民主法律時報

橋下市長の団結権侵害を断罪――組合事務所明渡訴訟勝利報告

弁護士 喜 田 崇 之

第1 はじめに

 大阪市役所労働組合(市労組)・大阪市労働組合総連合(市労組連)が大阪市役所本庁舎地下1階の行政財産を組合事務所として使用する許可を申請したのに、大阪市がこれを許可しなかったのは違法であるとして、同処分取消・使用許可義務付け及び国家賠償法に基づく損害賠償を求めていた訴訟で、大阪地裁(中垣内健治裁判長)は、9月10日、橋下市長による団結権侵害の意図を認め、組合側全面勝訴の判決を言い渡した。
 弁護団は、豊川義明、大江洋一、城塚健之、河村学、増田尚、中西基、谷真介、喜田崇之、宮本亜紀(敬称略)である。

第2 判決の概要

 本判決は、丹念に事実関係を認定し、非常に論旨明解で、画期的な判断を下した素晴らしいものであり、ぜひ全文を読んでいただきたい。
 判決は、まず違法判断の枠組みについて、自治体労働組合が組合活動の拠点として組合事務所を庁舎内に設置する必要性を重視し、従来の裁量判断の枠組みを採用せず、施設管理者側の庁舎使用の必要性がどのように増大したか、職員の団結権等に及ぼす支障の有無、程度や施設管理者側の団結権を侵害する意図の有無等により、市長の裁量権に逸脱・濫用があるかどうかを判断すべきとした。
 その上で、橋下市長の言動を丁寧に認定し、「職員が加入している労働組合に対する便宜供与を一斉に廃止することにより、その活動に深刻な支障が生じ、ひいては職員の団結権等が侵害されることを認識していたことは明らかであって、むしろこれを侵害する意図をも有していたとみざるを得ない」と断罪した。
 また、大阪市の主張する不許可理由についても、スペース不足という主張は完全に排斥され、その必要性があったといえないと断言した。また労働組合が庁舎内で違法な政治活動を行うおそれを完全に払拭するという目的についても、指摘されていたのは交通局職員が交通局庁舎内で行っていたものであって、組合事務所が市庁舎内に存在することとの関連性はないとして、いずれも排斥した。
 さらに、橋下市長の意向で制定された労使関係条例12条について、「少なくとも同条例が適用されなければ違法とされる被告の行為を適法化するために適用される限りにおいて、明らかに職員の団結権を違法に侵害するものとして憲法28条又は労組法7条に違反して無効」であると述べ、適用違憲という画期的な判断を示した。

第3 判決当日及びその後の報告集会等の様子

 多くの支援者が見守る中、勝訴判決が下された。勝訴判決が下されると、涙を流す方も見られ、皆の奮闘で画期的な判決を勝ち取れたと喜びを分かち合った。新聞・テレビも、本判決を大きく取り上げ、橋下市長の強引な手法を批判する報道が並んだ。
 また、9月29日にも勝利報告集会が開催され、とりわけ、市労組や市労組連の奮闘はもちろん、大阪労連その他の組合らの支えがあり、組合事務所を退去することなく闘いを進めることができた大きな意義や、来るべき控訴審に向けてこれからも一致団結して闘い抜くことが確認され、素晴らしい集会となった。そして、これまでの運動の力で橋下市長の力を大きく削ぎ、反転攻勢の判決を勝ち取れたことに対し、皆が大きな自信と確信を得ることができた。

第4 控訴審に向けて

 橋下市長は、9月22日、本件判決を不服として、控訴した。
 橋下市長は、判決直後から、「選挙で選ばれた僕の判断が、単純に地方裁判所レベルで全否定されることはあってはならず、最終的には、最高裁判所に判断してもらう。」、「訴訟代理人の進め方が甘い。」等と発言し、判決で指摘された橋下市長の問題点を全く反省せず、さも自らの判断が正しかったようにアピールする政治的パフォーマンスを繰り返している。判決後の記者会見で市労組の竹村委員長が「正常な労使関係を築いてほしい。」と言っていたように、本来であれば、橋下市長は、本判決が断罪した問題点を真摯に受け止め、労使関係条例を含めてこれまでの方針を見直すべきことは言うまでもない。
 しかし、いずれにせよ、大阪市が控訴した以上、組合及び弁護団は、本判決を維持すべく、奮闘を継続する決意である。大阪府労働委員会での勝利に続き、本判決も橋下市長の団結権侵害を厳しく断罪したものであって、その判断が揺らぐことはないし、覆ることがあってはならない。橋下市長が、最高裁の判断を仰ぐというのであれば、最高裁で本判決を維持させるまでである。

第5 最後に

 それにしても、橋下市長が就任して以降、数多の訴訟、不当労働行為救済申立て等が起こされているが、今般、情報公開請求により取得した資料によれば、これらの事件で大阪市が負担した弁護士費用の総額は、現在のところ、着手金及び実費だけでなんと約3000万円にも及んでいる。
 税金の無駄遣いも甚だしい。橋下市長の政治的なパフォーマンスによって、これ以上公金が費やされることは許されてはならない。

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