し団交拒否していることを十分に立証できた。
京都地裁は、10月16日、「営業許可が取り消されている状況では保全の必要性が認められない」との理由による却下決定を出した。

しかし、10月27日、会社側は仮処分の却下決定に対し即時抗告した。会社側は、抗告審に入ってから、この会社が廃棄物処理事業者であったことから、会社の事業は「公益事業」であり、組合がストライキに入るためには労調法37条1項に基づく10 日前までの労働委員会に対する通知をすべきところ、それを怠っているので違法ストであるという主張を追加した。即時抗告答弁書では、この論点に対する反論も書く必要があった。

この論点は、仮に通知義務違反があったとしても、労調法37条1項が公益事業において争議行為を行う当事者に予告義務を課すことの趣旨は、公衆の不利益の軽減という政策目的に基づく技術的制限にすぎないから、予告義務に違反する争議行為も一般的な民事・刑事免責を失わず、使用者との関係ではスト突入と同時に通告していれば違法とならないというのが労働法学上の通説だといえる(西谷敏『労働組合法』第3版410頁)。しかし、昭和30年代の判決では反対説に立ったものもあることや、近年はそもそもストライキ自体が珍しいためこの論点についての先例に乏しいことから、どう書くか悩ましいところだった。

私は、原爆症訴訟の弁護団会議のため民法協事務所にいた際に、事務所内に置いてある集団的労働法に関する文献をあさった。そこで、『労使関係―労働委員会・裁判所―協議資料』(1974年、公報資料センター)という、昭和40年代において、最高裁及び高裁、地裁のそれぞれから裁判官、地労委及び中労委のそれぞれから労働委員会公益委員の参加の下に開催されていた、「裁判所と労働委員会との連絡協議会」の議論内容を収録した本を発見した。この本では、1969(昭和44)年7月に大阪で開催された協議会において、この論点につき議論されたことが記録され、最高裁裁判官らも上記通説を支持している旨の発言が収録されていた。
これらの記録も証拠として提出し、使用者との関係で労調法の通知義務は問題にならないと主張する内容で、12月18日、仮処分事件の即時抗告答弁書を提出した。

 そして、年が明けた2016年2月8日、大阪高裁から仮処分事件の抗告棄却決定が出た。
この決定では、京都地裁が争議行為の正当性については判断せず保全の必要性の問題で仮処分申立を却下したのに対し、「抗告人代表者…と連絡が取れない状況下において、抗告人に対し、それまでの間行われてきた労働条件を含む退職金等についての話し合いを目的とする団体交渉を引き続き求めるためにやむを得ない手段であると評価することができ…本件不動産における職場滞留が争議行為として直ちに正当性を欠くということはできない」と、争議行為の正当性につき正面から論じた上で、その正当性を認めた。

また、労調法37条1項の論点については、通説に従い通知義務違反があったとしても使用者との間では争議行為の正当性を欠くことにはならないと判示した。この点の判断は、本格的なストライキ闘争が極めて少なくなっている現在において、改めて通説の立場が確認されたという点で意味があるのではないかと思われる。

 ストライキは現在も継続中である。今回の決定は、長きにわたり職場に居座って闘い続けている組合員を非常に強く勇気づけるものといえる。
今後については、組合側から京都府労働委員会に不当労働行為救済命令申立を行うなど、さらなる積極的な闘争を行うことを準備している。終局的な勝利に向けて頑張っていきたい。

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