民主法律時報

ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟 全員勝訴

弁護士 豊 島 達 哉

1 全員勝訴
 2013年8月2日、大阪地方裁判所第2民事部(山田明裁判長。西田隆裕裁判長代読)は、ノーモアヒバクシャ近畿訴訟判決において、未認定原告8名全員の却下処分を取り消す判決をしました。

2 ノーモア・ヒバクシャ訴訟までの経緯
 2003年から全国の裁判所で被爆者が自己の疾病が原爆放射線に起因するものであると国に求める「原爆症認定集団訴訟」が行われ、合計29回の判決が下されましたが、いずれも国(厚生労働大臣)の認定行政の誤りを指摘する国側敗訴の判決でした。
 国はこの集団訴訟の結果を無視できなくなり、2008年には「新しい審査の方針」を策定しました。新しい審査の方針の内容は、一定の距離内(3.5キロメートル)で被爆した者や、原爆が投下された後、一定の時間内に爆心地近くに立ち入った者についてのガンなどの疾病は積極的に原爆症を認定するというもので、積極認定に該当しない場合であっても、申請者の状況を総合的に勘案して認定するという内容でした。
 この新しい方針は、①積極認定として列挙された疾病の種類が限られており、また②心筋梗塞や、甲状腺機能低下症、白内障、肝炎等については積極認定とするものの、「放射線起因性が認められるもの」という余計な条件が記載されているという問題がありました。
 しかし爆心地から2キロメートル程度離れて被爆しても、たいして放射線はあびていないとか、原爆投下直後、爆心地に立ち入ったとしてもほとんど放射線被曝はないとし、原告らの疾病をことごとく原爆放射線被曝に起因しないと主張していた国の態度からは明らかに前進した内容でありました。また、2009年8月6日には当時の麻生首相と被団協との間で、集団訴訟終結の合意(8・6合意)がなされ、集団訴訟は終結をしました。
 今後は新しい審査の方針により、相当数の被爆者が迅速に認定されることが期待されていたのです。
 ところが8・6合意後も、認定行政は大きく変わることはありませんでした。爆心地から3.5キロメートル以内で被爆した者のガンについては、さすがに国は認定をするものの、3.5キロメートルから少しでも距離があるところで被爆した者については、総合勘案するまでもなく機械的に却下し、3.5キロメートル内であっても、甲状腺機能低下症・心筋梗塞・肝炎は放射線起因性がないとして、ほとんどの申請を却下したのです。
 集団訴訟終結後も司法判断を守ろうとしない国・厚生労働大臣に対し、司法判断を遵守して被爆者の疾病を原爆症として認定することを求める訴訟が再び近畿を中心として起こり始めました。私たちは集団訴訟と区別して、これらの訴訟をノーモア・ヒバクシャ訴訟と呼んでいます。

3 ノーモアヒバクシャ訴訟における国の態度
 ノーモア・ヒバクシャ訴訟は国が29回連敗した集団訴訟を前提として新たに起こされた訴訟ですが、国の主張はなんら変わっていませんでした。相変わらず原告らの受けた放射線量は低く、原告らの疾病は放射線に起因しないというものでした。
 国の被曝線量評価体系は、一定の科学的な裏付けはあるが、それと矛盾する事実も存在するのであって、被曝線量が低く評価されるからと言って、機械的にそれを適用するべきではなく、被爆状況や、その後の健康状態、申請疾病の内容を総合的に勘案して認定するべきとして、集団訴訟全ての判決が認定行政そのものを断罪してきたにもかかわらず、国の態度は全く変わっていないのです。

4 今回の判決について
 今回の大阪地裁判決は、今までの集団訴訟の内容を踏襲するもので、国の用いる被曝線量評価体系はあくまで推定値であり、また基礎とした測定の精度にも問題があるのだから、一定の限界があることを留意しなければならないこと、初期放射線の過小評価、内部被曝の影響を考慮していない点等の問題点があることを指摘し、認定に当たっては被爆状況、被爆後の行動、活動内容、被爆後に生じた症状等に照らし、様々な形態での外部被曝・内部被曝の可能性がないかどうか十分に検討しなければならないとしました。
 そしてとりわけて重要であるのは、狭心症や心筋梗塞について、放射線被爆との間に関連性があることを認めた上で、しきい値(その値以下の線量であれば、被爆の影響はないとするもの。つまり低線量被爆であれば、起因性は認められないとの考え方)は存在しないと考えるのが合理的だと認めたことです。
 被告国は控訴を断念しました。9月中旬を過ぎた今、判決の結果を受けて、原爆症認定の通知が原告らの手元に届き始めています。
 原告らはヒバクシャであり、高齢であり、そして原爆症と認定されるべき疾病に罹患している方々です。苦しい中、立派に裁判を闘いぬき、原爆症の認定を自らかちとられました。喜びもひとしおでしょう。

5 ノーモアヒバクシャ訴訟の今後
 ノーモア・ヒバクシャ訴訟近畿訴訟は勿論今回の訴訟で終わったものではありません。現在京都・大阪・兵庫・奈良の原告合計  名が、大阪地裁第2民事部、第7民事部に分かれて審理が行われています。年内にも2つのグループの原告らが結審を迎えます。
 原告らはいずれも、集団訴訟で集積された司法判断の基準からすれば認定されるべき方々です。私たちはこれからも訴訟が続く限り勝訴を続けていくつもりです。しかし根本的解決は国の被爆者行政を変えることにあります。また、被爆者の要求は自分たちが原爆症と認められることのみで満たされるものではありません。
 第一に国は被爆者が奪われたいのち、くらし、人生すべてに対して全面的な国家補償として責任をとるべきです。
 第二に放射線被爆の被害のない社会を築くこと。とりわけ福島原発事故により起こり、今後も予測される放射線被害の拡大を未然に防ぐため、国は最大限の手立てを尽くすべきです。
 第三に国は核兵器が人類に何をもたらすかを世界に訴え、核兵器禁止条約を率先して実現することが求められます。
 上記の要求の実現のため裁判内外でこれからも奮闘する決意です。

民主法律時報アーカイブ

アーカイブ
PAGE TOP